初読の方は1-1よりどうぞ♪↓

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・Illustration by のら




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 2-4



 弱りきった街灯は、時々その光を途切れさせながら宣教師【ミッショナリー】を照らしていた。照らす、と言うよりかは、浮かび上がらせる、と言ったほうが正しいかもしれない。


「思ったよりも早かったな、宣教師」


 黒い修道服を着た男―― 彼女はクロノスとか言ってたか―― に話しかける。


「…やはり、我らの存在を知る者か」

 クロノスが無表情のまま答えた。

 俺は答えない。


「― 先刻より、教会【エクレシア】は貴様を洗礼【サルベーション】対象者として認定した」

 薄い色素の入った髪以外、モノトーンに統一された男の中で唯一色彩を持つ唇が動く。だが、それさえも霞むように『影』はその色を濃くしていく。

「―― へぇ。それで?」

「……これより、我が『影縫』による、貴様の洗礼を行う」

 宣教師の全身が、『影』に包まれる――


Rippuの屑書き。


―― 攻撃は、右から飛んできた。

 黒い塊のようなそれを、体を後ろに引くようにしてやり過ごす。

―― 続けざまに左。

 まるでボクシングのワンツーを刻むかのように『影』の拳が襲いかかってくる。

 だが、これは牽制にすぎない。

「よっ、と」

 狙いすまして放たれた真後ろからの拳と、足元を薙ぐように唸る鞭を同時にかわす。もちろん、路地裏には俺以外の人影は見当たらない。

「姿を見せないで攻撃とは、なかなか、」

 真下の『影』がうごめく。

「―― 洒落てんなッ!!」

 足元から目の前に現れた黒い塊に蹴りを入れてやる。手応えと共に『影』が掻き消えた。


 クロノス=ガラルドが街灯の下に現れる。

「…ふん。やはり、貴様の能力は予知系のものか。どれくらいの未来まで分かるかは知らないが、厄介だ」

 黒い修道服のまわりの『影』が、意思を持つかのように揺らめいでいた。

「そりゃぁどうも。今みたいに姿を曝してんなら、言われる筋合いもあるけどな」

 特に身構えることはない。男が動けば、こちらも合わせるだけだ。


「…なるほど。一理ある考えだ」

 刹那、俺の真後ろから拳が迫る。

 俺は片手を後ろに回して、手のひらでそれを受け止める。

「―― あんたは『影』を使った体の移動、ってトコか?」


 …互いに、笑みがこぼれる。



「いいだろう。その能力、我が『影』の相手として相応しい」

「ははッ。俺なんかを能力者って言うなら、世の中みんな能力者だらけだぜ?」



 『影』に再び、黒い修道服が沈んでいく。

 ―― クロノス=ガラルドの能力、おそらく魔法か何かだが、は全て『影』に依存する。

 そしてその『影』は、影とは違う。

 …クロノス自身も気がついていない、それが盲点だった。

 

