初読の方は第1章よりどうぞ♪↓

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・Illustration by のら




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  3-1



 気が付くと、そこはコンクリートが打ちっぱなしの天井――


―― ではなかった。

 そこは、昨日も見た天井。白く壁紙の貼られた、清潔感のある天井だった。

 

 ゆっくりと体を起こす。昨日はベッドの縁から落ちたので今日は気をつける。

 ベッドの脇にあるテーブルには、ラップのかけられた朝食と釈君が書いたらしい置き手紙と、

「鍵……」

 が並べてあった。


『柊さん


 漢字合ってますか?

 君の分の朝食です。ご飯はジャーの中です。

 自分は学校なので

 出かけるときは鍵閉めてくださいよ?

 鍵は持ってていいです


                釈 識 』


 

 ……炊飯ジャーはキッチンの脇だ。

 とりあえず朝ご飯にしよう。うん。




   #   #   #




「おはよー」

「よぉ、識。今日も珍しく早いな」 

「あぁ、ちょっと勉強しようかなと思ってさ」

「嘘付けー。昨日はずっと寝てたじゃんかよ」

「昨日は昨日、今日は今日」

「どーせ寝るんだろ?」

「寝ないかもよ?」

「はい寝る事確てーい。いいよな、勉強しなくても出来る奴は」

「出来てねーよ」

「はー、俺も彼女できねーかなぁ…。雑火とかいつでもホームランなのに」

「お前、急に話変わるな……しかも自然に」

「ん?釈は三間坂さん派だったか?」

「さあな」


 と、お決まりのモーニングトーク(?)を友人と交わす。確かに今日の朝も早く着きすぎた。

いつもの窓際の席に座って、HRまでの暇を外の景色でつぶすことにした。

 傷一つない右手で頬杖をつく。全身にちょこちょこ残った浅い切り傷はもう塞がって、治りかけを伝えるこそばゆい感触を与えてきていた。

「………」

 柊。

 能力。

 宣教師。

 痛み。

 洗礼。

 『司教』。

 教会。

「…理解んねぇな、どーにも」

 思考を中断し、頬杖を崩して机に伏せた。

 なんだかんだ言って眠い。

 寝床が変わると良く眠れないってのは、あながち間違っていないらしい。




「……君、釈君、しゃーくーくーんっ!」

 ……ん、?

 誰かに呼ばれた気がして、窓側に向けて寝ていた顔を教室へと戻す。

 彼女と向き合う。

「おわっ!!」

 そこにはこのクラス、いや、学年でもトップを争うような美少女の顔(超至近距離)があった。

 もちろん、俺を驚かすには十分すぎる。

 やっぱりというか、窓の縁に思わず引いた腕をぶち当てた。

「―― …!!!」

 眠気も一瞬で吹き飛ぶ、って奴だ。

「うぁ、と、と、大丈夫?」

 急に動いて急に腕を打って急に丸くなった俺に彼女の方が驚いていた。

 


「―― で、えーと……何の用?」

 普段、こんな朝の時間帯に女子に話しかけられるほど俺は人気ではない。自覚してるのが悲しい気もする。

 ちなみに俺の前に立っているのは先述の通り、クラスや学校内で抜群の人気(男女問わずだが男子多し)を誇っている雑火 襲 [さいか かさね] さん。ショートヘアに、カラコンを入れているらしい琥珀色の瞳が特徴的だった。……この人に突撃して撃沈した戦友は幾許にも上る。

 なので若干は緊張する。当然……だよな?

 さっき話した友人は運良く教室にいない。いたら視線で気づく。


「あ、そうそう、コレ」

 明るい性格が全面に出ている声で雑火さんが何かを取り出した。

「はい、これ。…釈君のだよね?」

 

―― それは、大ぶりの片刃のナイフだった。


 あの時はなかった木製の鞘に収められて、その鋭刃こそ見えないが、これは確かに、

「俺が投げたやつ……」

「とりあえず隠したほうがいいよ?」

 雑火さんに笑顔でそう言われ、俺はあわててナイフをバッグに放り込む。

「じゃね♪」

 雑火さんはそういうと、すたすたと自分の席に戻った。

 



