初読の方は第1章よりどうぞ♪↓

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・Illustration by のら




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 3-7




 鬼塚とか言った宣教師【ミッショナリー】が生み出した妖怪たちで、鬼塚の背後の太陽は見えなくなるほどにその数は多かった。

 ……えーと、カラス天狗に雪女に猫又、狐と座敷童っぽいやつ、河童にデカイ骨、あと傘お化けと……名前知らねー奴も多いなぁ。

「フフ、これだけの妖怪相手に貴方一人で相手が務まるかしら?」

 宣教師があやかし達の作る陰の中で妖艶に微笑む。従えた者たちは今か今かと戦いを欲しているかのごとくうごめいていた。

 俺は後ろの襲さんを、ちら、と振り返る。まだ起き上がれないまま、その表情は先程鬼塚が銃撃を浴びてなお起き上がった時よりも遥かに驚きを見せていた。

 

「それじゃ、楽しんでね?」

 そんなことはお構いなく、女は冷酷に言い放つ。じわり、と妖怪達が動き出した。


「ったく…」

 俺は妖怪全体を瞬時に見回す。とにかく、襲さんが回復するまではこちらは一人だ。

「……楽な計算じゃないな」



 ―― 最初に仕掛けるのは俺。先手は取られない。

 ナイフを片手に群れへと突っ込む。なるべく襲さんと距離を放しておきたかった。

「ウギャギャギギ!」

 待ってました、とでも言ったのだろうか。大きな猿のような体をした妖怪が躍り出てくる。金槌を持ち、いわゆる鬼のような……あ、鬼か。一つ目だし。

 鬼が振りかぶる。

 ―― 俺はその横を全速力で駆け抜ける。

「ウギャギ?」

 我ながら素晴らしいスルー。学校でもこれぐらいのスルーを決めたいものだ。

 疑問符を頭にいくつも浮かべる鬼を尻目に、俺は目標に斬りかかる。


「キィーッ!!」

 ―― 河童が驚いたように鳴いた。顔面を斬りつけようとするナイフを屈むようにして躱す河童。

「悪いが……ちょっとだけ寝てな!」

 だが、その脳天―― ちょうど皿のある場所に、俺は踵を打ち込む。

「キャ、キキキ……」

 狙い通り、河童は昏倒するように倒れた。まずは一匹。

 

 俺は既に妖怪たちの群れの中にいる。河童を倒したことで、こいつらの注目は俺に集まった。

「―― 次ッ!」

 しかし、まだこいつらに構っている暇はない。

 カラス天狗の錫杖を避け、座敷童を飛び越え、狐に追われながら俺は二匹目を目指す。


 手の目。世間からはそう呼ばれる妖怪が俺に気づく。その名が表すように、その両手には一対の目があった。

「ホウ。私ニ挑ムカ小僧」

 編み笠をかぶった御坊さんのような姿で、手の目はこちらにその両手を向けた。右手に碧眼、左手に赤眼。

「返リ討チニシテクレル!」

 こいつは言葉を喋れるらしい。濁った声と共にその両手の眼球が妖しく光る。


 ―― だが、その『眼』を俺に見せたのは間違いだ。

 俺は手の目が攻撃をしてくる直前に、手に持っていたナイフを投擲する。……手の目は攻撃中に動けない、そう理解った[わかった]からだ。


 ナイフは狙い通り手の目の赤い左手に突き立った。

「ゲ、グァアァァアァア!」

 手の目が左手を押さえて絶叫する。奴の意識は完全に俺から離れた。

「――よそ見すんなよ、なッ!」

 既に十分に近づいていた俺は、手の目がかぶっている編み笠ごと掌底で殴り倒した。確かな感触が、的確にこめかみを捉えたことを伝える。同時に左手に刺さっているナイフを抜くのも忘れない。

