優沁 ⑪ スパイダーシティ | もしかして山口県在住? こじらせ ( 中年 ) 女のアイタタタ…な ブログ ☆

もしかして山口県在住? こじらせ ( 中年 ) 女のアイタタタ…な ブログ ☆

山口県民になって数年…
日々のエピソードや感じたコトをこじらせながら綴っていきたいと思います。







 アスファルトの道は無いが、背の低い防波堤が “ ここが入口 ” と示してくれた。
 その防波堤も途中で無くなっているように見える。


 
 さらにその先に、白いガードレールが確認出来た。
 山口県内のガードレールは黄色いはず、と数年前に県外から引越ししてきた人間は思いがちだが、そうではないガードレールも存在する。
 そもそもこのガードレールは、昭和38( 1963 ) 年に山口県で開催された国民体育大会で “ 何か山口県で特色のあるものを ” という目的の為に考えられたものらしい。
 黄色は ‘’ 夏みかん ‘’ の色。
 某所で占ってもらった私のラッキーカラーは、黄色なんだそうだ。
 だとしたら、この白いガードレールの意味するところは?
 考えすぎると折角の小旅行に水を差すので、やめよう。
 白かろうが黄色かろうがあれはガードレールなのだから道があることを疑うまい。
 低い防波堤に上り、細いがこの上を注意深く歩いてガードレールに近づこう。
 ガードレールの下はまるで来る者を拒むかのように、膝丈くらいの雑草が生い茂っている。
 以前、下松市の笠戸島にある耕作稲荷社を訪ねた時もまた、このように膝丈くらいの雑草が生い茂っていた。
 この雑草が徐々に胸あたりまでの高さになっていく恐怖・・・を思い出す。
 しかし、耐えた。
 引き返す勇気より、茂平海岸への好奇心方が勝ったのだ。
 突き進んだ方が気持ちが多分、楽。
 そのお陰で以前、なんとか稲荷社まで辿り着いたのだ。
   今回も胸あたりまでの雑草ならば大丈夫、耐えられるだろう。
 地図にもちゃんとそこまでのルートが記されているのだから、道はあるはず。
 いや、無ければこのリーフレットの茂平海岸の記載は無意味だ。
 意を決して雑草を踏みしめ、踏み分ける。
 ガードレールのある道を過ぎると、完全に山の中に入っていた。
 木々が生い茂り、視界が薄暗くなったのでかけていたサングラスを取る。
 日除け代わりの黒い綿手袋は、ここでは軍手代わりになり、万が一の時に役立つ。
 うるしの木にまだ一度もかぶれたことはないが、この手袋で少しは防げるだろう。
 警戒すべきは生き物だ。
 刺されたり、噛まれたり、咬みつかれたりするのは勘弁だ。
 早速蜘蛛の巣が張ってあるのを見つけた。
 それも一つや二つではない。
 自分が進む道を妨げるようであけば申し訳ないが、仕方無しに壊す。
 避けれそうなら道の端にギリギリ寄ったり、低い巣ならヨイショと跨いだり。
 道らしいこの山道は狭い。
 私の膝より上の巣は申しわけないが拾った木の枝を使い、私1人が通れる分だけ取り払う。
 右側の巣に木の枝を差し込み、時計回りにぐるりと回せば通り道が出来た。
 
「 家を ( 巣を ) 壊してすまんね。
     恨まんとってね。」
 
 などと謝りながら山中を進んだ。
 しかし。
 道はあるが、大きな蜘蛛の巣があちこちにある、ということはほとんど人が入ってない山・・・ということが分かった。
 リーフレットには約20分で着くと書いてあるが、ゆっくり歩いても30分くらいで着けばたいしたことは無い。
 地図を見る限り、茂平海岸へ続く道は素人目では山道とはわからなかったので、ろくな準備も装備も無し。
 けれど、なんの根拠もないが着くような気がする。
 いや、どこかの海岸まで行けば、茂平海岸まで繋がっているかもしれない。
 楽観的な思考は時として良い結果を招く場合もあるし、逆の場合も起こりうる。
 今回はどうだろうか。
 