 今日は昼休みの前、4時限目に数学があったりして、

「……うわぁ」

 やたら面倒くさそうな某W大の問題を解かされた。

 数学担当のゴリラ教師もニヤニヤしながら俺を指名していた。

「釈、お前はもちろん予習してるよな。黒板に書いてみろ」

 ……むぅ、最悪。

 愚痴をこぼしつつも長々しい答えを黒板に書いていく。

 のだが、同時に別の問題で雑火さんが当たっていて、

「識のやろー……」

 とか、

「雑火さんの隣に長く居座られるぞ……」

 とか、

「襲たんはみんなのもの!!!!」

 とかいう凶悪な視線(発信源:主に男子)を浴びた。いや待て、不可抗力。


 ―― 隣でチョークを持つ雑火さんを横目で見る。

 視線が合う。

 微笑まれた。

 なんか知ってるらしい顔だった。


 ッと、クラスの猛者たちに睨まれてる。さっさと答えをかいてしまおう。




 昼休み。

 案の定というか、俺の机の周りには友人男子数名の輪が形成されていた。

「さて、識くん。君の知っている思っている隠していること全部洗いざらい何もかも言いたまえ」

「いや、俺何も隠してないし知ってないし思ってない」

「ボス!識は嘘をついています!!」

「ワタシもそう思いマス!」

「右に同じッ!」

「ふむ。識くん、嘘はいけないな。私たちの手元には君が朝私の目を盗んで雑火さんと話していたという報告書が上がっているのだよ。……これでも立派な隠し事だ」

「隠すも何も……話す義務ないだろそれ」

「ボス!識は動揺しています!!」

「ワタシもそう思いマス!」

「右に同じッ!」

「ほう。同じ『雑火さんに死ぬまで付いていく者の会』の同胞として、私たちに報告の義務なく抜け駆けをして良いと思っているのかね?」

「いやいやいや、その組織知らない見てない聞いたことない」

「ボス!識が我らを裏切ろうとしています!!」

「ワタシもそう思いマス!」

「右に同じッ!」

「識くん…。君は私たちを裏切って『三間坂様に虐げられたい同盟』に所属しているというのかね…?雑火さんではなく、三間坂さん推しだと?」

「だから何でその二極なんだよ」

「ボス!識の言動に焦りが見られます!!」

「ワタシもそう思いマス!」

「左に同じッ!」

 ……向き違うぞ。てかこの3人何故に定型文?

