初読の方は第1章からどうぞ♪↓
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・Illustration by のら
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3-4
釈君が『影縫』を退けてからすでに1週間が経とうとしていた。
つまり、釈君の家に居候し始めて1週間。
―― 相変わらず私の朝は遅い。
釈君が学校に行くとき(つまり平日だ)は大抵一人で起きる。
こんなに自分が早く起きない者だとは知らなかった。眠れない夜はあっても、安眠できる夜は無かったからかもしれない。
休日は釈君もいたが、とっくに起きていた。寝顔を晒しているのはちょっと気になる。
昼間は釈君に教えられたゲームセンター、という所にいる。
ちょっとやかましい店内を仕切っている店長さん(多分…オカマだと思う)は心得たように、親切に私に接してくれている。いつもタダで簡単なブロックゲームをさせてくれる。あまり上手にはできないけど。
「素敵なレディにはそれぐらいサービスするのよぉ、当然じゃない」
今日も女口調の店長がそう言っていた。
「……ところでさ、柊ちゃん。なにか釈君に隠していることあるでしょ?」
ある時、私がせめてもの手伝いを、と言って掃除を申し出た時だった。
店長が箒を渡しながらニコニコしてそう言った。
「そぉねぇ…。例えば、体調が悪い事とか?」
―― 背中に悪寒が走る。
「……どういうことですか?」
「やぁねぇ、そんなコワイ顔しなーいの、もう。折角キレイな顔なんだから」
「答えて下さい」
「ふふふ、カレにもバレてると思うわよ、その『背中』」
店長はいつもの柔和な笑みを浮かべる。
私は急速に背筋が冷たくなるのを感じた。
「……あなたは何故わかるのです?」
「なんでかしらねぇ?―― 例えば、ワタシが教会【エクレシア】の人間だからかもねぇ?」
店長の笑いが冷淡なものに変わる。私は咄嗟に身構えた。
まさか、こんな近くに宣教師【ミッショナリー】が……
「なーんて、いるわけ無いじゃない。ただでさえ『雑火』と『三間坂』がいる所なのよ?」
彼女(オカマだけど)が一瞬でその緊張を破る。
身構え、背中の痛みを無視して『ミズチ』を出そうとしていた私がかえって気まずくなるくらいだ。
「うふ、驚いた?」
やたらと大きい目でウィンクしながら、店長はそう言った。
……店長曰く、店長は心理把握の『力』を持っているらしい。釈君にこの間言っておいて何だが、能力を持っている人は意外といるものだ。
それをゲームに使うのはどうかと思うけど。
# # #
「―― 店長、今日も柊さん来たか?」
「ええ、昼ごろはずっといたわよ」
「何か変わったことは?」
「特にないわねぇ。『外』も、今日は、静かだったわよ」
「そうか。ならいい。あざました」
「別に良いのよぅ、釈君の頼みなんだし。それに彼女もとっても良い娘だわ」
「……店長、宗旨替え?」
「やあねぇ、ワタシは乙女よ?」
「はいはい」
「やだぁ、釈君たら。ワタシに興味あるの?」
「いいえ」
「ハイ、は一回」
「いや、ハイって言って無いし。むしろ逆を言ったつもりなんですが」
「細かいことは気にしちゃダメよ?」
「そこ大事ですから」
「ねぇねぇ、釈君。もしかしてアナタにも分からないことあるのかしら?」
「話を変えるな。……そして人の心読むな」
「えー、釈君だってデキるじゃなーい」
「俺と店長のは別物」
「一緒よぉ。……で、どうなのよ?」
「店長の読みどおり」
「あら、やっぱりそうなの?ふふ、だったらワタシが教えてあげる☆」
「あれ?危険な匂いを感じる」
「釈君の将来にきっと役に立つわ」
「今現在で将来が途絶えそうに思う」
「柊ちゃんにも関わることよ?」
「どういう風にだよ……」
「……やっぱり男女同棲で、経験がない男はダメよね!ワタシが手取り足取り教えなきゃだわっ!」
「いや、そっちの経験値は役に立ちませんから!結構です!」
「じゃあまず脱がし方からよね」
「話し聞けコラぁ!!」
「背後から抱きしめると吉」
# # #
まったく、どうして俺の周りはこんなにキャラが濃い奴らばっかなんだろうか。
「釈クーン」
放課後、帰ろうとしている俺に声をかけてきたのは雑火さん。
生徒会長曰く、要注意人物。
「今から暇でしょ?ちょっと一緒に帰ろう?」
こんなセリフがすらっと出てくる人。
この学校での自分の人気が今ひとつ分かってないらしい。そりゃぁ、美少女(?)と一緒に帰れるのは光栄だが。
「ボス!識の奴がまたぁ!」
「ワタシもそう思いマス!」
「昨日に同じッ!」
「ぬぅ、識め…私たちにそんなに見せ付けたいというのかぁっ!」
……聞こえない聞こえない。明日の学校がまた一段と億劫になるのは確かだが。
はぁ、と小さく溜息をつく。
「ん?どうかした、釈クン?」
「あ、いや、なんでもないよ」
「行こっ」
雑火さんが歩き出したので、俺も後を追いかけた。
3日前から、こうして俺は雑火さんと一緒に帰っている。
理由は、
雑火さんに告白されたから、でもなく、
俺が告白したから、でもなく、
「何か気が付いたら言ってね」
「了解です」
襲われるかもしれないかららしい。俺が、だ。
誰にかって?その、宣教師【ミッショナリー】って奴に。
宣教師という言葉も日本史以外ですっかり馴染み深くなった気がする。ニッポンに活字印刷を伝えたのは、確かヴァリニャーニだったっけ?
