初読の方は第1章よりどうぞ♪↓
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・Illustration by のら
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3-7
鬼塚とか言った宣教師【ミッショナリー】が生み出した妖怪たちで、鬼塚の背後の太陽は見えなくなるほどにその数は多かった。
……えーと、カラス天狗に雪女に猫又、狐と座敷童っぽいやつ、河童にデカイ骨、あと傘お化けと……名前知らねー奴も多いなぁ。
「フフ、これだけの妖怪相手に貴方一人で相手が務まるかしら?」
宣教師があやかし達の作る陰の中で妖艶に微笑む。従えた者たちは今か今かと戦いを欲しているかのごとくうごめいていた。
俺は後ろの襲さんを、ちら、と振り返る。まだ起き上がれないまま、その表情は先程鬼塚が銃撃を浴びてなお起き上がった時よりも遥かに驚きを見せていた。
「それじゃ、楽しんでね?」
そんなことはお構いなく、女は冷酷に言い放つ。じわり、と妖怪達が動き出した。
「ったく…」
俺は妖怪全体を瞬時に見回す。とにかく、襲さんが回復するまではこちらは一人だ。
「……楽な計算じゃないな」
―― 最初に仕掛けるのは俺。先手は取られない。
ナイフを片手に群れへと突っ込む。なるべく襲さんと距離を放しておきたかった。
「ウギャギャギギ!」
待ってました、とでも言ったのだろうか。大きな猿のような体をした妖怪が躍り出てくる。金槌を持ち、いわゆる鬼のような……あ、鬼か。一つ目だし。
鬼が振りかぶる。
―― 俺はその横を全速力で駆け抜ける。
「ウギャギ?」
我ながら素晴らしいスルー。学校でもこれぐらいのスルーを決めたいものだ。
疑問符を頭にいくつも浮かべる鬼を尻目に、俺は目標に斬りかかる。
「キィーッ!!」
―― 河童が驚いたように鳴いた。顔面を斬りつけようとするナイフを屈むようにして躱す河童。
「悪いが……ちょっとだけ寝てな!」
だが、その脳天―― ちょうど皿のある場所に、俺は踵を打ち込む。
「キャ、キキキ……」
狙い通り、河童は昏倒するように倒れた。まずは一匹。
俺は既に妖怪たちの群れの中にいる。河童を倒したことで、こいつらの注目は俺に集まった。
「―― 次ッ!」
しかし、まだこいつらに構っている暇はない。
カラス天狗の錫杖を避け、座敷童を飛び越え、狐に追われながら俺は二匹目を目指す。
手の目。世間からはそう呼ばれる妖怪が俺に気づく。その名が表すように、その両手には一対の目があった。
「ホウ。私ニ挑ムカ小僧」
編み笠をかぶった御坊さんのような姿で、手の目はこちらにその両手を向けた。右手に碧眼、左手に赤眼。
「返リ討チニシテクレル!」
こいつは言葉を喋れるらしい。濁った声と共にその両手の眼球が妖しく光る。
―― だが、その『眼』を俺に見せたのは間違いだ。
俺は手の目が攻撃をしてくる直前に、手に持っていたナイフを投擲する。……手の目は攻撃中に動けない、そう理解った[わかった]からだ。
ナイフは狙い通り手の目の赤い左手に突き立った。
「ゲ、グァアァァアァア!」
手の目が左手を押さえて絶叫する。奴の意識は完全に俺から離れた。
「――よそ見すんなよ、なッ!」
既に十分に近づいていた俺は、手の目がかぶっている編み笠ごと掌底で殴り倒した。確かな感触が、的確にこめかみを捉えたことを伝える。同時に左手に刺さっているナイフを抜くのも忘れない。
思いのほか勢いが強かったらしく、結構な距離を転がって手の目は動かなくなった。
よし、これで2匹目。そしてひとまずの目標は達成。
雪女の放つ冷気から走って逃げ、俺を追ってきていた妖怪達へと向き直る。
「ウギャギャギギギィ!!!」
そして予想通り、俺に最も近づいていたのは先程スルーした鬼。のっぺりとした金槌を横に構え、今にも薙ぎ払おうとしていたところだった。
………鬼の速度、構え、金槌の質量、そして現在の位置座標。
刹那の時間があれば、事足りる。
「ウギャギャギギギャッキーン!」
鬼は野球のバッターそのままに特大の金属バットを振り抜いた。―― 俺ごと。
「ナーイスバッチン!!」
金槌に飛び乗り、そのまま鬼のパワーに任せてジャンプする。勢いそのまま、俺は妖怪の包囲網をぶち抜いて、――― 襲さんのすぐ横に着地する。
「あう」
我ながら完璧な着地。両足からくる痺れなど許容範囲だ。………痛てて。
「回復できたか?襲さん」
襲さんは既に立ち上がっていた。右手には使いこまれたレトロな拳銃。
「当たり前でしょ、」
蹴られた額からの流血はしっかりとその顔と髪を染めていたが、それでも彼女は笑う。
「釈クンにばっかり良いトコ見せられちゃね?」
無垢に。
思わず見とれてしまったとか、言う訳がない。うん。
「さて……反撃だぜ、宣教師さん?」
俺はナイフの血を払いながら、いまだに多くの妖怪を従えた女に言う。妖怪は攻撃するなとでも命令を受けているのか、女の後ろから動こうとはしない。
「―― フフッ、アハッ、ハハハハハハハハハハハ!」
鬼塚の笑い声が砂地に響き渡る。遮るものが自身の結界によって失われた空間でも、その声はよく通り抜けた。
「―― あぁ、可笑しい。カッコ良すぎるわよ貴方!これだけの物の怪相手に立ち回って二匹も倒したのに、それが雑火ちゃんの為の時間稼ぎだなんてね!
