僕は中学生になった頃、
父兄のどなたか、友達の誰かか、
なんだか忘れたが何人かに、
「鎌倉の玉三郎」と呼ばれていたことがあった。
(笑うところ)
東京の表参道からやってきた僕は、
青白くて細っこくて首が長くてなで肩だった。

「なんで俺が女形なんだ」
と、その時は嫌だった。

35年経ち、
映画「わが心の歌舞伎座」で、
楽屋入りする坂東玉三郎を見て、
チョーかっこいいと思えるようになった。

そして先日、いよいよ、
“第5期” となる新しい歌舞伎座へ行って来ました。


地下鉄を出るとすぐ木挽町広場の賑わい。
否が応にも気分は上がる。


歌舞伎揚げでお馴染みの
歌舞伎カラーのかわいいこと。


屋上庭園から4階へ下る五右衛門階段。


隈研吾設計による劇場は、
出入口が右側面にもあり、
昼の部と夜の部の入れ替えもスムース。
特に広いロビーなんて出来てなかったが、
正面玄関を後方に下げ広場を設けた。

内部設備の改善はもちろん多数あるが、
外観は第4期とほとんど同じに造ってある。
後方に高層ビルがあるかないかの差だけ。


この4年間、
歌舞伎座が生まれ変わるまでに、
役者さんもお客さんも俺もみなさん4つ歳をとり、
残念なことに4人もの看板スターが
この新しい舞台に立つことなく亡くなった。
合掌。

夜の部 (第三部) の演目は2つ。

まずは、
我らが鎌倉の鶴岡八幡宮を舞台とした「梶原平三誉石切」。
中村吉右衛門は立ち姿だけでもかっこいい。
そして、体全体が鳴ってるような、
頭の上から声が出てるような、
人間国宝によるまさに歌舞伎然とした台詞回しはやっぱ最高。

幕間を挟み、今回の目玉。
父親お薦めの「京鹿子娘二人道成寺」。
和歌山県道成寺のお話。
僕が新しい魅力の発見として期待していたのはこの舞踊劇。
坂東玉三郎と尾上菊之助が演じる主役二人の台詞はゼロで、
二人の女形の舞がメインの演目である。

初めて観る玉三郎がなにせ凄かった。
何十年も背負って来たものや自身の人格など、
人間性そのものが動作ひとつひとつに出てるようだった。
テレビで1時間近くも日本舞踊を観ることはきっと出来ないが、
生だと一瞬も飽きずに夢中になれるものだった。

寺島しのぶの弟、菊之助もなかなかやる。
って何もわかってない俺に言われたかない。
男を捨て、女形に徹することのなんと男らしいことか。
とにかく二人ともかっこいいのだ。





音楽や芸能界のように、
新しい才能が出て来ては数年で消えていく
みたいなことが歌舞伎の世界にはない。

例えば今日のその他大勢の役者たちが、
がんばればいつか主役を張れるということはまずない。
もう決められた血統の者しかセンターには立てない。
でもこの世界はそこがいい。

聞こえてくるおばちゃんファンの会話は、
「そうなの。○○助が最近よくなってきたのよぉ」。
まだまだ小さい子供の頃から舞台に上がり、
ほぼ生涯現役となるわけだから、
何十年にも渡ってファンは見守り、
応援し続けるのだ。

だって生まれた時に運命は決まっちゃってるんだぜ。
将来何になりたいなんて考える間もなく舞台に上げられてしまう。

「しまった、俺は天皇陛下になるしかないのか」
はたまた「英国王のスピーチ」状態である。
才能があるとか、向いてるとか関係なく、
とにかく長年やって自分のスタイルを構築し、
人々に愛される存在になっていくしかない。

そんな皇室やロイヤルファミリーに感じるような
特別なロマンが梨園にもあり、
ファンは引きつけられているのだろう。


そうそう、
いつか京都の南座、大阪の松竹座へも行ってみたい。