この「函館ワンニャン物語」は、メンバーが自身の保護活動をシナリオにしたもので、こちらで皆さまにどういった保護活動をしてきたのかを知っていただきたく、ご紹介させていただいております。
これまでの内容は、テーマ別の「函館ワンニャン物語」をクリックしてお読みになって下さい。)
函館ワンニャン物語 ⑧ ~ムック 2~
◆小雨の中の散歩(春の大森浜)
洋一が、三頭の大型犬(ラブ・クロ・ムック)を連
れ、大森浜を散歩している。雨の中を散歩する時は
決まって瀬川瑛子の「函館の雨はリラ色」を口ずさ
む。
洋一『うれしいときも涙が出ると
おしえてくれたあのひとと
いっしょにぬれた朝の雨
おもいだします大森町の
白い渚にしみとおる
ああ 函館の函館の
雨はリラ色』
三頭の犬を連れ散歩する洋一。
洋一と犬との時間が静かに流れていく。
やがて洋一は、三頭の犬とともに自宅に戻る。
玄関先で犬たちの足を洗い、バスタオルで一頭ずつ
足を拭き、家に入れる。
最後にムックの足を拭こうとした時、ムックが異様
な鳴き声を上げる。
あわてて、足を調べるが異常は見当たらない。
◆館岡家宅居間(その日の夕食後)
洋一「今日、散歩が終わった後で、ムックの足を拭いた
らさ、こいつ変な声を出して鳴いたんだよな。気
になって、足の裏も調べたんだけど・・・。何と
もないとは思うけど、何か気なってさ。」
傍にいるムックの頭をなでながら、聖子に話しかけ
る。
聖子「気になるんだったら、明日にでも病院行ってみ
る?」
洋一「うん。そうしてみるか。」
二人で、黙ってムックを見つめる。
◆動物病院(診察室)
簡単な診察の後、レントゲン撮影をし診断がくだる
医師の表情は曇っている。
獣医「難しい病気かもしれません。」
洋一「難しいというと、どんな病気ですか」
獣医「まだはっきりはしませんが、骨肉腫の疑いがあり
ます。左足の付け根に、影らしきものが見られま
す。」
聖子「骨肉腫って・・・。」
獣医「これから、血液検査をしてみます。その結果を見
てから、またお話します。」
洋一「はい、よろしくお願いします。」
診察室から出る洋一と聖子。
二人の間に沈黙が続く。
やがて洋一が顔を上げ、おもむろに口を開く。
洋一「骨肉腫なら、助かるのは難しいかもしれない・・
・・。」
聖子「骨肉腫じゃないかもしれない・・・。」
洋一「そうだよな。」
二人は祈るような気持ちで、診断を待つ。
やがて、診察室に再度呼ばれる。
獣医「残念ですが、やはり骨肉腫です。」
洋一「骨肉腫・・・、ですか。先生・・。」
聖子「先生、助かる方法はありますか。」
獣医「助かる可能性はあります。もしまだ転移していな
ければ、左足の切除でどうにかなると思います。
洋一「切除と言いますと?」
獣医「左足の付け根、関節部分から足を切断し、患部を
除去することです。かなり大がかりな手術になり
ます。」
洋一「切除すると、ムックは助かりますか。」
獣医「開いてみて、患部がどのくらい進行しているか、
また転移していないか、その状況によりますね。
聖子「どうしよう。」
洋一「このままだと確実に命にかかわるんだから、手術
してもらうしかないんじゃないか。先生、よろし
くお願いします。」
洋一に続き、聖子がすがる思いで言う。
聖子「先生、どうにか、どうにか、よろしくお願いしま
す。」
獣医「分かりました。やってみます。」
◆五稜郭公園(ムックの手術から一週間後)
三本足で、ラブとクロと一緒に散歩するムックの姿
がある。
洋一がラブとクロを連れ、聖子がムックを連れてい
る。
洋一「ムック、器用に歩くよな。三本足でもちゃんとつ
いてくる。すごいぞ、ムック。」
聖子「ムックとこうやって、散歩できるのもあとどのく
らいでしょうね。」
ムックの手術は、成功していなかった。
進行具合も予想以上に悪く、しかもすでに転移して
いた。
限られた日々をどのように過ごさせるのか、3本足
でもけなげについてくるムックを見ながら、「せめて
最後まで」と、強く心に思う洋一と聖子である。
しかし、その三週間後、ムックは静かに逝ってしま
う。
洋一の脳裏に義母の言葉がよみがえる。
「私たちの病気を背負って逝ってくれたのね。」
ムックは、家族の誰かの身代わりに骨肉腫になって
くれた。
そして、身代わりに逝った。
(「函館ワンニャン物語 ⑨」へ続く・・・)