……貴方、雑火ちゃんの事ちゃんと知ってる?その娘はね、確かに雑火一族の本家の娘。だけどね、雑火ちゃんには雑火一族が誰でも使えるはずの『炎の力』が使えないの!『炎の力』は、そうねぇ、パイロキネシスって言うんだっけ?アレよ。『雑火』の名前の由来でもあるわ。
だから『落ちこぼれ』の雑火ちゃんは、あんな古式な玩具みたいな銃で戦うしかないの。お姉さんみたいな『能力者』に効くはずがないのにねぇ!」
その笑みは襲さんとは対称的で、狡猾で、美しかったが。
「言いたいことは、それだけか?」
―― 絶対に、俺は好きになれない笑みだった。
「良いぜ。ちょっと本気で戦[や]ってやるよ、宣教師」
そうしなきゃ吹っ切れないからな。
「……え、釈クン?」
襲さんは俺の声色の変化に敏感に気づいていたらしい。
「襲さん、『護衛』は任せた」
戸惑う襲さんでさえも組み込み、そして。
「アハハハハハハ!一人だろうと二人だろうと、お姉さんの『鬼魅』は破れないわ!良いわ、相手になって――」
―― 全ての物体の現在座標。
―― 全ての妖怪の行動統計、心理状態。
―― 襲さんの残体力。
―― 宣教師鬼塚の行動統計、心理状態。
―― 襲さんの銃の総合性能。
―― 『結界』内であることの数値変動。
―― 俺自身の運動能力。
―― この場に存在する数値をすべて計算に叩きこんで。
「―― あげる!」
妖怪どもが一斉に動き出すのと、俺が走り出すのは同時だった。
……まず倒すべき妖怪。そいつは向こうからやってくる。
「……拙者が相手仕る[つかまつる]」
妖怪たちの中で最も移動速度が速い、カラス天狗。コイツに後ろを取られるわけにはいかない。
カラス天狗は得物の錫杖を振りかざし、背中から生やした漆黒の翼で地を舐めるように飛ぶ。圧倒的な速度で距離が詰まっていく。
俺はわずかに体勢を低く構えた。ナイフは左手で逆手に持つ。
速度はそのままエネルギーへと変換される。それだけでは対して武器としての用をなさない錫杖が、唸りをあげて迫る。
だが、その動きは至って直線的だった。つまり……
「雑火式小銃――」
俺は飛んでいるカラス天狗と地面、そのわずかな隙間をくぐり抜けた。錫杖は空を切る。
「…何!?」
「―― 壱式ッ!」
……俺の背後に控える襲さんにとっては格好の的。屈んだ俺の後ろで、しっかりと狙いはつけられていた。
壱式が作り出した爆風は俺の背中を押して加速をつける。
―― そして目前には妖狐。体よりも大きな尻尾を九本持った、大型犬ほどの狐だった。
こちらの様子をうかがっていたそいつに正面から突っ込む。風に勢いを上乗せさせ、左手の逆手に持ったナイフで妖狐の左半身を一気に切り裂く。
……妖怪といえど、所詮四足歩行の動物だ。前進するのに適した肢体では、真横に飛び退くなど器用なことはできないと理解っている。
手応え。鮮血。返り血がカッターシャツに飛ぶ。
これで四匹目。
……思い通り、ただ突撃していた妖怪たちに一瞬の戸惑いが見えた。
「諦めろ。……もう、『答え合わせ』は始まってんだからよ」
俺は冷酷に言い放った。
―― 鬼の一つ眼にナイフを突き立てる。
絶叫と共に金槌を振り回し暴れ始める鬼から素早く距離をとる。群れの真ん中を駆け巡る鬼の凶器に、周りの妖怪たちが数匹巻き込まれた。
……暴れ過ぎだ、バカ鬼。
妖怪の数を改めて計算しなおす。
―― 後方からの殺気。
体を振り向かせる回転力にのせ、ナイフで素早く背後を薙ぐ。ガキィ、と硬質な音。
氷の長剣を携えた雪女を力任せに弾き飛ばす。
刹那に襲ってきた火の玉は返すナイフで叩き落とし、横から炎を纏って突撃してくる火車は、
「……させないッ!」
襲さんの正確無比な射撃で木端微塵となる。
「一体、何が起きてるの……!?」
宣教師の呟きが漏れる。あれほどいた妖怪は数えるまでにその数を減らしていた。
雑火さんの放つ『壱式』は敵の群れの中ではかなりの威力を発揮し、雑魚はほとんどコレで片付く。
「余計な無駄口は死を招くらしいぜ、宣教師さん?」