 思いのほか勢いが強かったらしく、結構な距離を転がって手の目は動かなくなった。

 よし、これで2匹目。そしてひとまずの目標は達成。

 雪女の放つ冷気から走って逃げ、俺を追ってきていた妖怪達へと向き直る。


「ウギャギャギギギィ!!!」

 そして予想通り、俺に最も近づいていたのは先程スルーした鬼。のっぺりとした金槌を横に構え、今にも薙ぎ払おうとしていたところだった。

 ………鬼の速度、構え、金槌の質量、そして現在の位置座標。

 刹那の時間があれば、事足りる。

「ウギャギャギギギャッキーン!」

 鬼は野球のバッターそのままに特大の金属バットを振り抜いた。―― 俺ごと。

「ナーイスバッチン!!」

 金槌に飛び乗り、そのまま鬼のパワーに任せてジャンプする。勢いそのまま、俺は妖怪の包囲網をぶち抜いて、――― 襲さんのすぐ横に着地する。

「あう」

 我ながら完璧な着地。両足からくる痺れなど許容範囲だ。………痛てて。


「回復できたか?襲さん」

 襲さんは既に立ち上がっていた。右手には使いこまれたレトロな拳銃。

「当たり前でしょ、」

 蹴られた額からの流血はしっかりとその顔と髪を染めていたが、それでも彼女は笑う。

「釈クンにばっかり良いトコ見せられちゃね?」

 無垢に。

 思わず見とれてしまったとか、言う訳がない。うん。



「さて……反撃だぜ、宣教師さん?」

 俺はナイフの血を払いながら、いまだに多くの妖怪を従えた女に言う。妖怪は攻撃するなとでも命令を受けているのか、女の後ろから動こうとはしない。


「―― フフッ、アハッ、ハハハハハハハハハハハ!」

 鬼塚の笑い声が砂地に響き渡る。遮るものが自身の結界によって失われた空間でも、その声はよく通り抜けた。

「―― あぁ、可笑しい。カッコ良すぎるわよ貴方!これだけの物の怪相手に立ち回って二匹も倒したのに、それが雑火ちゃんの為の時間稼ぎだなんてね!

 ……貴方、雑火ちゃんの事ちゃんと知ってる?その娘はね、確かに雑火一族の本家の娘。だけどね、雑火ちゃんには雑火一族が誰でも使えるはずの『炎の力』が使えないの!『炎の力』は、そうねぇ、パイロキネシスって言うんだっけ?アレよ。『雑火』の名前の由来でもあるわ。

 だから『落ちこぼれ』の雑火ちゃんは、あんな古式な玩具みたいな銃で戦うしかないの。お姉さんみたいな『能力者』に効くはずがないのにねぇ!」

 その笑みは襲さんとは対称的で、狡猾で、美しかったが。


「言いたいことは、それだけか?」

 ―― 絶対に、俺は好きになれない笑みだった。

「良いぜ。ちょっと本気で戦[や]ってやるよ、宣教師」

 そうしなきゃ吹っ切れないからな。

「……え、釈クン?」

 襲さんは俺の声色の変化に敏感に気づいていたらしい。

「襲さん、『護衛』は任せた」

 戸惑う襲さんでさえも組み込み、そして。


「アハハハハハハ!一人だろうと二人だろうと、お姉さんの『鬼魅』は破れないわ!良いわ、相手になって――」

 

