函館ワンニャン物語 ⑥ ~命の授業 1~
◆学校(職員室)
洋一は、教頭職5年目で函館のH小学校に転勤する
夏休みを直前にしたある日、洋一のところに段ボー
ルを抱えて用務員がやってくる。
用務員「教頭先生、ちょっと保健所まで外勤してきま
す。」
洋一「えっ、保健所ですか。どうしましたか」
用務員「毎年のことなんですが、また、猫がグラウンド
の物置にこどもを産んだんで、保健所に持って
行き、処分してもらってくるんです。」
洋一は、びっくりして段ボールの中を覗き込む。
中には、まだ目も開かない5匹の子猫がいる。
洋一「ちょっと待ってください。保健所で処分って、
殺すってことですよ。」
用務員「教頭先生、毎年連れて行ってましたけど。」
洋一「とにかく待ってください。私が預かりますか
ら。」
◆校長室
洋一は、5匹の子猫が入っている段ボールを大事そ
うに胸に抱え、校長室に行く。
洋一「校長先生、相談があります。」
校長「どうしましたか。」
洋一「この子猫のことです。グラウンドの物置に居たと
いうことで、用務員さんが私のところに持ってき
ました。
聞けば、毎年この時期に野良猫が物置で子猫を産
むので、自分たちで保健所に連れて行っていたと
いうことです。」
校長は、黙って段ボールの中を覗き込んでいる。
洋一「思いやりの心や命の大切さを子供たちに教える学
校現場で、目も開かない子猫たちを保健所に連れ
て行き処分するということはどうなんでしょうか
私は、絶対に許されないと思います。校長先生、
私が責任を持って飼いますので、私に任せてもら
えませんか。」
校長「わかりました。教頭先生、お願いします。」
その日の夕方、5匹の子猫を保護した。
この出来事を、何人かの子供たちが見ていた。
このことをきっかけに、洋一は保護者参観日に「命
の大切さ」という題名で6年生を対象に道徳の公開
授業を行うことを決意する。
◆公開授業(授業参観日)
あの出来事をきっかけに、子供たちの間では捨て猫
捨て犬の行く末について考える子供が増えてくるよ
うになっていた。
洋一は、道徳の地域教材として、函館アニマルレス
キューを取り上げ、6年団の先生方と協力して、道
徳の授業について話し合いを重ねてきた。
その結果、6年1組、2組合同の授業を行うことに
なった。
教師1「今日はみんなと、命の大切さについて考えてみ
たいと思います。」
『団地犬ダン』(川に流された盲目の子犬。その子
犬を拾った幼い女の子二人は、何でも教えてくれる
優しい団地のおじいちゃんに相談する。しかし団地
には、ペットを飼ってはいけないというきまりがあ
った。人間が決めた決まりか子犬の命か・・・、お
じいちゃんは子犬の命を守ることを決意し、周りの
大人たちを説得する。やがて子犬は、盲目の団地犬
として、人の温かさに包まれ生きていく)のビデオ
視聴後、児童に感想を発表させ、交流する。
児童1「目が見えない子犬を箱に入れて、川に流すなん
て信じられません。ひどいと思いました。でも
優しい女の子が拾ってくれて本当によかったで
す。」
児童2「始めは、団地の決まりだといって子犬を飼うこ
とを認めなかった大人たちも、最後には分かっ
てくれたので、うれしくなりました。」
児童3「団地の決まりより命が大切だと言ったおじいち
ゃんの言葉に感動しました。」
児童4「女の子がおじいちゃんに言った『盲導犬は目が
見えない人を助けるのに、なぜ目の見えない犬
を助けてはいけないの』の一言が、大人の人の
心を変えたんだと思いました。」
児童から多くの感想が発表される。
教師1は、その都度うなずきながら、発表した児童
に共感し、授業が進んでいく。
(「函館ワンニャン物語 ⑦」へ続く・・・)