初読の方は第1章からどうぞ♪↓
http://ameblo.jp/rippu2/entry-10955801752.html
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3-10
「おはよー」
「よぉ、識。今日も珍しく早いな」
「最近朝が快調でさ」
「嘘つけー。昼間寝てるから夜寝てないだけだろ?」
「昼は昼。夜は夜」
「昼も夜も遊べる人は良いねぇ。頭良くなりてぇな俺も」
「遊んでねーよ。ついでに頭も良くねーよ」
「はー、俺も雑火みたいに頭良くなくても人気者にならねぇかなー」
「結局そっちに行くのか」
「そんでホームラン打ちてぇなー。三間坂さんとかど真ん中なのに」
「多分かすりもしないぜ?」
「ん?識って雑火派だっけ?」
「さあな」
今日も脈絡のない会話で俺の学校生活が始まる。
一昨日の席替えでも手放すことのなかった窓際の指定席に座って、例の如くHRまでの時間を外の景色で潰す。
昨日の戦いの疲れがないと言えば嘘になりそうだが、しかし柊さんの『癒水』なるものは疲れまで取るらしい。割と体調は万全な方だ。
しかし、あそこまで『宣教師』というものが積極的に襲撃してくるとは思わなかった。『宣教師』に勝つことがどれだけの意味を持つか未だ分からないが、俺にそこまで執着される筋合いはないのだが。
「まったく、面倒な奴だなホント」
……いくら俺が理解るといっても、こうも手掛かりが少なくてはどうしようもない。
しかし解けない問題ほど不愉快なものはない訳で。
苛立ちの募る思考は中断し、放課後に久々にゲーセンでも行くか、とか思いながら、家で早く起きた分の睡眠をいつものように取ろうとして――
「―― 釈、識君はいらっしゃいますか?」
凛、として明瞭な響きの声に、眠る姿勢に移行しつつあった体がフリーズする。
「ああ、良かった。まだ朝早いので、登校していないかと思っていたのですけど」
俺を見つけたらしいその声の主が、すたすたとこちらに近づいてくる気配。
……もうちょっと早めに寝ようとしてればと後悔するが遅い。
「おはようございます、釈、識君。ちょっとお話したいことがあるのですが……」
女子にしては高い身長。モデルかと疑いたくなるような痩身。腰以上に伸ばされた漆黒の髪に、同じく漆黒の色を湛えた瞳。髪や瞳と対照的に白い肌。
「……ここではなんですから、生徒会室でよろしいですか?」
そう言って見目麗しく微笑んだのは、他でもない我が校きっての生徒会長だった。
# # #
―― 目を覚まさせたのは、やはり激痛だった。
硬直する四肢。軋んでいる骨。空気の入ってこない肺。ひたすらに高鳴る心臓。
何処を見ているのか分からない目。周りの音を認識しようとしない耳。
匂いを嗅ぐことすら忘れた鼻。チリチリとした酸っぱさの残る口。
何かに縋るように伸びる手。意識とは関係なくよじれている足。
動こうにも、体は動かない。
叫ぼうにも、息ができない。
覚醒。失神。覚醒。失神。覚醒。失神―――― 覚醒。
「……まったく、やりすぎにもほどがあるわよ、『大司教【アークビショップ】』」
何とか意識を繋ぎ止めるまでに回復したのは、昼過ぎだった。
すっかり体になじんでいるベットの上で、仰向けで天井を見上げる。ベット脇のテーブルには、いつものように私の分の朝食と、手紙と、そして鍵。
キーホルダーも、輪っかの一つすらもついていない銀色の鍵を、私は飽きるまで見つめていた。
# # #
「どうぞ、お座りください」
荘厳な木製のドアをくぐり、またもや校長室かとツッコみたくなる生徒会室に足を踏み入れる。
進められた革張りのソファーは黒々とした艶が新品同様に輝き、一片の曇りなく磨き上げられたテーブルは対面に座った美人生徒会長の御顔を映すほどだ。
何故かこの部屋にいる執事は、待ち構えていたかのように白磁に注がれた紅茶を差し出す。ありがとう、と言って彼女は執事を下がらせた。
恭しく一礼して去っていく執事を眺めながら、つくづく生徒会の桁外れさに肩を竦める。
そして、目の前にいる、三間坂 菖蒲にも。
今にも折れそうなティーカップをお互いに啜る。
「……さて。ここに呼び出した理由は分かっているでしょう?釈、識君?」
「ミルクティーを一緒に飲ませるため、かな」
「アールグレイはお嫌いでしたか?」
「いいや、間違いなく今まで飲んだ紅茶の中で一番うまい」
「そうですか。執事に伝えておきましょう」
先日呼び出された途中から、俺は三間坂さんに敬語を使っていない。親しみたいから、とかそういう理由ではない。
三間坂さんはかすかに微笑む。
「……まだ、私を警戒なさっているようですね」
「さあ、な」
「構いません。当然でしょうから」
ミルクティーの芳醇な香りとなめらかな舌触りを味わい、ティーカップをソーサーに戻す。
「……それで、今日は何の用だ?俺は眠いんだけど」
「それならばコーヒーにしておけば良かったでしょうか?エスプレッソも中々のものですよ」
「ここは喫茶店か?」
「いいえ。生徒会室です」
「だろうな。どこの喫茶店でも、こんなマイセンの白磁器なんて使わねーよ」
「気に入って頂けたようで何よりです」
「欲しいくらいだ」
