※登場人物、あらすじの紹介は、前回の記事をご覧下さい。
◆ 小雨降る湯川温泉電停付近(薄暗い夕方)
夕食の買い物の帰り。
自家用車を運転し、聖子が通りかかる。
道路脇にある黒い塊に目が留まる。
聖子「何、えっ! 動いた?」
自家用車を止め、その場所に行く。
夕方の帰宅ラッシュ。
車の往来が激しい中、黒い塊を手にする。
ナレーターにより、次の詩が詠まれる。
『どうしてこんなになっちゃたの
僕 何も見えなくなっちゃった
雨が降ってたよ
とても冷たい雨が・・・
僕 ぼろぼろの雑巾になっちゃった
鉄の車が僕を轢いたんだ
「痛いよ 苦しいよ」
僕、このまま死んじゃうのかな
きっとそうだよね
野良猫の僕なんて だれも見向きもしないもの
お母さんの手の温もり 忘れないよ
そっと僕を温めてくれた あの温もり
真黒なボロ雑巾のような僕を助けてくれたお母さんの手
あの日 僕を抱きしめてくれた大きな手
僕 人間なんて大嫌い
いつも僕たちをいじめるんだもの
怖くて 憎くてしかたなかったよ
ひっかいて 噛みついたこともあったよ
僕 人間なんて大嫌いだったんだ
でもね 僕のお母さん人間なんだ
だってあの日 僕を助けてくれたのがお母さんなんだもの
野良猫の僕を 優しく抱きしめてくれた
車に轢かれて 泥だらけの僕をそっと手で包んでくれた
そんな人間もいるんだよ
僕その日から お母さんの子になったんだ
だから 僕のお母さん人間なんだ
僕 お母さんが大好きだよ
人間のお母さんが大好きだよ』
◆ 柏木ダイエー付近(同時刻)
仕事を終え自家用車で帰宅途中の館岡
洋一が、少年期を回想する。
昭和三十年代の函館。
柏木ダイエー付近は、畑であった。
畑に捨てられている子猫を見つけ、家に持ち帰る洋
一。
洋一「お母さん、これ・・・」
びくびくしながら、母親に見せる。
母親「また拾ってきて。うちは貧乏なんだから飼えない
って言ったでしょ。何度言えばわかるの。捨てて
きなさい。」
洋一は、泣きながら子猫をもとの場所に戻しに行
く。
◆館岡家宅
ひと足早く聖子が帰宅する。
聖子は慌ただしく保護した猫の世話をする。
間もなく、洋一が帰宅する。
洋一「ただいま」
聖子「あなた、大変!」
二階から、聖子の叫び声がする。
洋一は、急いで二階に上がる。
洋一「どうした?」
聖子「これ、見て」
洋一「何だこれ、生きてんのか。」
聖子「何とか。でもかなり体温が低くて、どうしましょ
う」
洋一「どうしましょうって、とにかく温めてすぐに動物
病院に連れていくしかないだろう」
二人で急いで病院に行く用意をする。
◆O動物病院(診察室)
レントゲン結果、しっぽと右足骨折。
獣医「難しいかもしれませんね。」
聖子「先生、どうにか助けてください。お願いしま
す。」
獣医「これだけ体温が低いと・・・、助かったとして
も、この足では・・」
洋一「とにかく、できる限りのことは、お願いしま
す。」
獣医は無言で治療に取り組む。
洋一と聖子は心配そうにただ見つめるだけ。
治療が終わり、高額の治療費を支払い帰宅する。
◆
館岡家宅
治療を終えた猫を二人が見つめる。
聖子「助かるかしら・・・」
洋一「残念だけど、無理かもしれない・・」
聖子「何とか助けてあげたい・・・」
洋一「とにかく、できる限りのことをするしかない。」
聖子「また、お金遣っちゃったね。」
洋一「仕方ないさ。この猫、助かったら何て名前を付ける?真黒だから真っ黒くろ介。魔女の宅急便のジジ。それとも・・」
猫のことが心配で、元気のない聖子を励まそうとし
て、はしゃぐ。
聖子「ポン太。」
猫のことをじっと見つめ、ぽつんと言う。
続いて、確かめるように
聖子「うん。ポン太。ポン太がいい」
周りに、数匹の猫がいる。
二人の横には、二匹の犬がすわっていて、心配そう
に二人を見つめている。
(「函館ワンニャン物語 ②」へ続く