初読の方は第1章からどうぞ♪↓

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・Illustration by のら




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 3-4



 釈君が『影縫』を退けてからすでに1週間が経とうとしていた。

 つまり、釈君の家に居候し始めて1週間。


 ―― 相変わらず私の朝は遅い。

 釈君が学校に行くとき(つまり平日だ)は大抵一人で起きる。

 こんなに自分が早く起きない者だとは知らなかった。眠れない夜はあっても、安眠できる夜は無かったからかもしれない。

 休日は釈君もいたが、とっくに起きていた。寝顔を晒しているのはちょっと気になる。



 昼間は釈君に教えられたゲームセンター、という所にいる。

 ちょっとやかましい店内を仕切っている店長さん(多分…オカマだと思う)は心得たように、親切に私に接してくれている。いつもタダで簡単なブロックゲームをさせてくれる。あまり上手にはできないけど。

「素敵なレディにはそれぐらいサービスするのよぉ、当然じゃない」

 今日も女口調の店長がそう言っていた。



「……ところでさ、柊ちゃん。なにか釈君に隠していることあるでしょ?」

 ある時、私がせめてもの手伝いを、と言って掃除を申し出た時だった。

 店長が箒を渡しながらニコニコしてそう言った。


「そぉねぇ…。例えば、体調が悪い事とか?」

 ―― 背中に悪寒が走る。


「……どういうことですか?」

「やぁねぇ、そんなコワイ顔しなーいの、もう。折角キレイな顔なんだから」

「答えて下さい」

「ふふふ、カレにもバレてると思うわよ、その『背中』」

 店長はいつもの柔和な笑みを浮かべる。

 私は急速に背筋が冷たくなるのを感じた。

「……あなたは何故わかるのです?」

「なんでかしらねぇ?―― 例えば、ワタシが教会【エクレシア】の人間だからかもねぇ?」

 店長の笑いが冷淡なものに変わる。私は咄嗟に身構えた。

 まさか、こんな近くに宣教師【ミッショナリー】が……


「なーんて、いるわけ無いじゃない。ただでさえ『雑火』と『三間坂』がいる所なのよ?」

 彼女(オカマだけど)が一瞬でその緊張を破る。

 身構え、背中の痛みを無視して『ミズチ』を出そうとしていた私がかえって気まずくなるくらいだ。

「うふ、驚いた?」

 やたらと大きい目でウィンクしながら、店長はそう言った。



 ……店長曰く、店長は心理把握の『力』を持っているらしい。釈君にこの間言っておいて何だが、能力を持っている人は意外といるものだ。

 それをゲームに使うのはどうかと思うけど。




   #   #   #




「―― 店長、今日も柊さん来たか?」

「ええ、昼ごろはずっといたわよ」

「何か変わったことは?」

「特にないわねぇ。『外』も、今日は、静かだったわよ」

「そうか。ならいい。あざました」

「別に良いのよぅ、釈君の頼みなんだし。それに彼女もとっても良い娘だわ」

「……店長、宗旨替え?」

「やあねぇ、ワタシは乙女よ?」

「はいはい」

「やだぁ、釈君たら。ワタシに興味あるの?」

「いいえ」

「ハイ、は一回」

「いや、ハイって言って無いし。むしろ逆を言ったつもりなんですが」

「細かいことは気にしちゃダメよ?」

「そこ大事ですから」

「ねぇねぇ、釈君。もしかしてアナタにも分からないことあるのかしら?」

「話を変えるな。……そして人の心読むな」

「えー、釈君だってデキるじゃなーい」

「俺と店長のは別物」

「一緒よぉ。……で、どうなのよ?」

「店長の読みどおり」

「あら、やっぱりそうなの?ふふ、だったらワタシが教えてあげる☆」

「あれ?危険な匂いを感じる」

「釈君の将来にきっと役に立つわ」

「今現在で将来が途絶えそうに思う」

「柊ちゃんにも関わることよ?」

「どういう風にだよ……」

「……やっぱり男女同棲で、経験がない男はダメよね!ワタシが手取り足取り教えなきゃだわっ!」

「いや、そっちの経験値は役に立ちませんから!結構です!」

「じゃあまず脱がし方からよね」

「話し聞けコラぁ!!」

「背後から抱きしめると吉」