 ―― 全ての物体の現在座標。


 ―― 全ての妖怪の行動統計、心理状態。


 ―― 襲さんの残体力。


 ―― 宣教師鬼塚の行動統計、心理状態。

 ―― 襲さんの銃の総合性能。


 ―― 『結界』内であることの数値変動。


 ―― 俺自身の運動能力。


 ―― この場に存在する数値をすべて計算に叩きこんで。



「―― あげる!」

 妖怪どもが一斉に動き出すのと、俺が走り出すのは同時だった。



 ……まず倒すべき妖怪。そいつは向こうからやってくる。

「……拙者が相手仕る[つかまつる]」

 妖怪たちの中で最も移動速度が速い、カラス天狗。コイツに後ろを取られるわけにはいかない。

 カラス天狗は得物の錫杖を振りかざし、背中から生やした漆黒の翼で地を舐めるように飛ぶ。圧倒的な速度で距離が詰まっていく。

 俺はわずかに体勢を低く構えた。ナイフは左手で逆手に持つ。

 速度はそのままエネルギーへと変換される。それだけでは対して武器としての用をなさない錫杖が、唸りをあげて迫る。

 だが、その動きは至って直線的だった。つまり……


「雑火式小銃――」

 俺は飛んでいるカラス天狗と地面、そのわずかな隙間をくぐり抜けた。錫杖は空を切る。

「…何!?」

「―― 壱式ッ!」

 ……俺の背後に控える襲さんにとっては格好の的。屈んだ俺の後ろで、しっかりと狙いはつけられていた。

 壱式が作り出した爆風は俺の背中を押して加速をつける。


 ―― そして目前には妖狐。体よりも大きな尻尾を九本持った、大型犬ほどの狐だった。

 こちらの様子をうかがっていたそいつに正面から突っ込む。風に勢いを上乗せさせ、左手の逆手に持ったナイフで妖狐の左半身を一気に切り裂く。

 ……妖怪といえど、所詮四足歩行の動物だ。前進するのに適した肢体では、真横に飛び退くなど器用なことはできないと理解っている。

 手応え。鮮血。返り血がカッターシャツに飛ぶ。

 これで四匹目。

 ……思い通り、ただ突撃していた妖怪たちに一瞬の戸惑いが見えた。

「諦めろ。……もう、『答え合わせ』は始まってんだからよ」

 俺は冷酷に言い放った。



 ―― 鬼の一つ眼にナイフを突き立てる。

 絶叫と共に金槌を振り回し暴れ始める鬼から素早く距離をとる。群れの真ん中を駆け巡る鬼の凶器に、周りの妖怪たちが数匹巻き込まれた。

 ……暴れ過ぎだ、バカ鬼。

 妖怪の数を改めて計算しなおす。

 ―― 後方からの殺気。

 体を振り向かせる回転力にのせ、ナイフで素早く背後を薙ぐ。ガキィ、と硬質な音。

 氷の長剣を携えた雪女を力任せに弾き飛ばす。

 刹那に襲ってきた火の玉は返すナイフで叩き落とし、横から炎を纏って突撃してくる火車は、

「……させないッ!」

 襲さんの正確無比な射撃で木端微塵となる。

 



「一体、何が起きてるの……!?」

 宣教師の呟きが漏れる。あれほどいた妖怪は数えるまでにその数を減らしていた。

 雑火さんの放つ『壱式』は敵の群れの中ではかなりの威力を発揮し、雑魚はほとんどコレで片付く。

「余計な無駄口は死を招くらしいぜ、宣教師さん?」

 俺は再び、壱式の作り出す爆風に乗って加速していた。

 目標は―― 宣教師本人。

「―――― !!」

 



「……たいした反応速度だな、あんた」 

 俺が逆手に持ったナイフ。鬼塚が縦に構えた小刀。

「あら、貴方に褒められるなんて光栄ね。あれほどの物の怪を消しておきながら」

 それらはギッチリと十字に噛み合っていた。

「『理解ってる』からな、そりゃ」

 ギンッ、とお互いに得物を鳴らしながら、後ろ飛びに間合いを取る。

「確かに、『未来予知』は伊達じゃないようねッ!」

 そして次の瞬間にはお互いに詰め寄る。俺は下から、鬼塚は横から鋭刃を放つ。

「っと……。未来予知か、あながち間違ってないな」

 火花を散らしながら振り切り、すかさず刃を返す。

「どぉゆぅことかしら?」

 鬼塚は俺の横薙ぎを躱し、踏み込んで小刀を突き出す。見てからでは反応できない、速い動き。

「さあな」

 俺は躱されたナイフに引っ張られるように斜めへと屈む。

「はぐらかすわね」

 顔面めがけて鬼塚の膝が飛んでくる。

「教えてやろうか?」

 両手で膝を包むように受け、勢いをもらい屈んでいる状態から後転しながら距離を離す。

「ええ、是非お姉さんに教えてほしいわ」

 ちょっと背中が擦れた。カッターシャツが砂まみれになる。

「俺には『理解る[わかる]』んだよ、色々とな」

 鬼塚は容赦なく追撃をしてくる。

「『理解る』?」

 小刀の軌跡が虚空に焼付くほど速く、その剣筋は閃く。

「俺には大した、例えばあんたみたいな『力』なんて何も無いんだよ。もちろん、『未来予知』なんてこともできない。ただ、他人より少しだけ『気づきやすい』ってだけだ」

 避ける。逸らす。躱す。捌く。受ける。見切る。弾く。

「ハッ、ならさっきの大立ち回りも、お姉さんの攻撃が当たらないのも、全部があなたの『気づき』や『理解』だと言うの?」

 一際強い閃光を、俺は止める。

「ああ、そうだ――」

 もう一度、ナイフと小刀は十文字に組み合う。


Rippuの屑書き。


「―― 理解ってるんだよ、何もかもな」

 お互いを突き飛ばすようにして離れる。これが最後になるだろう。

 


