子機を渡された「モト」はコソコソと自分の部屋に行き『彼女』の相手をし始めた。
とは言ってもドアは半開きだったので覗き見するのは簡単だったのだが、半泣き顔の「モト」が震えながら必死になって
「キミにはもっとふさわしいヒトが居る」
とか
「キミには将来がある」
…とか言っている姿は私には「滑稽」でしかなかった。
(そんな「将来がある」相手に平気でタカっていたのは誰よ?)
それでも結局、5分くらいの事だったと思う。
『彼女』も「モト」の情けなさはもう身に染みていただろうから、言わば「自分の言いたいこと」を伝えるだけくらいだったのだろう。
『彼女』だって下手に長く付き合っていた訳ではなかった、ということだ。
「コト」が終わった「モト」はしばらくメソメソと泣き顔でありながらも、私からすれば
「ああ、こりゃ直ぐ『平常モード』になるだろうな」
…という雰囲気を漂わせていた。
しかし、そこからがより一層「モト」の「モトらしい」……もちろん「悪い意味」で……言動が現れて来ることになる。(しつこいが「当人は全くの無意識」)
『彼女』の電話が終わって一時間もしない時だったろうか。
電話が鳴った。
「もちろん」、「モト」はまだ子機を自分の直ぐ側に置いたままだったのに、何故か?ビビッて出ようともしない。
本当に、心から「情けない」ヤツだ、としか思えない。
…それは我が母からの電話だった。
そう、「伯母」が亡くなったのだ。
結局生きているうちに会うことは出来なかった。
(入院中のあの状態では会わない方が良かったよ、と後で従兄に慰められたが)
しかし、葬儀には絶対行く、という事は既に心に決めていた。
私は出勤の準備をしている「モト」に向かって
「明日から三日間、
休みを取って
『マオ』の世話をしなさいっ!」
…と「指令」を飛ばした。
(確か直ぐ「週末」だったと思う)
「モト」が家を出て行ってから一気に忙しくなる。
先ず必要な電話を掛け捲り、その後商店街に出て最低限必要な買い物ついでに「金券ショップ」に出向いて格安航空券を買い、家に戻って次の日の朝一番……ではなかったが空港から直行すれば十分「通夜」に間に合う、『マオ』が学校を出ると同時くらいに家を出れば良い飛行機を予約した。
母に電話を掛けて葬儀場の正確な住所などを聞き、「通夜」の後は姉の家に泊まることが決まっていたからそれに合わせた荷造りをする。
そして次の日。
葬儀場に直行しなければならなかった私は、誰が観ても
「あ、直ぐ『葬儀』に参加するんだな」
…と判る黒の礼服のまま一人機上の人となった……。