「私たちは君たちを認めない。この学校のトップはあの大和撫子才色兼備花鳥風月な三間坂さんではなく、明朗快活快刀乱麻大器晩成な雑火さんなのだから!!!!」

「ボス!賛成です!!」

「ワタシもそう思いマス!」

「上に同じッ!」

 …また方向違う。あ、良く考えたらあってるか。上だし。


 各々で雑火さんトークを始めた友人達をほっといて、俺は昼飯にする。

「あれ?お前ら今日は学食じゃねぇのか?」

 コンビニのおにぎりを頬張る一人に聞いた。確かこいつらは全員学食派だったはずだ。

「フフフ、甘いな識くん。今日は何曜日だい?」

「そりゃ…木曜だけど?」

「そう、木曜日なのだよ!……毎週木曜だけは確実に雑火さんは弁当だ。こんな良い機会を我々がみすみす学食で過ごすわけがないだろう?」

 とか言って全員が雑火さんの方を見る。

 雑火さんは数人の女子と固まって、そこそこの大きさの弁当を食べていた。彼女は男子だけでなく女子受けも良い。いつも誰かがそばにいるような人だ。


Rippuの屑書き。

「…雑火は何時見てもど真ん中だな」

「ボス!当然です!!」

「ワタシもそう思いマス!」

「右に同じッ!」

 楽しそうに笑っている雑火さんを見ても、今の俺はこいつらのように素直に楽しめる気分じゃなかった。

 疑問を押し込むように、俺は昼飯の弁当を口に運んだ。






 昼休みの後、今日は月ごとの定期全校集会で、

 全校集会では毎回生徒会長の挨拶があるわけで、

 ウチの生徒会長は、

「ああ、今日の俺らはツイてるな」

「同感であります」

 もちろん俺のセリフではない。断じて違う。


 ……つまり、大和撫子(以下略)の三間坂さんな訳だ。


 いつもはそのスペースを持て余す体育館に、全校生徒がぎっしりと詰まる。

 体育館にクーラーなどあるわけもなく、初夏の熱気は容赦なくこもる。

 だが、全校生徒はそれでも根気良く校長先生の長い話を耐え切った。

「続いて、生徒会長挨拶」
 司会担当になっているゴリラ(数学のあいつだ)がそう読み上げた瞬間、


―― 空気が変わった。そう、文字通り。


 どわーーーーーーーーーーーーーっ、というようなコンサート会場ばりの盛り上がり。数多の歓声を背に受けながら、彼女が壇上に上がる。

 生徒会長、三間坂 菖蒲[みまさか あやめ]。

 この高校史上もっとも高い得票率を得て当選し、今でも絶対的な人気と支持率を誇る女子生徒会長。なんでも元武家の生まれで、その容姿と言動からついた二つ名が『大和撫子』。腰まで届くような艶のある黒髪も由来の一つだ。成績も常にトップクラスだったりする。

 体育館が割れるような歓喜も、彼女がこちらに振り向いた刹那に止む。マイクに片手を沿え、男子が見れば十人に十人が振り返るような整った顔が全校生徒に向けられる。


Rippuの屑書き。

「皆さん、こんにちは」

 凛、とした澄んだ声が響く。

 どわーーーーーーーーーーーーーっ。


「先日の定期テストも終わり――」

 どわーーーーーーーーーーーーーっ。


「―― この夏、生徒会では――」

 どわーーーーーーーーーーーーーっ。

「―― という、予算編成の根本的――」

 どわーーーーーーーーーーーーーっ。

 ……まったく、どこかの大統領就任演説かよ。凄いなおい。


「―― これから、貴重な経験をされる方もいらっしゃると思います。なにかお困りでありましたら、気軽に生徒会へとご相談くださいませ。―― それでは、終わりとさせていただきます」

 〆の言葉のあと、いつものように和風(他に上手い表現が見つからない…古風?)な笑みを、全校生徒――


―― ではなく、俺に向かってしてきた。もちろん、壇上で。


 どわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっつ!!!

「ぼ、ボス!菖蒲様がこちらに笑みを!!」

「あ、あぁ……これは私達に対する…挑戦か?」

「顔緩ませながらいうんじゃねぇ」

 とりあえず勘違い共にツッコんでおく。


 ……俺は理解る。アレは俺を意識した笑みだった。そして、それに含まれる内容も。

 どうやら彼女も、非日常を知ってるらしい。





 集会が終われば放課後だ。部活が大詰めの奴もいるし、もう受験のために勉強してる奴もいる。

 めいめいの過ごし方を横目で見ながら、俺はいつものように一人で下駄箱にいた。

「……おいおい、今どき古風だな」

 俺の手には一枚の手紙。靴の中に入っていた。

 それには明らかに女子が使う紙に、女子の文字で、こう書いてあった。


『 釈 識 くんへ


 今日今すぐに屋上に来て!

 鍵は開いてるから。

 待ってます♪         

                   』


 差出人は、

 

『 雑火 襲 』


 

 ……素直に喜べない。

 多少落胆しながらも、俺はさっき降りてきた階段を再び上がっていった。




ーーーーー3-2へつづくーーーーー




皆さん!長らくお待たせしてしまいました、りっぷうです(焦)

気がつけばもう10月…早ッφ(。。;)



さて、今回から遂に新章です→

今回この新章を作るにあたっては

のら様をはじめ、様々な方に参考を頂きました。。。

ここに謝辞を。



書き始めは物語と同じ初夏だったのですが

今は最早秋ですねww季節ずれてますww気にしないでww



毎度ですがのら様、

いつも素敵なイラストありがとうございます→



それでは次話も頑張って行きたいと思いますww

なるべく早く更新しますので…



りっぷうでした(・∀・)ノ




遅ればせながらやっと更新ですm(_ _)m

すいませんでした(焦)