   #   #   #




 まったく、どうして俺の周りはこんなにキャラが濃い奴らばっかなんだろうか。

「釈クーン」

 放課後、帰ろうとしている俺に声をかけてきたのは雑火さん。

 生徒会長曰く、要注意人物。

「今から暇でしょ?ちょっと一緒に帰ろう?」

 こんなセリフがすらっと出てくる人。

 この学校での自分の人気が今ひとつ分かってないらしい。そりゃぁ、美少女(?)と一緒に帰れるのは光栄だが。

「ボス!識の奴がまたぁ!」

「ワタシもそう思いマス!」

「昨日に同じッ!」

「ぬぅ、識め…私たちにそんなに見せ付けたいというのかぁっ!」

 ……聞こえない聞こえない。明日の学校がまた一段と億劫になるのは確かだが。

 はぁ、と小さく溜息をつく。

「ん?どうかした、釈クン?」

「あ、いや、なんでもないよ」

「行こっ」

 雑火さんが歩き出したので、俺も後を追いかけた。


 3日前から、こうして俺は雑火さんと一緒に帰っている。

 理由は、

 雑火さんに告白されたから、でもなく、

 俺が告白したから、でもなく、

「何か気が付いたら言ってね」

「了解です」

 襲われるかもしれないかららしい。俺が、だ。

 誰にかって?その、宣教師【ミッショナリー】って奴に。

 宣教師という言葉も日本史以外ですっかり馴染み深くなった気がする。ニッポンに活字印刷を伝えたのは、確かヴァリニャーニだったっけ?




   #   #   #




 今日は早く帰って釈君の代わりに夕ご飯を作るつもりだったから、昼が過ぎてしばらく経った頃に、私は店長に早く帰る旨を告げた。世話になりっぱなしは良くない。

「あらぁ、コレは釈君には分からないわよね」

 店長は意味ありげに目を細め、それから柔和な笑顔になって、

「ええ、もちろん良いわよ。カレによろしくね」

 そう言ってウィンクした。店先まで見送りに来てくれる。学生が学校にいるこの時間はゲームセンターに人はいなかった。

 まだ外は明るくて、入り口のドアを開けた瞬間にむわっとした熱気が肌に吸い付く。

「それじゃあ、今日もありがとうございました」

 私は店長に向かって一礼すると、釈君の家へと歩き出す。

「あ、柊ちゃん」

 と、店長が私をすぐに呼び止める。でも、私に向かって伸ばした手はすぐに下ろされた。

「ううん、なんでもないわ。……気をつけてね?」

「あっ、はい。わかりました」

 彼女(オカマだけど)の心の内を、この時の私は察することが出来なかった。



「―― 『外』が騒がしい……釈君に伝えておかないと。何も無ければいいけど」

 市街地にある小さなゲームセンターのドアは、ゆっくりと閉められた。




   #   #   #




 学生で溢れる市街地を抜け、俺の家へと繋がる路地に入る。まだ明るい夏の日差しのビル影が路地全体を覆っていた。

 ほんのりと、日陰によって冷やされた空気が肌に――― 触れる。

「……!」

 気が付いたときにはもう遅い。俺の思考回路が身勝手な稼動を始める。

「雑火さん」

 俺は前を歩く彼女を呼び止めた。

「ん?ってか、名前で呼んでって言ったでしょー」

 雑火さんがくるりと振り返り、むぅ、と効果音が付きそうな顔で俺を見る。……可愛い。

 と、事態はそう穏便ではない。

「えっと…ごめん。だけどさ、嫌な展開かも」
「?」
 ――― 突然、両サイドにあったビルが上から消失していく。

 それだけではない。足元のアスファルトが一面の硬い砂地、端的に言えば運動場のようになり、視界を遮っていた建築物、路上のゴミ、まだ明かりのついていない街灯までもが消えていく。

「……!」

「あらー」

 俺の予想以上だ。

 雑火さんは咄嗟に俺の背後に回り、背中を向き合わせて密着する。……死角を無くしているのだが、全校男子には優越感を覚えた。
「雑か、じゃなくて襲[かさね]さん。これって……」

「『結界』って分かる?対象を空間に閉じ込めたりする……アレの類だと思う」

 そして『消失』が終わったとき、そいつは立っていた。


「ようこそ、我らが『領域』へ」

 ちょうど俺たちの真横に一人の女性が現れる。

 身長は雑火さんよりやや高いぐらいだろうか。雑火さんと似てすらりとした体に萌葱色の小袖を着流し、日本人的な黒髪は金色に光る様々な髪飾りで纏め上げられている。ただ、人一倍大きく見える目は、はっきりと『水色』の瞳を持っていた。

