「生体肝移植 - 京大チームの挑戦」(後藤正治:著 岩波新書)
評価:10点満点の9点(読んで損はない)
生体肝移植は、肝臓移植の一形態です。
この臓器移植の特殊な点は、移植される肝臓が
普通に生活している健康な人の肝臓であるということです。
それは、誰の肝臓なのか。
端的にいうと、患者に近しい家族がその対象になります。
脳死臓器移植の社会的認知が充分でない日本社会において
いわば緊急避難的手段として、この医療は始まり
そして独自の発達を遂げます。
京都大学医学部付属病院のチームはこの過程で中心的な役割を果たし
結果、世界の生体肝移植医療の最先端の拠点として
海外から多くの研修者、見学者を受け入れるまでになりました。
この本は、この「京大チーム」の苦闘を描いたドキュメントです。
30時間以上に及ぶ難手術の描写に始まる冒頭から
いきなり話に引き込まれますが
本書の大半は、医療関係者側、患者側の双方への丹念な聴き取りの
報告に費やされます。
その中には当然、約8割の成功例とともに約2割の失敗例
つまりは死亡した患者の症例も含まれています。
私自身は、現在の移植医療の状況を(特に脳死臓器移植については)
必ずしも諸手を挙げて肯定するものではありません。
しかし、それとは別次元で、命を救うという目的のために
すさまじい闘いが繰り広げられているのだという現実を
この本は強く実感させてくれます。
臓器移植というものに対するスタンスを超えて、
あらゆる人に読んでほしい本です。