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・Illustration by のら





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 2-6



 タガーナイフを首筋に押し付けたままでいると、宣教師はゆっくりとその身の緊張を解いた。

「……確かに、私の負けのようだな」

 中空に浮かぶ不自然な光に照らされ浮き上がる『影』が、するするとその姿を消していく。

「……何故、貴様は我が『影』を見切る?」

 殺気をなくした男から、俺はタガーナイフの凶刃を下ろした。

「色、かな」


「…何故、我が攻撃が読める?」

「お前を見てりゃ理解る」


「…何故、『光』だと分かった?」

「そりゃ、影は光あって生まれるものだろ。あんたが俺の『影』を狙ってるなら、俺の『影』を無くせばいい」


「…何故、街灯を壊した?」

「あんたが『陽』になり得る『光』を出すと思ったから」


「…何故、私と戦った?」

「理解ってるのに放っておくのは出来ないもんで」


「…貴様、どこまで知っている?」

「さあな」


「………」

「もういいか?なら帰るぞ。いつまでもこんなもの握ってたら、こっちが犯罪者扱いだ」


「…貴様、名前は何と言う?」

 宣教師は改めて聞いた。

「俺か?釈、識。 釈 識だよ」

 宣教師は笑う。


「…そうか。奇妙な響きの名前だ。覚えるのに苦労しない」

「はッ。悪かったな」


「…一つ忠告しよう。―― 教会【エクレシア】は貴様を脅威と見なしている。…『司教【ビショップ】』には気をつけることだ」

「……ご丁寧にどうも」


 俺が答えると、宣教師はその背を向けた。

「…非礼を詫びよう」

 そしてその姿は闇に掻き消えた。



「―― 『司教』ねぇ…」

 闇はいっそう、その色を濃くした気がした。




   #   #   #




 ―― 気が付いたら、私の足は彼のところへ、『非日常』へと向かっていた。

 もうこれ以上彼を巻き込んではいけない、そう考えてあの家を出たのに、一度使った麻薬のように彼との記憶が私の意思をコントロールしているように思えて仕方なかった。

 

 初めてだった。

 何もかもが。

 教会【エクレシア】に入って。

 『力』を使って。

 教会を追われて。

 『力』が痛みとなって。

 それでも『力』は枷となって。

 追われる事が『日常』になり。

 逃げ続けてきた。

 疲れた。

 もう諦めた。

 だから。

 

 だから、私は彼にすがりたいのかもしれない。




「―― 良いんじゃないの。そうやって頼ったってさ」



 

 ―― 声がした。

「少なくとも俺は、そう思うけど?」

 ―― 夜闇が薄い街灯の光に照らされるその先に、

「……どうして……」

 ―― 釈君が、立っていた。


Rippuの屑書き。


「どうしてって、俺の家そこだし」

 釈君が私の背後を指差して言う。

「お前も鍵持ってるだろ。入ればよかったのにさ」

 それよりも、すたすたと歩いてくる釈君の姿に、私は釘付けになっていた。
「その怪我…」

 釈君のあちこちに、刃物で切ったような跡と血の染みが出来ていた。

 カッターシャツはぼろぼろで、特に右手は紅く染まって指先から滴り落ちている。

 釈君はどうでもいいことみたいに、

「ああ、コレ?ちょっと喧嘩してきた」

 右手を軽く上げておどけてみせた。

「まあ、流石にちょっと痛いかな」

 

 ―― 下手な嘘だった。

 私は、すたすたと釈君に歩み寄る。

 強引に、その右手を掴んだ。

「…っ痛!!」

 釈君がその顔を思いきり歪めたが、気にしない。

「―― 我が『アクア』の称号の許に調整せん――」

 血に濡れるのも構わずに釈君の右手と私の手を重ねる。

「―― 『癒水【ポーション】』」

 釈君は信じられない、と言いたそうな顔で自分の右手を見る。

 そして、私の方を見た。

「…お礼です。昨日と、今日の」

 ―― 傷一つなくなった彼の右手を離す。

「ありがとうございました」

 ぺこり、と頭を下げる。

 

 いや、深々と下げる。

 

 彼は、一瞬戸惑ったように、でもすぐに笑顔になって、

「ま、とりあえず飯にしようぜ。腹減っただろ?」

 そう言ってくれた。

 