 ―― しかし、俺が走り出そうとした刹那、俺と宣教師の間に唐傘の化け物が割って入る。

「……ごめんね。お姉さんも負けるわけにはいかないのよ」

 唐傘は俺に向かって大きく開いて、俺の視界を紅く遮る。

 鬼塚は傘へと、小刀を腰だめに構えたまま走っていた。

「お姉さんが見えない状態で、『理解』してみてよねッ!」

 唐傘ごと俺を貫く気なのはアホでもわかる。だが、傘も妖怪だ。視界を覆う範囲から避ければそれなりの対応をされるに違いない。

 もう、鬼塚はそこに迫っているのも理解っている。

 そう、



「だーかーらー、理解ってるって言ってんだろ?」



 乾いた破裂音。そして爆発。

「『護衛』、ちゃんとしたでしょ、釈クン?」

 俺と宣教師、その真横には、襲さんがいた。

 少し得意げに笑ってガッツポーズをしていた。




    #   #   #




 路地裏に張り巡らされた結界が解ける。日中でも暗い路地裏は、若干影を濃くしていた。

 鬼塚は爆風の直撃をうけて気絶している。あと少しもすれば起きるだろう。

「釈クン」

 その顔を見下ろしていた襲さんが呟く。

「ありがとね。トドメ、取っといてくれたんでしょ?」

「……さあな」

 俺がこれを『答え』にした理由。

「……でも、襲さんは『落ちこぼれ』じゃない。だろ?」

 ―― 襲さんは一度戸惑って、それから持ち前のとびきりの笑顔で、大きく頷いた。





ーーーーーー3-8に続くーーーーーー




どうも、またまた一か月ぶりです、Rippuです。

書いているうちに構想より長くなってしまい……


の割に文章力足りてないという罠orz

そして強引な展開w



さて、今回ものら様、お忙しい中

素晴らしいイラストをありがとうございましたm(_ _)m


そして読者の皆様にも謝辞をば。


次回更新はなるべく早く!のつもりで

頑張りますφ(。。;)


ではまたノシ



初読の方は第1章よりどうぞ↓

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・Illustration by のら





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 3-6




「『撃鉄』、装填――」

 カレルがその鈍色の無機質な右腕を構えるのと同時に、私は纏わせていた『水』を放つ。

「噛み砕け、『ミズチ』!」

 私の声とともに、一匹の蛇と化した水が宣教師の足を狙って襲い掛かった。

 カレルは右の拳を腰へと溜めていく。



「――『撃て』」

 


 ―― 刹那、『ミズチ』が消え去る。

「なッ……!!」

 私の制御を完全に失った水がカレルに届く前にざぁ、と地面を濡らした。

 一方、カレル自身はその右腕を構えた姿勢を崩していない。

「……ッ、『ミズチ』!」

 もう一度、足を狙って蛇が飛び掛った。

 だが、その牙を突き立てるより早く、再び爆ぜるようにして水が形を崩す。


「――随分と不思議そうな顔ですね」

 既に肩で息をし始めた私を見て、カレルは溜息をついた。

 硬質化している右手を前に掲げて握る。


「僕の『撃鉄』が、『昔』のように遅いとでも?」

 ―― カレルが一瞬で間合いを詰めてくる。そのまま、大降りに右手の鉄拳で殴りつけてきた。

 かわせる、と思った次の瞬間、私の右脇腹に強烈な衝撃が伝わった。

「ッぁ………」

 瞬間的に息が止まる。下から斜めに振り切られた左拳は、私の体を軽々と飛ばすのに十分だった。……反射的に『水』で勢いを殺したのは偶然で、そうしなければ路地裏のアスファルトに叩きつけられていただろう。

「どうしたんです?『昔』のような速さなら間に合うかもしれませんよ?」

 カレルは追い討ちをかけない。下手にリスクの高い行動をしてこないのは、元軍人である彼らしいと言えば彼らしい。


 私は忌まわしい『呪紋』の激痛を背に感じながらも、もう一度『水』を纏める。こんなところで、負けるわけにはいかない。

「カレル。――」

 釈君も今戦っているのだから。

「はい、何でしょう?」



「―― 調子に乗るなッ!」

 


