◆館岡家自宅
居間に、キミーを囲み家族がいる。
キミーを見守る咲の目に、不安が募る。
咲「門脈シャントって、どんな病気?」
数時間前に、キミーの様子がおかしいので、O動物
病院で診察を受けてきた。
その結果、門脈シャントと診断された。
洋一「肝臓の機能が低下することにより、アンモニアな
ど毒性の物質が、全身に流れてしまうんだって」
咲「アンモニアって、おしっこ?」
洋一「おしっこにも含まれてるよな。そのアンモニアが
中枢神経にとって毒であり、それが原因で、いろ
いろな症状が起きるらしい。」
咲「昨日いきなり起きた痙攣発作もそう?」
洋一「そうらしい。発作だけではなく、徘徊行動や旋回
行動、悪化すると視覚消失や昏睡状態にも陥るら
しい。」
咲「キミーがいきなり、かっちゃいてきたのもこの病気
が原因なの?」
洋一「院長先生が、この病気の特徴の一つに、理由もな
く攻撃的な行動を取ることがあると、話していた
のできっとそうだと思うよ」
聖子「キミーとステフが捨てられた原因の一つが、この
病気のせいなのかもしれないわね。ところでステ
フは大丈夫なのかしら。」
洋一「俺も気になって、さっき代表さんを通して聴い
てもらったところ、その症状は出ていないらし
い。」
聖子「それなら、安心なんだけれど・・・」
咲「もし、病気だから捨てたとしたら、人間的に許せな
い。絶対、許せない。」
洋一「いろいろな事情があってキミーとステフを捨てた
とは思うけれども、連絡さえくれれば、こちらで
引き取ったのに・・」
聖子「そうよね。」
咲「人間て本当に勝手だわ。自分の都合しか考えていな
い。抑留所でのあの時だって、いいことばっかり言
ってたのに・・・・、もう本当信じられない。」
門脈シャントは、薬では治すことができない病気で
ある。
年をとるにつれてその症状は悪化し、最終的には死
に至る。
◆館岡家玄関(翌日)
仕事が終わり、洋一が帰宅する。
洋一「ただいま」
聖子「お帰りなさい。ちょうどいいところに帰って来た
わ。今日は、病院に連れていくの3匹なの。」
洋一「えっ、キミーの他に二匹?」
聖子「ナナとポン太よ。時間がないの、ナナをキャリー
に入れてくれる?」
洋一「わかった。でも、もう7時だから急がないと病院
が閉まってしまうぞ。」
聖子「わかったわ。」
キミー、ナナ、ポン太、三匹の猫を車に乗せ、慌て
て病院に向かう。
ナナとポン太は、口内炎である。
猫にとって口内炎は、不治の病である。
館岡家にはこの他、金太、プー、シロも口内炎で、
毎日のように病院通いをしている。
猫が四十三匹、犬が五頭もいればしかたがない。
餌代、病院代等にかかる費用は、月に十五万を超え
た。
家族みんなで働いて得たお金は、犬と猫のために消
えていく。
◆自家用車内(病院に向かう途中)
洋一「何とか、時間には間に合いそうだけど、お金は大
丈夫なの?」
心配そうに、聖子に尋ねる。
聖子「今日は、大丈夫よ。でも、今月もかなり厳しい
わ。」
洋一は現在、校長である。
教育公務員の最高職であるからには、それなりの
給与のはずである。
しかし、今は借金に追われるほど、厳しい状況であ
った。
家族が一丸となり、経済的にも肉体的にも、そして
精神的にも厳しい日々を乗り越えている。
◆館岡家自宅(ある日の一日)
午前五時三十分、目覚ましのベルが鳴る。
一斉に起き、それぞれの仕事(犬・猫の世話)に
就く。
◎世話の内容(全部室内飼い)
【犬の場合】
・犬舎の掃除
・ペットシートの取り換え
・餌、水やり
【猫の場合】
・部屋の掃除
・トイレの砂の交換
・餌、水やり
*洋一 : 五頭の犬の散歩・世話
五匹の猫の世話
*聖子 : 十九匹の猫の世話
*桜子 : 十八匹の猫の世話
(朝の二時間は、犬と猫の世話に取られる。時には、朝
食をとる時間もなく仕事に行くこともある。)
午後六時~八時、家族それぞれが帰宅。
その後、それぞれの仕事(犬・猫の世話)に就く。
午後十時から十一時に遅い夕食をとる。
就寝時刻は、ほとんど十二時をまわる。
(「函館ワンニャン物語 ⑬」へ続く・・・)