# # #
今日は早く帰って釈君の代わりに夕ご飯を作るつもりだったから、昼が過ぎてしばらく経った頃に、私は店長に早く帰る旨を告げた。世話になりっぱなしは良くない。
「あらぁ、コレは釈君には分からないわよね」
店長は意味ありげに目を細め、それから柔和な笑顔になって、
「ええ、もちろん良いわよ。カレによろしくね」
そう言ってウィンクした。店先まで見送りに来てくれる。学生が学校にいるこの時間はゲームセンターに人はいなかった。
まだ外は明るくて、入り口のドアを開けた瞬間にむわっとした熱気が肌に吸い付く。
「それじゃあ、今日もありがとうございました」
私は店長に向かって一礼すると、釈君の家へと歩き出す。
「あ、柊ちゃん」
と、店長が私をすぐに呼び止める。でも、私に向かって伸ばした手はすぐに下ろされた。
「ううん、なんでもないわ。……気をつけてね?」
「あっ、はい。わかりました」
彼女(オカマだけど)の心の内を、この時の私は察することが出来なかった。
「―― 『外』が騒がしい……釈君に伝えておかないと。何も無ければいいけど」
市街地にある小さなゲームセンターのドアは、ゆっくりと閉められた。
# # #
学生で溢れる市街地を抜け、俺の家へと繋がる路地に入る。まだ明るい夏の日差しのビル影が路地全体を覆っていた。
ほんのりと、日陰によって冷やされた空気が肌に――― 触れる。
「……!」
気が付いたときにはもう遅い。俺の思考回路が身勝手な稼動を始める。
「雑火さん」
俺は前を歩く彼女を呼び止めた。
「ん?ってか、名前で呼んでって言ったでしょー」
雑火さんがくるりと振り返り、むぅ、と効果音が付きそうな顔で俺を見る。……可愛い。
と、事態はそう穏便ではない。
「えっと…ごめん。だけどさ、嫌な展開かも」
「?」
――― 突然、両サイドにあったビルが上から消失していく。
それだけではない。足元のアスファルトが一面の硬い砂地、端的に言えば運動場のようになり、視界を遮っていた建築物、路上のゴミ、まだ明かりのついていない街灯までもが消えていく。
「……!」
「あらー」
俺の予想以上だ。
雑火さんは咄嗟に俺の背後に回り、背中を向き合わせて密着する。……死角を無くしているのだが、全校男子には優越感を覚えた。
「雑か、じゃなくて襲[かさね]さん。これって……」
「『結界』って分かる?対象を空間に閉じ込めたりする……アレの類だと思う」
そして『消失』が終わったとき、そいつは立っていた。
「ようこそ、我らが『領域』へ」
ちょうど俺たちの真横に一人の女性が現れる。
身長は雑火さんよりやや高いぐらいだろうか。雑火さんと似てすらりとした体に萌葱色の小袖を着流し、日本人的な黒髪は金色に光る様々な髪飾りで纏め上げられている。ただ、人一倍大きく見える目は、はっきりと『水色』の瞳を持っていた。
隣で雑火さんが身を硬くしたのが背中から伝わる。
「久しぶりねぇ、雑火ちゃん?貴方は初めまして」
雑火さんの表情が緊張から一気に、憎悪へと変わる。
「何で……なんであんたがいるの?」
それは、思わず背中を離してしまうほどの震えた声だった。少なくとも今まで一度も聞いたことの無いような声。
雑火さんが女と正対する。俺も正面を向いた。
「雑火ちゃん、年上の人にそんな口調で話すの?」
女が教師のような素振りで聞き返す。どこか楽しそうだ。
「今は私が質問している。…答えろ」
……雑火さん、怖えぇ。目がマジだよ。
「失礼な子ね。私の知ってる雑火ちゃんはそんな子じゃなかったのに」
「―― その名で私を呼ぶなッ!!!!」
雑火さんが怒りを顕にして叫ぶ。一方、女は火を付けさせた事に満足したのか、可笑しそうに笑っていた。
「あら?カルシウムが足りて無い子はキレやすいって言うけど……ちゃんと牛乳飲んでる、『雑火』ちゃん?」
「貴様ぁッ!!」
「ちょ、おい!」
―― 今にも飛び込んでいきそうな襲の腕を、俺は強く握った。
襲がキッ、とこちらを睨む。
「離して」
「ダメだ」
「釈クンには関係ないでしょ!」
「そうだけど?」
「じゃあ離してッ!!」
俺は彼女のもう一方の腕もつかんで、暴れる襲にこっちを向かせる。