 隣で雑火さんが身を硬くしたのが背中から伝わる。

「久しぶりねぇ、雑火ちゃん?貴方は初めまして」

 雑火さんの表情が緊張から一気に、憎悪へと変わる。

「何で……なんであんたがいるの?」

 それは、思わず背中を離してしまうほどの震えた声だった。少なくとも今まで一度も聞いたことの無いような声。

 雑火さんが女と正対する。俺も正面を向いた。

「雑火ちゃん、年上の人にそんな口調で話すの?」

 女が教師のような素振りで聞き返す。どこか楽しそうだ。

「今は私が質問している。…答えろ」

 ……雑火さん、怖えぇ。目がマジだよ。

「失礼な子ね。私の知ってる雑火ちゃんはそんな子じゃなかったのに」



「―― その名で私を呼ぶなッ!!!!」



 雑火さんが怒りを顕にして叫ぶ。一方、女は火を付けさせた事に満足したのか、可笑しそうに笑っていた。

「あら?カルシウムが足りて無い子はキレやすいって言うけど……ちゃんと牛乳飲んでる、『雑火』ちゃん?」

「貴様ぁッ!!」

「ちょ、おい!」

 ―― 今にも飛び込んでいきそうな襲の腕を、俺は強く握った。

 襲がキッ、とこちらを睨む。

「離して」

「ダメだ」

「釈クンには関係ないでしょ!」

「そうだけど?」

「じゃあ離してッ!!」

 俺は彼女のもう一方の腕もつかんで、暴れる襲にこっちを向かせる。


「あのさ、『襲』は何のためにここにいるんだよ?護衛が死に急いでどうするのさ?俺に死ねってこと?」


 まあ、なんだかんだで俺も人が悪い。こういう事も理解るから。

 襲が暴れなくなった。気まずそうに、目線が下に泳ぐ。……こんな仕草も、…いや、失敬。

「…ごめん」

 彼女の口から漏れるように、そう言われた。

「あ、いや、悪い」 

 俺は彼女から手を離す。何か俺の方が悪い気がするのは……そうか皆か。


 もう一度、二人で眼前の宣教師【ミッショナリー】を見据える。

 女は面白くなさそうに、うなじを掻いた。

「アイツは『鬼魅』って呼ばれてる宣教師。ごめん、昔あいつと色々あったんだ」

「ったく……何でも良いけどさ。怪我すんなよ」

 クラスのあいつらに顔向け出来ないからさ。なんて。

 襲が少し笑顔に戻った。……うん。やっぱり俺はこっちの方が良い。

 俺はバッグの中から大ぶりの片刃のナイフを取り出した。漆の塗られた木製の鞘を引き抜く。

 街灯に投げ刺したはずだが、曇り一つさえない銀色の凶刃を、俺はまた手に取った。

 襲も右腰から、彼女の獲物を抜く。短い木製のストックと細長いバレルをもつ、リヴォルバータイプの拳銃。『結界』の中でビルに遮られていない日光を受けて輝いていた。


Rippuの屑書き。

「ふうん。君、なかなか良い性格してるね」

 着物を着た女がさも楽しそうに笑う。

 ―― そして、その笑い顔は大きく歪む。

「じゃあこれより、『洗礼【サルベーション】』を開始しまぁぁす!」




   #   #   #




 釈君の家の近くの路地裏で、そいつは待っていた。


 ―― 邂逅は刹那。

 私に背後から迫るかすかな音が聞こえたのは幸いだった。

 轟、とも、ビュウ、ともつかない音が咄嗟に伏せた私の上空を引き裂いて行く。

「なッ……!!」

「チッ」

 かすかな舌打ちと共に、襲撃者がこちらに向き直る。

「命拾いしましたね、柊さん」

 短く刈り込んだ髪に、浅黒い肌。引き締まった体は、彼が相当に鍛えられた者であることを示している。右腕は

黒く変色し、無機質な鈍色に光っていた。

「宣教師【ミッショナリー】カレル=ウォルス。あなたの『洗礼』を行いに来ました」

 刺客の『水色』の瞳が私を見つめる。


「カレル……何で貴方が……」


 私は思わず呟いていた。

「今、もう一人の宣教師もあなたの恩人の『洗礼』中でしょう。ああ、柊さんも良く知っている宣教師でしたね、鬼塚さんは」