俺は再び、壱式の作り出す爆風に乗って加速していた。
目標は―― 宣教師本人。
「―――― !!」
「……たいした反応速度だな、あんた」
俺が逆手に持ったナイフ。鬼塚が縦に構えた小刀。
「あら、貴方に褒められるなんて光栄ね。あれほどの物の怪を消しておきながら」
それらはギッチリと十字に噛み合っていた。
「『理解ってる』からな、そりゃ」
ギンッ、とお互いに得物を鳴らしながら、後ろ飛びに間合いを取る。
「確かに、『未来予知』は伊達じゃないようねッ!」
そして次の瞬間にはお互いに詰め寄る。俺は下から、鬼塚は横から鋭刃を放つ。
「っと……。未来予知か、あながち間違ってないな」
火花を散らしながら振り切り、すかさず刃を返す。
「どぉゆぅことかしら?」
鬼塚は俺の横薙ぎを躱し、踏み込んで小刀を突き出す。見てからでは反応できない、速い動き。
「さあな」
俺は躱されたナイフに引っ張られるように斜めへと屈む。
「はぐらかすわね」
顔面めがけて鬼塚の膝が飛んでくる。
「教えてやろうか?」
両手で膝を包むように受け、勢いをもらい屈んでいる状態から後転しながら距離を離す。
「ええ、是非お姉さんに教えてほしいわ」
ちょっと背中が擦れた。カッターシャツが砂まみれになる。
「俺には『理解る[わかる]』んだよ、色々とな」
鬼塚は容赦なく追撃をしてくる。
「『理解る』?」
小刀の軌跡が虚空に焼付くほど速く、その剣筋は閃く。
「俺には大した、例えばあんたみたいな『力』なんて何も無いんだよ。もちろん、『未来予知』なんてこともできない。ただ、他人より少しだけ『気づきやすい』ってだけだ」
避ける。逸らす。躱す。捌く。受ける。見切る。弾く。
「ハッ、ならさっきの大立ち回りも、お姉さんの攻撃が当たらないのも、全部があなたの『気づき』や『理解』だと言うの?」
一際強い閃光を、俺は止める。
「ああ、そうだ――」
もう一度、ナイフと小刀は十文字に組み合う。
「―― 理解ってるんだよ、何もかもな」
お互いを突き飛ばすようにして離れる。これが最後になるだろう。
―― しかし、俺が走り出そうとした刹那、俺と宣教師の間に唐傘の化け物が割って入る。
「……ごめんね。お姉さんも負けるわけにはいかないのよ」
唐傘は俺に向かって大きく開いて、俺の視界を紅く遮る。
鬼塚は傘へと、小刀を腰だめに構えたまま走っていた。
「お姉さんが見えない状態で、『理解』してみてよねッ!」
唐傘ごと俺を貫く気なのはアホでもわかる。だが、傘も妖怪だ。視界を覆う範囲から避ければそれなりの対応をされるに違いない。
もう、鬼塚はそこに迫っているのも理解っている。
そう、
「だーかーらー、理解ってるって言ってんだろ?」
乾いた破裂音。そして爆発。
「『護衛』、ちゃんとしたでしょ、釈クン?」
俺と宣教師、その真横には、襲さんがいた。
少し得意げに笑ってガッツポーズをしていた。
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路地裏に張り巡らされた結界が解ける。日中でも暗い路地裏は、若干影を濃くしていた。
鬼塚は爆風の直撃をうけて気絶している。あと少しもすれば起きるだろう。
「釈クン」
その顔を見下ろしていた襲さんが呟く。
「ありがとね。トドメ、取っといてくれたんでしょ?」
「……さあな」
俺がこれを『答え』にした理由。
「……でも、襲さんは『落ちこぼれ』じゃない。だろ?」
―― 襲さんは一度戸惑って、それから持ち前のとびきりの笑顔で、大きく頷いた。
ーーーーーー3-8に続くーーーーーー
どうも、またまた一か月ぶりです、Rippuです。
書いているうちに構想より長くなってしまい……
の割に文章力足りてないという罠orz
そして強引な展開w
さて、今回ものら様、お忙しい中
素晴らしいイラストをありがとうございましたm(_ _)m
そして読者の皆様にも謝辞をば。
次回更新はなるべく早く!のつもりで
頑張りますφ(。。;)
ではまたノシ