 ―― 影から影へ、移動していく『影』。

 路地裏という閉鎖的空間は、クロノス=ガラルドにとっては格好の壇上ということだ。

 繰り返し撃たれる『影』の拳と鞭を避けながら、俺は『影』を視線で追う。


 …この非日常でさえも、俺の理解の範疇は超えないらしい。


「結構、期待してたんだがな」

 右側に移ってきた『影』がこちらを襲う前に、左手の掌底を構える。

 ―― 交錯のようにも見える、一瞬の肉薄。

「うらぁッ!!」

 振り抜いた。

 今度は『影』から、引きずり出す。


「……甘い」

 だが、クロノスの身体が『影』から現れた瞬間、別の『影』が足許に集う。

「―― !?」

 反撃に転じたばかりの俺に、足を動かし逃れる術は無かった。

「捕らえよ、『影牢』」

 そのまま、『影』に呑まれた。




「…未来を視る能力か…いささか、貴様を侮りすぎたようだ」

 例えるなら、それは漆黒のような黒。

 影にしては濃すぎる色。

 影自体に色も気配もつけば、それは影ではなかった。

 正確に言えば、『陰』。

「…失うには惜しい。『影牢』の選択は正解だったか」

 『影』に囲まれて、なるほど確かに『影牢』だな、と感嘆してみたり。

 だけどさ。

 もう理解ってしまったココに、用はない。



 ―― 闇を、引き裂く。

「…ったく、夜を選んで助かったのは俺の方かよ」

 これが昼なら、眩しさに目がやられていた。

「…貴様、何故だ……何故、我が『影』に囚われぬ」

 クロノスの表情が大きく変わる。…とは言っても、眉が少し寄ったぐらいか。

 …あー、そうか、『影』だけじゃ動きは分かっても表情はまだ読めねぇか。うんうん。


「どうした?もうネタ切れか?」

 険しい表情の黒修道服に鎌をかける。

 クロノスはもう『影』に隠れようとはせず、静かに言葉を返した。


「…仕方あるまい。『影牢』が使えぬ以上、実力を以ってこれを洗礼する――」

 

 その色白の顔に覚悟が見え、

 ――クロノスの背後で、何かが街灯の弱い光を受けて閃いた。


Rippuの屑書き。

「うわおぉぅっッ?」

 刹那、死線が俺の頬を掠める。

 ……理解るのが一瞬でも遅かったら確実に刺さってたぞ、アレ。

 ホントにチラッとだけ、凶刃が通って行った後ろを振り返る。

 凄まじい速さで壁に突き刺さっているはずのスローイングナイフは、どこにも見当たらない。


「…へぇ。制御できない能力は消し去る、って事か。洗礼【サルベーション】てのも、あながち間違ってないな」

 

 

 …なら、俺のやってる事も無駄じゃない、ってワケだ。


 

 

ーーーーー2-5に続くーーーーーー





どうだったでしょうか?

今回はひたすらに戦闘でした。。。

と言うか長くなりすぎて、次回持ち越しにw


― ←コレが多くなって、筆力の無さを実感中…orz




のら様、

今回も素敵すぎるイラストをありがとうございます(嬉々)




ではまた来週読んでくだされー(>∀<)ノ


ノシ



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・Illustration by のら




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  2-3



 ケータイに設定しているアラームの音で俺は目を覚ます――


― はずなのだが、今日は騒音のお世話になることなく起きた。というか起きてしまった。

「…っ、と……痛たたた」

 慣れない床に寝ていたためか、体の節々が軋むような痛みを上げている。

 床に敷いた枕から頭を起こす。丁度ベッドとテーブルの間に挟まれるような格好で寝てしまったらしい。

 テーブルの上に置いたケータイを開く。薄いディスプレイに表示されたのは、まだ登校の為に起床するには早すぎる時間帯だった。


「…寝なおすか…」

 テーブルと反対側にあるベッドの方を向く。

 彼女と向き合う。

「おわっ!!」

 そこにあった彼女の顔(超至近距離)は、昨日の記憶の再生と共に、俺を驚かせるには十分すぎた。

 思わず飛び退いて、テーブルに腕を強打した。

「― …!!!」

 眠気も一瞬で吹き飛ぶ、ってやつか。

 ベッドの上の彼女は無防備な寝顔のまま、変わらぬ寝息を立て続けていた。



「ったく…」

 習慣となりつつある朝風呂の後、俺は早い朝飯の準備をする。

 とはいえ安い卵の目玉焼きとソーセージ、ついでに味噌汁といった具合の簡単なものだ。

 作ってる間に大食い女が目を覚ますかとも思ったがそんなことは全然なく、時折姿勢を変えながら人様のベッドで安眠を謳歌している。寝顔が可愛い……許す。

 なんだかんだで俺も高校生だ。なにも他とかわらない。

 

 

 彼女の分の朝食をテーブルにおいてラップして、炊飯ジャーに残ったご飯の量を確認する。

 うん、これぐらいあれば大丈夫だろ。…多分。朝だし。

 昨日の夕飯が思い出されて苦笑する。

 彼女の寝顔を見る。ゆっくりとした規則的な吐息が続いて、それに合わせて彼女の細い肩もわずかに上下を繰り返していた。

 なんというか、まあ…アレだ。

 助けたくもなるよな、それは。



    