 私の背中が酷く疼いているのが分かる。

「『貴方達』、一体何のつもり…?」

 カレルは愉快そうに笑って、

「分からないのですか?『僕達』がここに来た理由が」

 私は沈黙するしかなかった。嫌、というほど分かる。

「……釈君には手を出すな。彼はただ、巻き込まれてしまっただけ」

「それは無理というものです。第一、あの『影縫』を倒しておいて、そして柊さんといる。これだけで僕達教会【エクレシア】が『洗礼』するには十分すぎる理由です。

 あなたはその事を分かっていたはずですよ。彼をここまで巻き込んだのは柊さん、あなた自身だ」

 私は、唇を噛んだ。こうなると分かっていながら、自分の欲求に彼を巻き込んだのは紛れもない事実で。

「さて、無駄話はここまでです。

 柊さん、抵抗しないのなら僕も悪いようにはしません。一瞬で終わります。あなたの恩人の彼も見逃してもいいんですよ?」

 


「……ふざけないでよ」

 私はそう小さく呟いた。私自身に言い聞かせるために。

 ……自分だけ、放棄して逃げるなんてことはしたくない。もう、あの『日常』は終わったのだから。

「―― 『ミズチ』ッ!」


Rippuの屑書き。

 背中に走る激痛。思わず顔をしかめる。

「―― やっぱり、簡単には行きませんか」

 カレルが苦笑いして、その鈍色の腕を構えた。

「『撃鉄』、装填―――」






ーーーーーー 3-5に続く ーーーーーー




どうも。ご無沙汰してます、りっぷうです。



思ったよりもテストの影響が長引き…

気が付いたら1ヶ月も離れてしまいましたorz


なのではちょっと長めですw

今話もかなり無理な展開ですが

どうぞ広い心で許してやってください(爆)



今回ものら様、素敵すぐるイラストありがとうございます(嬉)

そして読んでくださった皆様にも謝辞をばm(_ _)m



次回は年末年始に…

出来たらいいなぁφ(。。;)



初読の方は第1章からどうぞ♪↓

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・Illustration by のら




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 3-2



 床の上にちょこんと置かれた液晶テレビのスイッチをつける。

 誰かが蛇に咬まれた、というニュースを無表情な男の人が読みあげていた。毒蛇だったらしい。

 チャンネルを替える。

 喧しいグルメリポーターが、良く分からない料理を神妙な顔つきで食べていた。やさしい味、だそうだ。

 チャンネルを替える。

 海外の町並みを旅する番組だった。ヨーロッパだろうか。少し嫌な気分になる。

 チャンネルを替える。

 中年の男の人たちが、当事者のように経済について話している。意味のない討論。


「……暇な人たち」

 私はディスプレイから目線を逸らして、部屋を見回した。


 釈君の部屋はかなり質素だ。

 教会【エクレシア】に居たころに私にあてがわれていた部屋を見たら、彼は何と言うだろう。

 ……ちょっと思い出して、また嫌な気分になった。背中が疼く。


 

――ベッドの縁に寄りかかって、どうでも良いテレビを見る。あれほど寝ておいて、時折欠伸がでる。


「……退屈だなぁ」

 ……なんだ、私も結構暇なのか。

 それに気がついて、私は一人で笑った。部屋の主はいない。存分に笑えた。

 教会に追われながら、昨日も命を狙われながら、『退屈』だなんて。

 まったく気が狂っている。

 こんな気持ちになるなんて。

 釈君の殺風景な部屋は、一昨日の冷淡なコンクリートに囲まれた空間よりも、教会に貰った専用の部屋よりも、随分とましな気がした。

 