 私は頷いて、マンションに向かう彼の後を追った。

 ……背中は痛んだけれど、気にならなかった。

ーーーーー 第2章 終 ーーーーーー

お久しぶりです。Rippuです。

2-5から3週間が開くという…

非常に申し訳ないですorz

今回ものら様、お忙しい中

綺麗なイラストをありがとうございますm(_ _)m

次回は第3章突入ですw

キャラ増えますww

お楽しみに→φ(。。)




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・Illustration by のら




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 2-5



 もうすっかり暗くなってしまった夜空は、人工の光をうけて白っぽく靄がかかっているようにも見えた。

 妖しく光るネオンサインと煌びやかな電灯は、昨日の路地裏とは大違いだった。


 ―― 騒がしい喧騒の中を、ふらふらと進む。

 酔ったオトナの群れとすれ違う。

 ―― 千鳥足の男が、よろけて肩からぶつかってきた。

「ひゃっ」

 咄嗟に受身が取れなかった。

 硬いアスファルトに無様に転ぶ。

「ああん、てめぇ、前みて歩けこらぁ!!!……あぁ、ガキじゃねぇか、こんな夜にふらつきやがって。……お前みたいな馬鹿のせいで俺らがメーワクしてんだろうが、くそ」

 酒臭い息の男が、唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。赤い顔が限界まで近づいてきて不快だった。

「帰れっ、雑魚が」

 一方的にわめき散らした男は満足したのか、仲間の肩を組んで陽気に去っていった。


「…痛ッ、つ」

 背中の痛みが全身にうずくように伝わる。

 ……もう慣れたはずなのに、今日はやけに痛む。昨日の戦闘のせいだろうか。

 