   #   #   #



 気がつくと、そこはコンクリートが打ちっぱなしの天井――


― ではなかった。

「……?」

 今日はやけに頭がぼーっとしている。

 瞳の焦点が定まらない。妙に視界が明るい。

 身体がまだ眠りを欲しているように思えた。


「…むにゃ…」

 姿勢をかえる。

 仰向けから横向きになろうとして、

「―― うにゃあ!!!」

 眠気も一瞬で吹き飛ぶ浮遊感―― 刹那。

 私はベッドの縁から盛大に落ちた。

 受身なんて取れないまま、私は膝をフローリングにしたたかに打った。かなりいい音がした。

 顔のところに枕があったのは奇跡だと思う。



「あれ…」

 カーテンを開けられた窓から差し込む光は、既にその角度をかなり大きくしていた。

 釈君は部屋にいなかった。かわりに、ベッド脇のテーブルにはラップのかけられた朝食と釈君が書いたらしい置き手紙と、

「鍵……」

 が並べてあった。


『ヒイラギ サエさん

 

 君の分の朝食です。ご飯はジャーの中です。

 自分はこれから学校なので

 出かけるときには鍵をかけて下さい。

 鍵は君が持ってていいから。

                 

               釈 識』

 

 部屋を見渡す。炊飯ジャーはすぐに見つかった。

 ―― とりあえず朝ごはんにしよう。うん。




    #    #    #




 俺が通ってる高校はどこぞの進学私立校ではない。有名私立高校を受ける奴らにとっては、いい滑り止めになるぐらいの公立校だ。

 この高校に入ったのに特に理由はない。ただ、校風が自由な点では楽なトコだった。授業をマジメに受けようが受けまいが自己責任、最低限のテストの点と提出物さえ出せれば留年は免れる。

 

 3年生は2階に教室があるので、昇降口からの移動は近い。1年の時はやたら遠いクラスで遅刻も多かったのだが、今ではそれも無くなった。

「おはよー」

 教室に入り、適当に挨拶を交わす。

「おはよぉ」

「よ、識」

「今日は早いんだな」

 何人かで固まっていたグループが俺に挨拶を返してくれる。このクラスでの俺の立場は悪くなかった。

「まあな。――」

 俺もその輪の中に入る。

 他愛のない話のどこかで、彼女のことを考えている自分には気がつかないまま。



 3時限目は数学だった。

 この前のテストで某T大の問題を解いた云々で、俺はこのゴリラのような数学教師に狙われている。テストの点自体は良くないのを理由に、やたら問題を衆前で解かされる。

「よし、ならこの発展問題を……釈、お前が解いてみろ」

 例のごとく窓から景色を眺めていたら、ゴリラに指名された。

 教室からどっと笑いが起こる。

 最近はテキトーに間違いばかり書いていたから、俺は再び『低学力』な層に仲間入りを果たしていた。お陰でゴリラ教師も調子がいい。

 黒板にはやたらアルファベットの多い数式が豪快な筆跡で書かれている。テキストには某K大の過去問と記載されていたやつだ。

 

 …はぁ。

 別にいいけどさ。

 ちょっと、前哨戦にしては易しすぎるんじゃねぇの?