三間坂さんはちょっとだけ眉を下げ、困ったような笑みを浮かべる。しかしそれは一瞬で、やがていつもの顔に戻る。
「さて……。また『喧嘩』ですか、釈君?」
「………まあな」
「―― 昨日、この地域に『洗礼【サルベーション】』に来ていた『宣教師【ミッショナリー】』、『撃鉄』および『鬼魅』の二名と何者かによる戦闘報告を聞きました。……結果は言うまでもないでしょう」
「……………」
「『教会【エクレシア】』による二人への指示はこうだったようです。…………『悟る者【リアライザー】』を『洗礼』せよ」
「大層な名前だな、そいつ」
「私もそう思っています」
「………」
「『教会』はすでに『彼女』よりも、むしろ貴方を危険だと見なしているようです。釈君」
「へぇ。暇なんだな、『教会』も。俺はあいつらみたいに変な能力なんて無いってのに」
「……危機感を持ってください、釈君。貴方が『教会』の実績に泥をつけたのは紛れもない事実なんです。そして、『教会』は貴方を確実に『洗礼』しようとする」
「何も『洗礼』するものなんてねーよ。会長も、その『教会』ってのも、俺を買いかぶり過ぎだ」
「しかし、現に貴方は『影縫』と『鬼魅』を倒しているでしょう?『悟る者』、そう呼ばれるだけの能力を使って」
「あのなぁ……。勝手に喧嘩始められたらどうしようもないだろ?」
「……今回は『鬼魅』の結界のお陰で戦闘になっていることの発見が遅れました。しかし、『教会』にこれ以上の猶予はないでしょう。次はどんな手を使ってでもあなたを『洗礼』しに来るはずです」
「……つまり?」
「……敢えて私に言わせますか?『悟る者』?」
「……ダサいな、その名前」
「渾名なんてそういうものですよ」
「あのな……」
俺の溜息に満足でもしたのか、三間坂さんは微笑をたたえて紅茶を啜った。話の内容さえ考慮しなければ、だれもが羨む場面である。
「さて、私としたことが話し過ぎてしまいましたね。せっかくの紅茶もぬるくなってしまいました。まもなく授業も始まりますし、これでお開きにしましょう」
三間坂さんが執事を呼びつけた。控室に下がっていた執事がノックと共に、恭しく一礼しながら入ってきて、空になった白磁を音一つ立てずに下げていく。
「美味い紅茶ごちそうさまでした」
高級な革張りのソファーから腰を上げる。この後、いつもの教室で固い木の椅子に座るとか考えたくなくなるのは俺だけではないだろう。
いつの間にか戻ってきていた執事が、重たい扉を眉一つ動かさず開けて待っていた。
「いいえ、私も楽しかったです。今度は、舞踏会にでも招待できると良いのですが」
「今どきの高校生はワルツなんて踊れねーよ」
三間坂さんの微笑みを後ろに、俺は生徒会室を後にする。
……ったく、考えることが多すぎる。しかもかなりの難題だらけじゃないか。
……まずは教室に戻ってから、男どもの猛攻をどう凌ぐか、だ。
# # #
「彼にも『招待状』を用意しておきなさい。差出は『蛇』と」
「かしこまりました、お嬢様」
「お嬢様はやめなさい。お父様とお母様はもういないのだから」
「失礼いたしました、菖蒲様」
「このことは内密にね?」
「承知いたしております」
「それでは、私も授業に参りましょう。後は頼みました」
「行ってらっしゃいませ。アフタヌーンティーには、スリランカ産のセイロンを用意しておきます」
「そう。それは楽しみです」
# # #
「あらぁ、奇遇ねぇ。この国へようこそ、『司教』サマ」
「『心見【スキャナー】』……まだ生きていたの?」
「つれないわぁ。それに今は『心見』の名前は名乗ってなぁいの」
「相変わらず気持ちの悪い声ね……。それで?偉大なる先達様が何の用かしら?」
「ふふ、もしかしたら『司教』サマがよからぬ事を考えているんじゃあないかなぁって。ちょっと『覗き』にきたのよぉ?」
「あら?いくら先達といっても『司教』に向かって『力』の行使とは頂けないわね」
「ンフフ、広い心を持たないと、レディーとして見てもらえないわよぉ?」
「余計なお世話ね。灰にされたいの?」
「きゃぁー怖いわぁ。ワタシは火を使うプレイは嫌いなの。やめてよねぇ」
「じゃあそこを通してくださる?」
「はい、どぉぞ。よかったらアタシの店にも来てよねぇ」
「遠慮しておくわ」
「ホントつれないわぁ。……でも、町で見かけたら容赦しないわよ?」
「わざわざ空港まで出向いて良く言うわね」
「やぁねぇ、ワタシはあの町が気にいってるのよ。それと……フフ、やめておくわぁ」
「そう。いい加減話も飽きたわ。ここじゃなかったら今頃水蒸気よ、あなた?」
「また会いましょ、『司教』サマ」
「あなたが生きていれば、ね。――― 出しなさい」
「ふう。『司教』サマに会うのも命がけねぇ。とりあえず、ワタシも戻らないと――」
ーーーーーー3-11に続くーーーーーー
ホントにご無沙汰してました、Rippuです。
この第3章に1年以上かかってます。ただの亀更新ですorz
何故か会話メインで文章を作ってしまいました。
地の文が上手く書けなかったんです。反省。
冬休み入ってから全力で書いてましたが
途中何度か書き直して色々とあり何とか年内に更新できました(焦)
なんとか冬休み中にもう1話書きたいところです。
それでは読者の皆様に感謝をば。
さて読んでくれている人はいるのですかね……???w