 ウォーターカッター、というものを知っているだろうか。

 水を超高圧で小さな穴から噴出し、その圧力で鉄版をも切断してしまう工業的な機械装置だ。



「―― 『水神の槍【ポセイドン】』 !!」

 纏わせた水すべてを一点に集中させ、『ミズチ』をはるかに超える速度をもって撃ちだす。速さ、そしてそれに伴う質量も莫大な槍。狙いは右肩。


 だが、常人ならば避けることもままならない水槍に、カレルは真正面から挑んできた。

「『撃鉄』、『瞬時装填【クイックリロード】』」

 私が『槍』を溜めるほんのわずかの間に構えた右手は、手のひらで『槍』を掴むように突き出される。

「―― 『撃て』」

 ガツッ、ともギンッ、ともつかない、およそ水と人間が生み出すとは思えない音を響かせて両者は激突した。

 弾丸のような速度の水が、鋼鉄よりも硬い手に拡散されている。



 ……切断するには勢いが足りない、けれど、吹き飛ばす分にはッ!

 私は背中の痛みを無視して、纏っている残りの『水』を一挙に放射する。

「吹き飛べぇぇえぇ!」

 もはや槍と呼ぶには巨大なほどの水の激流が、宣教師を飲み込まんと突き進む。

 鍛え込んだ軍人の表情が歪んでいく。踏ん張る足が滑り出す。辺りに飛び散る膨大なしぶきは、カレルだけでなく路地裏全体を嵐のようにめちゃくちゃに濡らしていく。


「少し……まずいですね!!」

 叫ぶように悪態をついて、カレルは空いていた左手を構える。

「『撃鉄』、『瞬時装填』、」

 詠唱とともにその左手は自然的な肌の色を失い、代わりとでも言うかのように無機質な金属の質感を帯びていく。そしてそれはものの数秒もかからないうちに終わる。

「―― 『撃て』!」

 そして指を僅かに開いてフォーク状にした左手を、そのままアスファルトの地面へと突き刺した。

「らぁぁぁぁあぁっ!!!」

 獅子のようなカレルの咆哮。全身の筋肉が盛り上がり、全力で『水神の槍』を捻じ伏せにかかる。左手を滑り止めのスパイク代わりに、腕力だけで体を支えていた。


 ―― そして、私は『水』をすべて使い切ってしまう。水量の減少に形をとどめられなくなった『槍』は、あっけなくただの水と化して地面に溜まった。



「嘘……でしょ……」

 カレルは何事もなかったかのように左手を引き抜く。宣教師の足元にできた水の流れは、生半可な量の水では到底できないものだった。

「―― ふぅ。柊さん、僕はあなたを少し侮り過ぎていたようですね」

 思い出したように背中の痛みも戻る。先ほどよりも数段上の苦痛に思わず顔が歪んだ。

 水流に押され、距離がはなれていたカレルがゆっくりとこちらに歩み寄る。


Rippuの屑書き。


「まさか『呪紋』の支配下で『水神の槍』を生み出すとは……いや、賞賛に値しますよ、柊さん?」

「……貴方に言われる筋合いはない」

 赤茶けた短髪の軍人は、その『水色』の目を数回、驚いたようにまばたいた。そして実に愉快そうに笑う。

「あははははははは!そうでした、すっかり忘れていましたよ!戦いとはいいものですね、柊さんからそんな言葉が聞けるなんて!」

 笑いながら近づくカレル。少しずつ、間合いが狭くなる。私が放出した水に背を向けて、真っ直ぐ私へと向かってくる。

「『昔』のあなたからは想像もつきませんね」

 昔。昔の私なら。

「いや……『昔』の僕と言うべきですか」

 ……そんな何度も背中に負った疑問を思い出した。



 ―― そして、望んでいた間合いに入った。水色の瞳が澄んだように輝く。



「―― 『ミズチ』ッ!」
 私は精一杯の『力』を使い、カレルの背後、先ほど『槍』として飛ばした水を数匹の『蛇』に再形成する。水蛇はその体をしならせ、複数が一斉に牙を剥く。