 昼休み。

 いつものように校内の売店で買ったパンを、数人の男子と話しながら食べる。

「釈ってさ、頭良いのか悪いのかホントわかんねぇ」

「そりゃ悪いだろ。俺のテストの点見ればわかるじゃんか」

「じゃあ何で数学のあんなムズい問題解けるんだよ?」

「たまたまだって、あれは」

「偶然にしては出来すぎだろ、なぁ」

「ふむ。俺の仮説からすれば――」

「すれば?」

「識は塾にも行ってない。家じゃ一人だ」

「事実だな」

「なのに妙に頭が良い…。これを含めて考えると――」

「何だよ?」


「識にオンナの匂いがするッッ!!!!」


 …吹いた。盛大に吹いた。

「「「ぬわぁにぃい!?」」」

「おそらく、美人でスタイル良くて茶髪で碧眼の、白いシャツを着ているようなオンナが識にくっついているに違いないッッ!!!!」

「釈、テメー俺らを裏切ってたのかぁ!?」

「何時だ、何処でだ、どうしてだッ!?」

「家庭教師か、それとも従妹か!?」

「ロリなのか、お姉様なのか!?」

「どういう教育指導をされてるんだッ!?」

 …矢継ぎ早に質問が襲ってくる。てか最早内容おかしいぞ。

「相手は誰なんだ!?」

「はっ!まさか、雑火[さいか]なんじゃ!?」

「三間坂さんかも!?」

「ひょっとすると外人!?」

「いや、ハーフと見せかけて実は日本人だッ!!!!」

 ……さっきから語尾が→!!!!のヤツ、妙に察しがいいな。

 ちなみに雑火ってのはクラスで一番可愛い(おそらく)子で、三間坂さんは現職の女生徒会長(超美人)だ。

 俺の手が届くはずがない。

 しかし、肉食系(中身は草食系)野郎達の猛攻から逃れるのは至難の業だった。

 

 はぁ…。

 前哨戦にしてはキツすぎる。




   #   #   #




 綺麗になったシャツに袖を通す。洗剤の、さらっとした匂いが新鮮だった。

 もともと手持ちのものはない。ねぐらに帰れば少しはあるが、おそらく宣教師に洗われた後だろう。

 お金はないが、その稼ぎ方は知っている。

 

 もう一度部屋の中を見回す。

 テーブルの上の何も乗ってない食器。釈君からの置き手紙。

 さっきまで寝ていたベッド。液晶の小さなテレビ。

 お世話になった風呂場。釈君が立っていたキッチン。

 

 手に持った鍵で部屋のドアを閉める。

 がちゃがちゃ、かちゃり。

 抜いた鍵を見つめて、

 そしてポケットにねじ込む。

「さよなら」


 もし、このまま、彼といられたらなんて考えなかった。

 彼を私の問題に巻き込むワケにはいかない。

 私がいるべきところは日常じゃない。

 そう、理解っているから。

 



   #   #   #




 放課後、まだ夕暮れには時間があるので、俺はいつもの古びたゲーセンにいた。

「こんにちは、いらっしゃい」

 相変わらず店長はキモかった。


 

 外がほとんど暗くなって、俺はゲーセンを出る。大通りを歩き、路地裏へと入る。

 いつにも増して、今日は暗く感じた。


「…逢魔時[おうまどき]ってのは、よく言ったもんだな」

 

 闇を照らすには弱すぎる、街灯の先。

「―― そう思わないか、宣教師【ミッショナリー】さん?」

 

「…同意しよう」

 黒い修道服を着た男が、立っていた。


 


「…今回も正解、ってとこか」

 

 ― さて。非日常な『本番』の始まりだ。
Rippuの屑書き。

Rippuの屑書き。





ーーーーー2-4に続くーーーーー






うーん。なんか上手くできませんでした…(文章が!!)


それと更新が1日遅れました。申し訳ありませんm(_ _)m




今回ものら様、素敵なイラストをありがとうございました→

無茶振りすいません。。。



ではまた次回(・∀・)ノ



初読の方は1-1よりどうぞ☆

記事一覧よりお願い致します。。。






・Illustration by のら




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  2-2



 彼の後をついて行きながら、私はついさっきの光景を思い出す。

 

 ―ただの人が、宣教師に勝つなんて。


 私が教会【エクレシア】にいた頃にも、そんな話は聞いたことがない。

 それどころか、罪【シン】を犯した魔女や超能力者、陰陽師などに至っても、宣教師【ミッショナリー】が洗礼【サルベーション】に失敗してことなんて一度も無かったはずだ。

 それほどに教会の誇る宣教師たちの能力は高い。『影縫』の名を持つクロノスのような上位宣教師ならばなおさらだ。

 

 ― それなのに。

 先を歩く彼の背中を見る。暑いのか、夏服のカッターシャツを脱いで下に着ていた色付きのTシャツ姿になっていた。

 あまり、強そうには見えなかった。

 


    #    #    #



「着いたぞー」

 商業ビルに混じって建つ、寂れたマンションの一室に彼女を迎え入れる。

 ― いや、別に連れ込んでるワケじゃない。断じて違う……― 誘ったのは俺だけど。近いしさ。

 先に玄関に入り、カバンを部屋の中に放り込む。そのままスニーカーも脱ごうとして、

「…どうした?入らないのか?」

 まだ玄関先で立ち止まったままの彼女に問いかける。水色の瞳がゆらゆらと揺らいでいた。

 …これって、警戒されてる?