―― しばらくして、閉まっていた鍵が回る音と共にドアが開く。

 そこには、ちょっと疲れた顔をした彼が、スーパーの大きな白い袋を持って入ってきた。

「あ、おかえり」

 私はベッドの側に座ったまま、彼に言う。今さっき大笑いしたせいか口調も軽く感じた。

 彼は一瞬戸惑った顔をして、それから急に納得したような顔になって、そして少し笑って、

「ただいま」

 そう言った。

 お互いにあまり慣れてないみたいで、それもまた可笑しかった。




#   #   #




 夕飯を食べた後、食器の片付けを済ませる。いつもの倍の数の食器を洗うのは少々時間がかかった。

「釈君」

 きゅ、っと水を止めた俺に柊さんが話しかけてきた。とりあえず手を拭いてから振り返る。

「鳴ってたよ」

 ベッドの上で寝そべっている彼女がテーブルの上を指差している。俺のケータイ。

 自分のベッドに異性が横になっているというのはどうもアレだが、ひとまずケータイを開く。

 折りたたみ式のディスプレイに表示された差出人は、


『雑火 襲』


 そういえばメアド交換したんだったな、と今更に思い出した。……いや、こうも近くに彼女がいるとね。うん。

 とりあえず文面を表示する。


『釈君さー、メアド交換したんだからメールぐらいしなよーw

 結構暇だったのにー(笑)』


 うーん。普段メールしないからなんとも言えない。

 くるのは業者のメールばっかだし。


『あ、ごめん、忘れてたよ。

 別に俺も忙しくはなかったけど』


 ぽちっとな。送信。

 3分と待たずに返信が返ってくる。


『ふーん。(笑)

 釈クンって見かけによらず結構やるねw』


「……」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」


『何がだよ…

 雑火さんもじゃないの?』


「釈君、シャワー借りていいかな?」

 ベッドから言われるとかなりアレな気がするが、柊さんに限ってそれはないだろう。なんてね。

「どうぞー」


『ほらほら、今日は大丈夫かな?

 私は見た目通りだよ。屋上だっていつもいるし(笑)

 あ、私のことは「かさね」って呼んで。

 苗字で呼ばれるのあんまり好きじゃないんだ』


 ……そういえば雑火の一族ってどこまで俺のこと知ってるんだ?

 この前だって監視してたらしいし。

 しかし……呼び捨てか。あいつらに聞かれたらおしまいだな。


『あのなぁ…

 …まあいいや。

 いきなりそう言われても呼びづらいんですが…』


 ぶーん。ぶーん。

 またマナーモードに設定してある筐体が震える。


『頑張れ!呼んでくれないと撃つよ?

 あ、そうそういい忘れてたけど――』


「―― 釈君、ありがと。洗濯物は置いてていいかな?」

「あ、今から洗うから、洗濯機に入れてて」

 柊さんがスウェット姿で戻ってきたので、俺は洗濯に向かう。

 今のうちにやっておかないと深夜まで寝れなくなる。



『―― 三間坂 菖蒲、この人には気をつけてね?』




     #   #   #




 翌日の学校。

 今日も数学のゴリラは好調だった。

「じゃあ次、この問題は釈が解け。それと一緒に類題を唐崎な」

 俺以外のやつは順番に当たる。

 俺は毎日当たる。

 ……ゴリラに好かれてもなぁ。最悪に尽きる。

「いいか、受験はこれからが勝負だ。解いた問題はすべてもう一度出されても解けるようにしとけー」

 ……別に俺は某T大を受ける予定はさらさら無いのですが。

 答えの答案がやたら長いのですが。

 これは新手の生徒教育ですか?