「――『撃鉄』、『散弾装填【ポンプアクション】』、」

 カレルが唱え始めたのは私が『ミズチ』を動かしたのと同時。つまり、カレルもこの間合いを始めから狙っていたのだった。

 左腕の硬化が解け、右拳の装甲が一際分厚いものとなり、右腕全体が鉄のようになっていく。

「――『撃て』!」

 そして、その『撃鉄』の冠り名に相応しく、それは地面へと振り下ろされた。


Rippuの屑書き。


 ―― 路地裏に響く轟音。



「――― きゃぁッ!?」

 足元から全身を満遍なく叩かれたような衝撃が走る。考える間もない刹那に私の体は宙に浮く。そして、

「――!」

 同じように吹き飛ばされているアスファルトやコンクリートの破片が、容赦なく逃げ場のない私を穿つ。

 使い切った『水』を呼び戻すこともできずに、撃たれるままに私は墜落する。

 一瞬の浮遊感と共に、私は意識を手放した。


「しかし、『呪紋』とは凄まじいものですね。あなたを以ってしてさえ、この僕でも勝ちうるまでに抑え込まれてしまう……」

 カレルは静かに呟いた。



   #   #   #



「雑火一人では片付かないか……。なるべく、穏やかにしたいのだけれど」

 誰もいないように見える路地裏。

 そこに、一つの足音が加わる。

 



ーーーーー3-7に続くーーーーー




どうも、Rippuです。

今回も2週間で更新の予定が1ヶ月に延びまして

申し訳ありません(焦)

しかもやや短w

大学とか車校とか色々あったわけさ!



さて、今話もダッシュ多めで文才のなさ丸出しですが

のら様のイラストは勿論付いております。w

のら様、今回も素敵なイラストをありがとうございますm(_ _)m



次回更新は順調に行けば再来週の予定です。。。

GW前になんとかφ(。。;)