「…やっぱり、メーワクじゃない?」

 移動中、ずっと無口だった彼女が唇を開く。

 痛みは少し良くなったらしい。

「いいよ、俺が話を聞きたいんだし。それに、外じゃ暑いだろ」

 …なんかホントに女の子連れ込んでる人みたいなセリフで嫌になるのは俺だけだろうか。

 それでも、彼女はこくんと頷くと玄関の中に入ってきた。

「お邪魔、します」

 彼女はぺこりと頭を下げる。

 栗色の髪をたらしながら顔が上がる。




「ぐぅぅぅうぅぅ」

 

 

…そんな音が、彼女から鳴った。




「…?」

 彼女の頬が急速に赤く染まっていく。 



「えーと…、とりあえず、メシ食べる?」

 彼女はこくん、と頷いた。

 

Rippuの屑書き。


   

    #    #    #



「すぐ作るから、適当に座ってて」

 彼にそう言われたので、とりあえず部屋を見回してみた。

 他人の住んでいる部屋に入るなんて初めてだから、思わず視線がくるくると動いてしまう。

「ここ、一人で住んでるの?」

 ベッドと机以外に家具と呼べるものがない殺風景な部屋。

「そう」

 彼がキッチンの棚を開けながら答える。

「ご両親は?」

 私はまだ玄関に立ったままで、履いたブーツのジッパーすら下ろしていない。

「さあね。仕送りは来るから生きてはいるよ」

 乾いた返事だった。あまり触れるべきではなかったかもしれない。

 ブーツを片方ずつ脱ぐ。

 そういえば、彼の名前は何と言うのだろう。助けてもらったのに、まだ聞いていなかった。

「…あ、そうそう。俺の名前は釈。釈、識って名前」
 彼も同じことを考えていたのか、私が名前を聞こうとした寸前に彼に先回りして答えられた。喉まで出かかった言葉がしゅるしゅると引っ込んでいく。

 …釈、識。

 ココロのなかで何回か反復してみる。― 釈、識。釈、識。
「…言いにくい」

「よく言われる」

 釈君が苦笑した。

「私は柊[ひいらぎ]冴。こんな色の眼だけど、日本人」

 やや自嘲気味に私も名乗ってみた。名乗る、なんて今は使わないか。

「驚いたな…ハーフかと思ってたよ」

「よく言われます」

 私が苦笑いする。釈君がもう一度笑った。



 釈君がキッチンで料理を始めたので、私はもう一度部屋を見回す。右端には薄い毛布が乗っかっているベッド。反対側の床には小さな液晶のテレビがちょこん、と立っていた。

 フローリングの真ん中に置いてあるテーブルにベッドと背中合わせで座る。

 釈君が野菜を刻む音がリズミカルに響く。



「釈君はさ、」

 釈君の背中をまた見つめて、話しかけた。

「超能力とか、魔法とかって知ってる?」

 一瞬だけ、釈君がこちらに横目を向けたがその動きは止まらない。

「知ってるも何も、さっき見たばかりかな」 

「…そう、だね。うん。超能力とか魔法は、本だけの話じゃない。 この世界に、確実に存在しているモノ。そして、そのチカラを使える人間は――以外に多い」

 釈君はこちらを向かないが、聞いているようには感じたので続ける。


「釈君、もし、その『チカラ』を持った人が本当の『力』を持ったら、どうなると思う?」


 釈君がフライパンに食材を入れる。油が弾ける音がして、しばらくの間部屋がその音に包まれた。

「…そうならない為の、宣教師【ミッショナリー】なんだろ?」

 静まった頃を見計らって、釈君が答える。

 ――ホントにこの人の理解力には驚くばかりだ。

「―― そう。そしてその宣教師達を束ねるのが、教会【エクレシア】」

 それは異能者を狩るために作られた、異能者の集う組織。

「教会は『チカラ』を持つ者が『力』に近づくことを罪【シン】と呼んでいる。そして、罪を犯した異能者を洗礼【サルベーション】するの」

「サルべーション?」

「具体的には、その『チカラ』を無効化する。…手段はどうあれ、ね」

「なるほど…っと、出来たできた」

 かしゃ、かしゃとフライパンの中のものを皿によそう釈君。いつの間にか、部屋にも味のありそうな匂いが漂っていた。

「とりあえず、先に食べようぜ。鉄は熱い内に打て、ってな」

 話はまだ途中だったが、またお腹が鳴るのは避けたい。

 私はコク、と頷いた。



     #   #   #

 