「あのさ、『襲』は何のためにここにいるんだよ?護衛が死に急いでどうするのさ?俺に死ねってこと?」
まあ、なんだかんだで俺も人が悪い。こういう事も理解るから。
襲が暴れなくなった。気まずそうに、目線が下に泳ぐ。……こんな仕草も、…いや、失敬。
「…ごめん」
彼女の口から漏れるように、そう言われた。
「あ、いや、悪い」
俺は彼女から手を離す。何か俺の方が悪い気がするのは……そうか皆か。
もう一度、二人で眼前の宣教師【ミッショナリー】を見据える。
女は面白くなさそうに、うなじを掻いた。
「アイツは『鬼魅』って呼ばれてる宣教師。ごめん、昔あいつと色々あったんだ」
「ったく……何でも良いけどさ。怪我すんなよ」
クラスのあいつらに顔向け出来ないからさ。なんて。
襲が少し笑顔に戻った。……うん。やっぱり俺はこっちの方が良い。
俺はバッグの中から大ぶりの片刃のナイフを取り出した。漆の塗られた木製の鞘を引き抜く。
街灯に投げ刺したはずだが、曇り一つさえない銀色の凶刃を、俺はまた手に取った。
襲も右腰から、彼女の獲物を抜く。短い木製のストックと細長いバレルをもつ、リヴォルバータイプの拳銃。『結界』の中でビルに遮られていない日光を受けて輝いていた。
「ふうん。君、なかなか良い性格してるね」
着物を着た女がさも楽しそうに笑う。
―― そして、その笑い顔は大きく歪む。
「じゃあこれより、『洗礼【サルベーション】』を開始しまぁぁす!」
# # #
釈君の家の近くの路地裏で、そいつは待っていた。
―― 邂逅は刹那。
私に背後から迫るかすかな音が聞こえたのは幸いだった。
轟、とも、ビュウ、ともつかない音が咄嗟に伏せた私の上空を引き裂いて行く。
「なッ……!!」
「チッ」
かすかな舌打ちと共に、襲撃者がこちらに向き直る。
「命拾いしましたね、柊さん」
短く刈り込んだ髪に、浅黒い肌。引き締まった体は、彼が相当に鍛えられた者であることを示している。右腕は
黒く変色し、無機質な鈍色に光っていた。
「宣教師【ミッショナリー】カレル=ウォルス。あなたの『洗礼』を行いに来ました」
刺客の『水色』の瞳が私を見つめる。
「カレル……何で貴方が……」
私は思わず呟いていた。
「今、もう一人の宣教師もあなたの恩人の『洗礼』中でしょう。ああ、柊さんも良く知っている宣教師でしたね、鬼塚さんは」
私の背中が酷く疼いているのが分かる。
「『貴方達』、一体何のつもり…?」
カレルは愉快そうに笑って、
「分からないのですか?『僕達』がここに来た理由が」
私は沈黙するしかなかった。嫌、というほど分かる。
「……釈君には手を出すな。彼はただ、巻き込まれてしまっただけ」
「それは無理というものです。第一、あの『影縫』を倒しておいて、そして柊さんといる。これだけで僕達教会【エクレシア】が『洗礼』するには十分すぎる理由です。
あなたはその事を分かっていたはずですよ。彼をここまで巻き込んだのは柊さん、あなた自身だ」
私は、唇を噛んだ。こうなると分かっていながら、自分の欲求に彼を巻き込んだのは紛れもない事実で。
「さて、無駄話はここまでです。
柊さん、抵抗しないのなら僕も悪いようにはしません。一瞬で終わります。あなたの恩人の彼も見逃してもいいんですよ?」
「……ふざけないでよ」
私はそう小さく呟いた。私自身に言い聞かせるために。
……自分だけ、放棄して逃げるなんてことはしたくない。もう、あの『日常』は終わったのだから。
「―― 『ミズチ』ッ!」
背中に走る激痛。思わず顔をしかめる。
「―― やっぱり、簡単には行きませんか」
カレルが苦笑いして、その鈍色の腕を構えた。
「『撃鉄』、装填―――」
ーーーーーー 3-5に続く ーーーーーー
どうも。ご無沙汰してます、りっぷうです。
思ったよりもテストの影響が長引き…
気が付いたら1ヶ月も離れてしまいましたorz
なのではちょっと長めですw
今話もかなり無理な展開ですが
どうぞ広い心で許してやってください(爆)
今回ものら様、素敵すぐるイラストありがとうございます(嬉)
そして読んでくださった皆様にも謝辞をばm(_ _)m
次回は年末年始に…
出来たらいいなぁφ(。。;)