それではのら様、並びに読者様に

多大なる謝辞をば。



ではではノシ



初読の方は第1章よりどうぞ♪

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・Illustration by のら




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 3-5



 女の楽しそうな宣言と共に、襲[かさね]さんが動く。

 ひとまずは俺の前に立って、その銃を体の前で構えた。

「釈クンはひとまず私の後ろにいて。あくまでアイツの狙いは君だと思うから」

 凛とした響きの声が、俺に指示する。

「わかった。無理すんなよ」

 俺も首肯して、大振りの片刃のナイフを握りなおす。

 状況は大体飲み込めた。

 俺は改めて女に意識を向ける。

「あらあら、雑火ちゃんたら殊勝な事ねー。自分の命よりも彼を守るんだ?」

 着物の袖を振りながら、女がおかしそうに笑っていた。

「でも、それでお姉さんが倒せるかしら?」



 ―― 襲さんの銃が火を噴く。

 宣教師はわずかに屈んだだけでそれをかわし、長い踏み込みと共に小刀を振るう。

 襲さんが体を引くことで避ける。銃には近すぎる間合い。制服のスカートが翻るのも厭わず、素早い蹴りを繰り出した。女がそれを片腕で受ける。

「良い蹴りね」

 小刀が返ってくる。襲さんは咄嗟に銃を宣教師に向け、零距離でぶっ放した。

 だが女はそれさえも襲の足を突き飛ばすことで軌道を逸らし、反動で間合いを取る。たたらを踏んだ襲さんへとすかさず距離を詰め、小刀を振るう。

 襲さんがその銃の金属部、俗に砲身やバレルと呼ばれる部分で辛うじて弾く。がら空きになった襲さんの胴体に、宣教師の下駄履きの足が突き立った。

「……っ!」

 それだけで襲さんが面白いように吹き飛んだ。固い砂地の上に背中から落ち、苦しそうに悶える。

「今のは危なかったわねー」

 女は襲さんを追撃しない。手の中でくるくると小刀を弄んでいる。

 襲さんは飛び起き、屈んだままの姿勢で再び銃を放つ。女は横へと跳ねるようにして軽く避けた。

「ほらほら、お姉ちゃんに当たってないわよ?」

「ちっ」

 軽く舌打ちをして襲さんが走り出す。女の間合いに入らないように真横に。

 宣教師もそれを見て平行するように走った。……否、気づかれない程度にじりじりと襲さんに近づいている。

 銃声。当たらない。

「……雑火ちゃん遅いのねぇ」

 襲さんが銃を放ったのを見てから宣教師が進路を変える。

 凄まじいまでの急接近。銃声。萌葱色の影の動きは止まらない。

 地面を這うかのような低姿勢から、確かな致死性をもった凶刃が迫る。


 ―― 交錯。甲高い破裂音。

「……!」

 襲さんは女の繰り出す斬撃こそ避けたが、すれ違いざまに脇腹を強烈に蹴られる。勢いのついた一撃に、またもやその細い体が地面を転がる。

「かはっ、こほっ……」

 襲さんが背中を丸めて苦しそうに咳き込む。すぐには立てなさそうだ。

「襲さん!」

 流石に見守るだけという訳にもいかない。

 俺は彼女と宣教師の間に割って入った。順手で持ったナイフを構え、宣教師を見つめる。距離は10メートルぐらいか。

「貴方結構カッコ良いとこ見せるじゃない」

 女が微笑みながら言った。あれだけ驚異的な動きをしておいて、その着物や纏められた髪に一切の乱れは見られない。しかし、俺へと攻撃してくる気配もない。

 俺の背後で襲さんが立ち上がる気配がした。

「―――。」

 どうやら大丈夫らしい。良かった。

 ―― それじゃ、こちらから行きますか。女の人に手を出すのは気が引けるが、まあ仕方ないということで。


「―― あれ?今度は貴方が守る番?」

 女は突っ込んでくる俺を驚いたように見る。俺は有無もなく、とりあえず相手が避けられる程度でナイフを振った。女は身を引いて間合いを取る。予想通り。

 しかし俺は走る勢いを止めずに宣教師へと体ごとぶつかっていく。コレは当てる。女の小刀は動かされる前にナイフで叩き落した。

「え!?」

 そのまま突き飛ばす。体重を支えきれなくなった女の体が後ろへと崩れた。ちょうど尻餅をついたような格好。

「いたぁ!」

 着物の宣教師が余裕なのか驚愕なのかどっちつかずの悲鳴を上げた。なんだか悪い気もする……すんません。

 俺は心の中で密かに謝りながら距離をとった。

 俺の仕事はここまで。短ッ。


 

「―― 装填完了。やっぱただの銃弾じゃ当たんないか」

 そして、俺の後ろでは襲さんが構えている。

 


「雑火式小銃――」

 銃に添えた人差し指がシリンダーを回す。引き金に指がかかり、

「―― 壱式っ!」

 一際大きな破裂音と共に、先程よりも大きな反動と共に彼女の両腕が跳ね上がった。

 銃弾は立ち上がろうとしていた女―― その足元数メートル手前―― に、正確に届く。


 刹那――、

 銃弾が地面で爆ぜる。地面で跳弾する銃弾の代わりに、猛烈な爆風が地面の砂利を伴って、宣教師を殴りつける。

「きゃぁっ!?」

 今度は女の体が軽々と吹っ飛んだ。結構な勢いで叩きつけられている。おお、すげーな。
 襲さんがシリンダーを回して、もう一度『壱式』を撃つ。ちょうど女のいる位置に砂煙が吹き上がった。

 更にもう一発。……流石にやりすぎなんじゃないだろうか。

 


「……ふぅ。コレで良いかな?」

 結局シリンダーの六発全弾を撃ち込んで、襲さんが銃を下ろす。なんか晴れ晴れとした表情でこちらを振り向いてきた。……いやぁ、女ってコワいねー。

「もうすぐしたら結界も解けるんじゃないかな。多分アイツも気絶しただろうし。釈クンもありがとね」

 襲さんが普段の感じに戻って、つまり学校一の美少女の笑顔で、嬉しそうに言った。アレで気絶しただけで済んでいるのだろうか。

「襲さん、蹴られたのは大丈夫なのか?」

「あぁ、平気へーき。ちょっと効いたけどね」

 襲さんが少しばかり痛そうにして、脇腹をさする。あう、と声を漏らして、

「あー、やっぱ痛いかも…。帰って冷やさなきゃ」

 そう嘆く。

 

 だけど、

「…やっぱり、そう簡単には行かないのか」

 結界は消えない。


  