 ……なんて思ったが言わない。

 教室の奴らは慣れたもので、ニヤニヤしながら友人たちが見てくる。

 雑火さん(襲って呼ぶのは何か抵抗がある)も面白そうにこっちを見ていた。

 ……ちなみに、彼女の成績はあまり良くないらしい。



 今日の学校は何も無く(友人たちの尋問や、ゴリラの事を除けば)過ぎた。

 ……まあ、何も無いのが普通なんだけど。

 教室で終礼を終え、帰り支度をしていた最中、

「ぴんぽんぱんぽーん」

 どこか気の抜けたような校内放送の合図が鳴る。

 大概は先生の呼び出しなので、真面目に聞く人などいない。気にせずバッグに筆記用具(あまり教科書は持ち帰らない)を入れる。

「連絡いたします」

 だが、一瞬で校内が静まり返った。

 ―― 生徒会長の言葉を聞き漏らしてはならぬ。そんな空気が漂う。おいおい。

 しかし、次の言葉に教室(主に男子)が凍りつく。



「3年D組、釈 識 君。お話があります、至急生徒会室までお越しください。繰り返します――」



 …………やばい。

 色んな意味でやばい気がする。

 何故彼女が俺を呼ぶのかとかそんな悪いことしたっけとかそういう事では全くなく、

 ……色々と殺気を感じます。




 コンコン。

「どうぞ」

「失礼しまーす……っと」

 ノックして、返事を聞いてから、校舎の端に位置する生徒会室のドアを開ける。

 ……ここがホントに公立校かと思わせるような立派なドアだったので、つい。

 木製のアンティークなドアをくぐると、

「こんにちは、釈、識君」

 我が校きっての生徒会長が待っていた。

「はじめまして、と言っても知っていますよね」

 ―― 三間坂 菖蒲。容姿端麗才色兼備大和撫子、もとい雑火さん曰く要注意人物。腰まで伸びた曇りのない漆黒の髪がトレードマーク。



「―― もしかして忙しかったでしょうか?思ったより遅かったので帰られたのかと思いました」

 校長室か何かを思わせるような部屋で、木製のテーブルに向き合った革張りのソファーに座って、何故か使用人みたいな人が後ろに控えながら、三間坂さんが言う。

「いや、そんなことはないですけど」

 ……教室内の男子を巻くのに大変だったとか、思ったが言わない。

「そうですか。なら良かったです。こうもしないと、話せる機会もないので」

 ……見かけによらず結構大胆ですね貴女。

 これよりかまだ靴の中の手紙で屋上呼び出しの方がいい。

「それで、一体何の用ですか?」

 うーん、どうも堅苦しい。同級生に敬語というのもなかなか慣れない。

 三間坂さんは雑火さんとは違った笑み(こういうのは何というのだろう……麗しい?)で、

「あら、釈君の方が知っているでしょう?」

 そう返してきた。

「……知ってるも何も、呼び出される理由がないような」

 俺もとぼけてみる。

「ふふっ。釈君は面白い人ですね」

 三間坂さんがクスクスと笑う。なんか笑い方まで大和撫子だ。美人だ。


「貴方は下がりなさい」

 三間坂さんが使用人(執事?)を下げた。これで、俺と彼女二人きり。

 そして、黒い瞳が真剣なものとなる。


「―― おととい、この地区にいた上位宣教師【ミッショナリー】『影縫』が何者かとの戦闘によって敗北したそうです。その勝者は高校生。なんでも、ナイフ一つで勝ったそうです」

「……へぇ」

「単刀直入に言います。釈君、彼方でしょう?」


Rippuの屑書き。


「もし、そうだったら?」

「いえ、どうこうしようと言う訳ではありません。確認したかったまでです」

 先ほどとは打って変わって事務的な口調。

 生徒会長らしいと言えばらしい。

「……確かに俺だけど。ちょっとした喧嘩に勝っただけだ」

「喧嘩、ですか」

「そんなトコだろ」

 三間坂さんは小さな溜め息をついて、

「……彼方の『力』がどんなものかは知りません。ですが、生徒会長という立場から言わせてもらうと、我が校の生徒が命を賭すような喧嘩を認められる訳がありません。

 ―― 付け足せば、もうお分かりの様に、私自身も『力』を持つ一人としては、教会【エクレシア】と争うのは良い選択肢ではないのです」

 伏し目がちにそう言った。

 ―― いつも全校生徒の前に立つ彼女と今の彼女は、やっぱり同じには見えなかった。


「―― 過ぎてしまったことは仕方ありません。教会がこの件をどう思っているかは未だに分かりませんが、釈君、これは警告です。常日頃から、命を狙われていることをお忘れないように」

 さすがにこれは吹き出しそうになった。

「あははッ、まるで三間坂さんが俺を狙ってるみたいだ」

 なので、冗談でごまかした。



「……何か、堅苦しい話になってしまいましたね。私、人と話すときはいつもこうで」

 話も終わったのでそろそろ退出しようかという時に、大和撫子度合いの上がった三間坂さんが笑いながら言っていた。

「あ、そうでした。釈君の連絡先を聞くのを忘れていました」

 彼女が思い出したようにケータイを取り出す。ケータイまで古風かと思いきや、昨日CMで見たような気のするスマートフォンだった。最新機種。

 手馴れた様子で連絡先を送受信する。

「困ったことがあれば、いつでも連絡してください」

 と、昨日今日と校内2強のアドレスを連続ゲット……なんだかこれだけで全校の男子に勝った気がするのは俺だけか?そうか皆か。


「……じゃあ、失礼しました」

 再びアンティークなドアを開ける。若干重い。

「釈君」

 三間坂さんに呼び止められる。これはっ!……なんてな。

「言い忘れていましたが―――」



「――― 雑火 襲、彼女には気をつけて下さい」



 