 蚊は全くいないので良かったがその代わり、裾に小さい植物の種が沢山くっ付いている。
 この状態で帰りの船に乗るのは相当恥ずかしい。
 海岸に着いたら、ゆっくり取れば良いか。
 素材のお陰か、コンバースのスニーカーには付いていないようだった。

 山道に慣れた頃、道が分かれた。
 左はあまり高低差が無いような道で、右は上がりで廃墟の小屋らしきようなものが見える。
 とりあえず左に行ってみたが行き止まりのようだったのですぐに引き返し、右に足を進めた。
 今にも崩れそうな小屋の横を通る時、今まで見た事のない巨大な蜘蛛がその小屋を守るように巣を張っていた。
 はぁ、感覚が麻痺してくる。
 小さい蜘蛛は何とも思わないが、大きいのは申し訳ないが気味悪い。
 幼い頃はその大きな蜘蛛に対して異常なまでの恐怖心を持っていたので、両親を困らせた。
 私の母に言わせると
 
 「 蜘蛛の方があんたを怖がっとるよ!」

・・・そうかもしれないが、あの長くて細い手足。
 背中がゾワッとする。
 飛びかかることはないので、成長と共に恐怖心はいささか薄れていった。

  いつまでこんな道が続くんだろうか。
 まだ10分くらいしか歩いていないのに、もう心が折れそうになった。
 蜘蛛の巣を半分壊す行為は、蜘蛛を殺しているわけではないのに気が悪い。
 巣を張っている蜘蛛は、黄色と黒の体をしているのでジョウロウグモのように見えた。
 ふと、巣を張る所要時間はどのくらいだろうかと思い出そうとしたがすっかり忘れていた。
 明日の朝には張り直しているのだろうか。
 もう、いくつ巣を壊したかわからない。
 最初はその数に『 スパイダータウン 』と名付けていたが、今では『 スパイダーシティ 』と改名して心の中で呼んでいる。
 いや、単純に『 スパイダーロード 』で良いのではないか。
 この山全体が蜘蛛の住処なのだから、シティで良いのだ。
 こんなに沢山巣があるのだから、餌になる虫類は豊富なのだろう。
 更に進むと倒れた大木が私の行く手を阻む。
 これは罠か。
 さながら自分が藤岡弘にでもなったような気になり、少し山登りを楽しむ余裕が持てた。
 さらに右上から数本の竹が左に向かって倒れている道にも差しかかった。
 やっぱり罠だ。
 これらをかわし、くぐり、跨ぐ。
 やはり私は藤岡弘ではない。
 ゾロゾロと何人も引き連れてはいない、たった1人だ。
 そうだ、 ‘’ くの一 ‘’ の方がしっくりくるか。
 いや、こんなにウエイトのある ‘’ くの一 ‘’ は歴史上いないのでないか。
 いやいや、意外な体型の持ち主だが俊敏な動きで暗躍した‘’くの一‘’がいたかもしれない。
 その容姿で敵を欺くこともあったかもしれない。
 いやいやいや、‘’ くの一 ‘’ だったら・・・
 そもそも私は俊敏な動きが出来るのか?

 もうこの辺で止めておこう。

 途中、分岐点が2箇所・・・いや、正解にはもうわからなくなっていたが、右に、右に進んだ。
 分かれているのか、分かれていないのかさえわからない道もあった。
 進む、下る。
 分ける、払う。
 微妙な道ばかりだが、きっと目的地に向かっているはずだ。

 ふと、微かに波音が聞こえてような気がした。
 道も下りが続く。
 そろそろ海岸に出られるのか。
 あの蜘蛛の巣も、いつの間にか見当たらなくなった。
 右手に持っていた木の棒を投げ捨て、山道を下るスピードが自然と増す。
 気持ちが速る!
 
 いよいよ伝説の海岸へ。