「―― さっきのは効いたわねぇ。お姉ちゃん興奮しちゃったわよ?」

 砂の上に転がっていた宣教師が起き上がる。

 萌葱色の着物は砂埃をまとってはいたが、女がダメージを受けた様子はこれと言って見当たらなかった。片袖を少しまくり上げ、手ではたくようにして着物の砂を払う。

 その様子を見て、衝撃を受けたのは俺でなく襲さんだ。
「嘘…」
「フフ、倒したと思った?」
「だって、壱式は当たって…」
「やーねー雑火ちゃん。確かにアレは当たったわよ?」
「じゃあなんであんたが立ってるのよ!?」
 襲さんが怒鳴るように尋ねる。宣教師の女の存在を全力で否定するようにも見えた。
 だが女は心底から可笑しそうにして言い放つ。
「雑火ちゃんはさぁ、お姉さんが誰かちゃんと分かってる?『宣教師』よ?せーんーきょーし」
「…だから何よ?」
「知ってる?今までの『洗礼』の中で宣教師が倒されたのはたった二回。たった二回よ?その内の一回は雑火ちゃんの隣にいる貴方なんだけどね」
「………」
「だからね、お姉さんが『あんなモノ』で倒される訳ないの。と言うより、雑火ちゃんにお姉さんが倒せるなんてあり得ないのよ?だって――」
 宣教師の笑みに悪戯のような表情が混じる。


「――貴女は『落ちこぼれ』だものね」


 止める間もなかった。
 気がついた時には襲さんは『宣教師』へと駆け出していた。銃も取り出さず、その拳を血が滲むほどに握って。
「――鬼塚ァぁあぁ!」
 それは、邂逅の時よりも更に怒気がこもっていて、更に悲痛にさえ聞こえる叫び。彼女は自らが弾丸になったかのように飛び込んで行く。
「――いつまでも不器用なガキよね、貴女は」
 だが、その『弾丸』はさも当然のごとく、鬼塚と呼ばれた宣教師に受け止められる。襲さんの右拳を左手で掴み、三度目の蹴りがその腹に穿たれた。
「うがッ…」
 襲さんがその場に膝から崩れ落ちる。鬼塚は彼女の体がうつ伏せになる前に、彼女の額を下駄で容赦なく蹴り上げた。
 ――ガンッ。
 そんな鈍い音と共に、襲さんは地面についた膝を支点にしながら、ゆっくりと半円を描くように仰向けに倒れた。
「あら、残念ねぇ雑火ちゃん。あと少しだったのに」
 鬼塚が呻く襲さんを踏みつけ、笑みは嗜虐に歪みだす。
「襲さん!!」
 俺の体がやっと動き出した。片刃のナイフを宣教師に向け、襲さんを助けるべく走る。
「あらあら、守るべき人に守られるなんて可哀想ねー」
「ぐっ…かはっ」
 鬼塚が襲さんにかける言葉は容赦がない。下駄で胴体を踏みしめながら、
ゆっくりと彼女を傷めつける。俺がそこに辿り着くまでの時間、精一杯。
「てめぇ――!」
「あーあ、来ちゃった」
 とどめとばかりに、女が襲さんをもろに踏み台にして大きく後ろへと跳躍した。
 俺はひとまず襲さんに駆け寄る。額と髪の毛は赤黒く染まり、着ていた制服は砂にまみれて所々に下駄の歯が食い込んだ跡を残していた。
「痛ッ…ぁ、釈クン…」
 襲さんが弱々しく口を開いた。
「……ゴメン」
「謝るぐらいなら最初から無理すんなよ、襲さん」
 俺は襲さんの前に再び立つ。宣教師に向かい合う。今すぐにでも介抱したいが、敵は倒していない。
「フフ、貴方ってつくづく良い男ね」
「あんたに誉められても嬉しくねーよ」
「――だから、お姉さんの『力』を見せてあげる」
 

 ――突如、地面が割れるような音がした。
 いや、『割れて』いた。
「――大いなる教えに従い、己が力を解放せん――」
 鬼塚が舞うように言葉を紡ぐ。
「――我が元に集え――」
 割れた地面から、太陽を遮る影が這い出てきた。
 ある者は漆黒の羽と嘴を持ち、
 ある者は吹雪を身に纏い、
 ある者は唐傘の姿をし、
 ある者は天に届くかと言う大髑髏。

 宣教師は水色の瞳を一際輝かせて、そいつらを従えた。太陽の光は余りにも多くの影で見えなくなる。
「――『鬼魅』」
 そう言って女が笑った。
 



「……へぇ、こりゃ大変かもな」
 俺はナイフをゆっくりと構えた。



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どうもお久しぶりです。Rippuです。

入試により休載してはや3か月…
長らくお待たせ致しましたm(__)m

今回ものら様の素敵なイラストと共に
お送り致します(≧∀≦)

入試は無事良く終わりました→


それではのら様、並びに読者の皆様、
今回も感謝をば。


ではまたノシ