 ……何か既視感のある台詞だな、おい。

 俺は後ろでにドアを閉めた。




ーーーーーー 3-4に続く ーーーーーー





どうもお久しぶりです、りっぷうです。

最近寝落ちが多くて更新が伸びたという罠w



今回も駄文をづらづらと並べました。すいません。

果たしてこの第3章は終わるのか…と不安です(笑)



のら様、今回も素敵なイラストありがとうございます→

そして読者の皆様にも日々感謝。m(_ _)m



次回はテストも重なるので遅めの更新になりそうです…

しばしお待ちをφ(。。;)



初読の方は第一章からどうぞ♪↓

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・Illustration by のら




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 3-2



 屋上へと続く階段は学校に一つしかない。この校舎は5階建てで、つまり屋上に行くには6階分の階段を上らなくてはいけない訳で、

「せめて校外とかで会っても良かったじゃんかよ……ったく」

 俺は少々悪態をつきながら階段を上る。

 そもそも手紙から察するに告白でもないらしいから余計キツく感じる。階段にまで冷房を効かせるほどこの学校はお人好しではない。背中がいやな感じに湿ってきたのが分かった。

 6階分の階段を上りきり、屋上へと続く扉の前に立つ。確かにいつも掛かっている鍵は外されたらしい。

「穏便じゃねぇなぁ…」

 どうも、ピッキングか何かで。

 まあいいけど。がちゃり。


「あっつー……」

 初夏の日差しが、もう放課後だというのに眩しく照る。

 

 彼女は、屋上の端から景色を眺めていた。女子にしては短い髪が良く似合ったシルエット。

 俺がドアを開けた音に反応してこっちに振り向く。

「あ、釈クンだ」

 そう言って笑顔になった。キラースマイル。

「呼んだのは雑火さんだろ」

 とりあえず普通に言っておく。いや、いたって俺は普通なのだが。

「ふふ、来てくれなかったらどうしようかと思ってたよ」

 ……とりあえず彼女に呼ばれて来ない男子はいないと思うが、俺はそんな好ましい話題で呼ばれた訳ではないので反応に困る。

 ついでに雑火さんの笑顔は目に良薬すぎるもので、ますます返答が考えにくい。

「来なかったら?」

 ……何言ってんだ俺?

「えー、うーんとねぇ……」


「こうする」

 ―― その言葉が言い終わる前に、彼女はその右手を右腰に伸ばす。その手が何かを掴んで――


刹那。

―― たん!と、ぱん!の間のような破裂音が響いた。



「……眉一つ動かさない、か」

 彼女がその右手を下ろす。その顔は普段俺が知っている雑火さんの顔ではない。

「当てるつもりがなさそうだったからな」

 何もない空間から急に現れたように、その右手には一丁の銃が握られていた。

 短い木製のストックと細長いバレルを持つ、リヴォルバータイプの拳銃。どこかレトロな雰囲気を思わせる。バレルに合わせてなのか、蓮根のようなシリンダーも長めだった。

「…それ、法律大丈夫か?」

 顔の横を通ったのは、ほぼ間違いなく実弾だった。

「普段は見えないようにしてあるからねー。握ったら見えるんだけど」

 雑火さんが銃を持った右手を軽く振った。

 ……どうやら面倒事を起こす気はないらしい。


「―― それにしても、ウワサは本当みたいだね」

 右手を下げて、彼女が楽しそうに言う。

「…何の?」

「君が、『未来を視る』っていうウワサ。だから避けなかったんでしょ?」 

 彼女が首を少し傾げて聞いてきた。……テレビで『女子が可愛く見える瞬間』トップ3に入っていた仕草を雑火さんがすると、最早どこぞの売れないアイドルよりも断然アレだ。犯罪。

「…さあな」

 とりあえず違うが、誤解してくれても困らないので適当に濁す。てか、ウワサが流れるような事したか?




「……でも、良かった。釈クンが教会【エクレシア】の人じゃなくて」

―― 学校で見たどの顔よりも明るい、屈託のない笑顔。

 柊と似た笑顔だ、と思った。




―― 彼女が俺の足許にひざまずく。銃を手前に置き、それはまるで忠誠を誓う忍のように。

 

 …………………はぃ!?


Rippuの屑書き。


「この度は異国の地より来る宣教師への御勝利、真にお慶び申し上げます――」


 雑火さんが、俺に向かって、ひざまづいて、その目を閉じて。

「我ら、雑火の代表としてこの襲[かさね]が御挨拶を申し上げたく候へば、」


 ―― 俺、リアルに忠誠誓われてる?