 適当なあり合わせだが、2人分の肉炒めを作ってテーブルに並べる。

「ご飯は炊きたてじゃないけど…いいよな」

 朝炊いて保温状態だった炊飯ジャーを開ける。ツヤを失ったご飯はまだかなり残っていた。

 独り言を呟きながら茶碗にご飯を盛る。……女の子ってどのくらい食べるんだ?

 

 テーブルに彼女と向かって座る。

 ―― 誰かとこうやって一緒に食事をするのは何時ぶりだろう。

「じゃあ、いただきます、っと」

「いただきます」

 彼女の顔が視界に入る。不思議と嫌な気分はしなかった。

 彼女―― 『柊』と名乗っていた、が俺の作った肉炒めを一口……はむ。

「…どう?」

 彼女の表情がしばらく動かなかった。

 これは流石に理解らない。

「…………………美味しい…」

 もう一度聞こうか、と思ったときに柊が小さく答えた。

 そして、彼女の箸が神速で動く。

 はむはむ。むしゃむしゃ。かっかっかっ、もぐもぐ、ごくん。がぁーっ、ざぁーっ、がぶがぶ、ごくん。

「………」

 さっきまであんなに神妙に喋っていた柊が一言も喋らない。ただひたすらに食べている。

 ばくばく、もごもご、ごっくん。

「おかわり」

 少なめだった茶碗のご飯が一粒も残らず消え去っていた。

「お気に召したようで、なによりです」

 …どうやら明日の朝もご飯を炊かなければならないらしい。


Rippuの屑書き。



    #    #    # 



 釈君の料理は空っぽのお腹に歓喜の渦を巻き起こした。

 暖かい料理なんて久しぶりだったから、ついつい食べすぎた気がする。

「ごちそうさまでした」

 小さく、呟いた。 

 釈君は先に食べ終わって、既に家事の方に戻っている。食器をざばざばと洗っているようだ。

 私が食器を持っていくと、それも一緒に洗われた。

「あ、そうだ」

 水道を止めて、釈君がこちらに首をひねる。

「良かったらそこの風呂場使っていいけど。そのシャツも汚れてるしさ」

 そう言って入り口横のドアを指差す。

 そういえば最後に水浴びをしたのは何時だろう。

「俺は朝風呂派だから、どうせ今日は使わないし」

 釈君がスタスタと風呂場に向かう。ついてきて、と言われ慌てて後を追った。

「…コレがバスタオルで、こっちが普通のタオル。緑のボトルがシャンプー。あ、鍵はココな」

 そして矢継ぎ早に説明される。

 え、え、という間に脱衣所に一人残され―

「じゃあゆっくり。鍵閉めろよ」

 ― た。

 


「ふぅ」 

 ―― いつの間にか用意されていた薄手のスウェットを着る。

 白かったシャツは薄汚れて、くすんだ色になっていたから、もう一度着るのはやめた。

 バスタオルで髪の毛をこすりながら部屋に戻る。

「…寝てるし」

 釈君がベッドそばの床で横になって寝ていた。

 枕だけがベッドから抜き取られ、釈君の頭の下に敷かれている。

 近寄ってみる。すぅ、という寝息が規則的に続いていた。寝たふりではなさそうだった。

 

 無人のベッドに腰掛ける。

 …彼は、何故私にここまでしてくれたのだろう。

 ―― 彼からの返事はない。

「一応、礼を言っておきます。…ありがとう」

 

 理解らない事を考えるのはやめて、今は体の欲するまま眠りに落ちた。





ーーーーー2-3へ続くーーーーー







どうでしたでしょうか?


そう、のら様の絵に目が行きますね分かりますww




のら様、今回より挿絵の件引き受けてくださって

本当にありがとうございましたm(_ _)m



では皆様、次回もよろしくです→


りっぷぅでした。 ノシ