 立ち上がろうとして手をついた地面に、アスファルトとは違う硬い感触がした。

「……」

 手に取って、眺める。

 もらってきてしまった、彼の家の鍵。

 ―― 非日常に舞い戻る、たった唯一の鍵だった。


Rippuの屑書き。




   #   #   #



 風を引き裂くような音――

 屈んでよけた投擲用のナイフは、壁に突き刺さる前にそこにある『影』に飲み込まれた。

 立ち上がる暇もなく次のナイフが飛んでくる。

「へぇ、あんたナイフ集めの趣味でもあんのか?」
 相変わらず弱っちい光の街灯の下に立つ男に話しかけてみた。

「……無駄口は敗北を招くぞ、能力者」

 黒い修道服の影が、男―― クロノス=ガラルドの足許に『影』を作っていた。

 ナイフも修道服の影から移動させているのだろう、クロノスは一歩も動いていない。

「はッ。…言ってろ、よっ!」

 相手の思考を読み取り、先回りして体を始動させる。一拍の猶予もなくナイフが俺のいた空間に飛び込んでくる。

「―― 捕らえよ、『影牢』」

 俺の足元の影が黒く変質する。今もう一度捕らえられたらそれは致命傷になりかねない、しかしこれは――牽制にすぎない。

 後ろに下がる俺に『影』が狙いを定める。

 全てを避けている暇は、無い。

 唯一、照準から外れている左足を軸にして下半身をひねる。


 ―― 刹那。


 右手の掌底で叩き落とす。

 そのままひねった下半身を使って右足を振り抜き、

 その軌道を靴裏でずらす。

 慣性とともに上体を沈めやり過ごし、

 眉間に迫る鋭刃を左手に掴む。

 左体側を払うようにナイフを動かすと、

 硬質の音と火花が散った。


「……!!」

 変化の乏しい宣教師の顔に驚きが生まれる。『影』が戸惑いを見せるように揺らめく。

 ―― ナイフの動きが、止まった。

 それが一瞬の隙だと宣教師が理解した時には、俺の左手はナイフを投げていた――



 ―― かつッ、と、コンクリートにナイフが弾かれる。

 『影』はナイフを呑み込まない。



「ぐッ……く、ククク、ふ、は、ハハハハハはハハハはハッ!!!!!」

 宣教師が、その色白の顔に苦痛を浮かべて、笑う。

 心底楽しそうに。

 その足許に、鮮やかな色彩を滴らせ。

「ククク、結構だ、愉快だ能力者!! やはり戦いというものは一方的ではつまらない!! かの古の騎士の如く、決闘は

同じ馬上で行わなければ意味が無い!!」

 その両手を広げる様はさながら教えを説くかのように。

「この洗礼、我が『影』を以ってその舞台としよう――」

 弱い街灯に照らされ、その『影』は再び浮かび上がる。

「―― 闇に誘え――『影縫』」



 『影』から凶刃が唸る。

 形、大きさ、色、様々に異なるナイフは、先程と変わらず俺を襲って―― いなかった。

「だあっ!!」

 足を狙う反りの大きいナイフを強引に蹴飛ばす。

 スニーカーの側面はずたずたに裂かれていた。

 街灯の光を正面に受ける位置で、ナイフは容赦なく飛んできた。

「ククク、どうした能力者!! 私の『影』は貴様のまわりにあるだろう!!」 

 避け損ねたナイフがカッターシャツを切り裂く。『影』をかすめた切っ先が、腕を抉る。

 急所を狙う直刃のナイフを右手で掴むと、早すぎたのか手のひらが赤く染まった。

「『同じ舞台』ねぇ……冗談きついな、おい」

 手だけでなく、腕まで貫く痛みに顔をしかめる。


「……ククク、無駄口は敗北を招くぞ、能力者」

 ―― 背後からの笑い声。

 いつの間にか『影』を移動していた宣教師が、俺の『影』の頭部を踏み蹴る。

「がッ!!!」

 瞬間、額を殴られたかのような激痛と共に俺の身体が吹っ飛ぶ。

 背中から着地し、勢いは止まらず何回か地面を転がった。

「―― !!」

 当然の追撃。

 峰に血抜きの有る小刀を横に転がることで何とか避け、両刃には右の掌底を喰らわす。 

 大ぶりの片刃のナイフは左手で、今度は柄を握って受け止める。

 宣教師が『影』を一旦引く。俺に取られた分のナイフを補給しているらしい。血糊の付いた一本は地面に転がったままだった。



「余裕だな」

 立ち上がる。左手にナイフを構える。

 ほんの2,3の刹那があれば、それで十分足りる。



 ―― 影を使った『影』。


 ―― 明かりの乏しい路地裏。


 ―― 『影』の実体化。


 ―― 弱い街灯。


 ―― ナイフ。


 ―― 夜という時間帯。


 ―― 『陰』。


 ―― 影をつくるもの。



「さて……『答』合わせと行きますか」

 上げた顔は、少し笑っていたかもしれない。


Rippuの屑書き。


 ―― 三度、迫りくるナイフ。

 その数を増して、いよいよ洗礼【サルベーション】しにかかっているらしい。

 弾幕のような残像をかわし、弾き、そして前進する。

 

 …間合いに入るまで。

 確実に当てられる、その距離まで。

 

 ―― 『影』を狙うナイフは急所以外は避けない。

 カッターシャツの切り傷は無数。もう着られないだろう。

 

 …あの時はこいつのせいであきらめた。

 だけど、今は理由にならない。

 こいつしか頼れねぇんだから。


 ―― そして、それが間合いに入る。

 俺の『影』に向かって、『影』が狙いをつける。

 無視した。



「昔はッ!!!! コントロール良かったんだよッ!!!!」

 …軽くステップして、全力で。



 ―― 野球には使い物にならなくなった、左肩を振り抜いた。


 ―― 投げられた大ぶりの片刃のナイフは、狙い通り街灯を破壊する。


 

 夜の闇が路地裏を覆い、薄闇に慣れた目でさえも漆黒を映す。

 駆ける足音。金属音。

中空に不自然な光。

 『影』を見分けるのは、そしてあの宣教師が隠れそうな物陰は、


「だーかーらー、理解ってんだよ」

 『影』に紛れようとした宣教師の首元に、拾ったタガーナイフを押し付ける。ごついな、コレ。


「騎士道は知らねぇけど、チェックメイトだ」





ーーーーー2-6に続くーーーーー





ふう。なんとか終わったー(汗)



次回は第2章終幕の予定ですw


今回ものら様、

素敵な挿絵をありがとうございましたm(_ _)m


そして読んでくださった皆様にも謝辞をッ(><)ノ




それでは次話も是非お楽しみに♪


Rippuでした(・∀・)ノ