「何卒御無礼をお許し下さいませ」


「我ら貴殿と同じく『力』を持つものなれば、先より教会の干渉を受け、それに屈せずして代々を継ぎたりて候」


「然れども、かの宣教師の実力強大にて、我ら単騎の力及ばず、やむなく刺客の調うまで監視したりし折、貴殿の御勝利を目の当たりにしました次第で御座います」


「貴殿の目的は知らねども、我ら志を同じくするものとお見受けいたせば、この襲を使わしめて、貴殿に候はせしめれば、なんなりと御用命を承らせ侍れ、との長よりの言伝に御座います」


 

 一息にそう言った雑火さんはゆっくり目を開け、すっくと立ち上がった。

「と。まあ、いちおーそういうことになってるからさ、」

 そして、もう一度笑顔になって、

「メアド、交換しない?」

 彼女の目的を言った。

 ……教室で聞けば良かったじゃんかよ、と思ったが言わない。



 別れ際に(別れ際なんていうとなんか誤解を生みそうだが)雑火さんが思い出したように、

「あ、今日のことは内緒だからね?」

 なんて事を言っていた。

「あぁ、俺は、言わないよ」

 

 とにもかくにも理解ったことは、

 『彼女』も、能力者って事か。




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 二日連続の遅い朝ご飯を、私にしては遅く食べた。おいしかった。


 昨日は疲れていたから、着替えもすることなく寝たらしい。

 少々土っぽかったシャツが、汗を吸って気分悪く私の肌に纏わりつく。

 釈君が切ったのだろうか、窓から差し込む太陽の光は容赦なく部屋を暖めて、冷房のついていない空間をじりじりと蒸していた。

「……暑い」

 ……ちょうどいい。水浴びでもしようか。



 湿気を含んだTシャツを脱ぐ。ようやく不快感から逃れられたような一瞬の涼やかさ。

 背中の痛みは消えていない。昨日も『癒水』で私の『力』を使った影響だろうか。ズキズキとも、ピリピリとした痛みとも違う、背中から全身を支配されているような痛み。

 というより、支配されている。

 私の一部ともなりつつある、忌まわしいこの『呪紋』に。


Rippuの屑書き。

 ―― それは、教会【エクレシア】からの洗礼【サルベーション】の証。

 私の『力』を痛みに換えるらしいその呪紋は、他でもない教会からつけられたものだった。

 


 ―― 冷たい水が、私の全身を流れ落ちていく。心地よく火照った体を冷やし、痛みを和らげる。

 水と戯れるように。

 水と触れ合うように。

 水と踊るように。

 水と話すように。

 いつも『水』は、私のすぐ側にいた。

 

 ……でも、それは奪われてしまった。




 ―― 脱衣所を出て、釈君の部屋に戻る。

 ここに来たのは2回目だというのに、もう自分の住処のような気がして他ならない。

 これは甘えだ。

 こんな事があってはいけない。

 彼をもう、危険な目に遭わせてはいけない。

 彼を『日常』に、巻き込んではいけない。

 そう思うのに、たった2日の『非日常』が、私をココに縫い付ける。


「…ここに居ても、いいのかな」

 

 奪われた『力』の隙間を、ほんの些細に埋めても。




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「はい、もしもし」

「私よ」

「はい。どのようなご用件でしょうか」

「これからそっちに向かうわ」

「……え?で、ですが…」

「何よ?主人が僕に会いに行くのが悪い事とでも言うの?」

「い、いえ。光栄に御座います」

「そう。ならよろしくてよ。それで、貴女に頼みがあるのだけれど」

「何で御座いましょうか」

「一人、舞踏会の客を用意しておきなさい。……この私に相応しい者を」

「……かしこまりました。最高の方をお呼びいたします」

「ふふっ、楽しみにしておくわ」

「他に御用件は御座いますでしょうか?」

「いいえ、それだけよ」

「かしこまりました」

「切ってよろしくてよ」

「はい。それでは、心よりお待ち致しております、」




「――― エメリア様」





ーーーーーー3-3に続くーーーーーー





どうも、こんにちは。りっぷぅです。


またまた日が開き…

そしてこのロークオな文章…

イラストはお楽しみ頂けましたでしょうか?ww



のら様、今回も2枚の素敵なイラストありがとうございますm(_ _)m

そして読者の皆様にも感謝を。




次回はなるべく早く出しますのでw

それでは(・∀・)ノ