木村林太郎ブログ~リンタウロスの森 -5ページ目

白石島への旅

はじまりは今年の春、東京に来たu-fullの侑加さんからのお土産だった。リハーサルからの帰り、別れ際に田端駅の改札の前で、すごく美味しいのでぜひ食べて下さいと、大きな袋を渡された。その晩に早速開封してみると、大きさも枚数も旅館の朝食でたまに食べる海苔の倍以上ある白石島の味海苔の小袋がぎっしり詰まっていた。白米とともに口に運ぶと、味も香りも絶妙で、間違いなくこれまでに食べた味海苔の中で最高に美味だった。白石島という地名は聞いたことがなくて調べてみると、瀬戸内海に浮かぶ島の一つで、岡山県笠岡市に属するとのこと。岡山県の島ながら、位置関係的に広島県福山市と結び付きが強いともある。温暖で静かで風光明媚な場所のようだった。関東で生まれ育った自分にとって瀬戸内海は遠い海だ。かつて瀬戸大橋を渡って四国へ行ったことはあるものの、ほぼ馴染みのない土地。ただ中学生の頃に観た大林宣彦監督の名作「さびしんぼう」で冨田靖子さん演じる女子高生が通学のために島からの船で広島県の尾道港に降りてくるシーンが印象的で、いつか訪れたい場所ではあった。その「いつか訪れたい場所」はあまりにも多く、限りある時間や体力、お金の事情で実現することはあまりにも少ない。実際には行けることはないだろうと感じつつ、とりあえず無限に広がるSNSの大海原に向かって「いつか行ってみたい」と呟いてみた。果たしてその呟きが届いたのかどうかは知らない。それからしばらくして、侑加さんから突然「白石島に演奏に行きませんか?」とお話を頂いた。島おこしのため、地元の方のためのコンサートを開く計画があるとのこと。話は思いがけない速さで進み、夏の終わりに侑加さんとu-fullの相方フナハシ君、権藤英美里氏と僕で、本当にそこへお伺いすることになってしまった。


8月30日の昼前、新幹線岡山駅ホームに、大阪と東京からやって来た四人が集結した。このメンバーでは日本最北端からアイルランドまで、本当にたくさんの旅と時間を共にしている。今回はナビゲーターとして侑加さんのお母上もご同行下さっている。これでもかと猛暑が続いた夏、この日の岡山も暑かったが、不快な湿気はない。イタリアで買ったばかりの赤いシャツを着てサングラスをしていたら「バカンスに行く大物ミュージシャンみたい」と笑われた。自分はバカンスなどという言葉とはほど遠い風貌なのでちょっと嬉しかった。

山陽本線の黄色い電車で西へ向かう途中、小雨が降り出した。のどかな田園風景と優しげな山容を眺め、侑加さんの母上からの美味しいお菓子を頂きながらボックス席で談笑すること約40分、笠岡駅に到着。ここでは雨は落ちておらず、人の姿もほとんど見当たらない。静かな午後の町。それぞれが楽器に機材、衣類など大荷物を抱えたり引っ張ったりしながら五分ほど歩いて笠岡港へ。ここまで海は見えず、港も陸地に食い込んだ笠岡湾の奥に位置しているため外海は見えない。もっとも瀬戸内海に「外海」という言葉が存在するのかは知らない。



こじんまりした港ながらターミナルは新しくてなかなか立派だ。ここには我々のように初めて訪れる海の向こうに心踊らせる人もいれば、久方ぶりの島への帰郷のいよいよ最後の行程を迎えて感慨ひとしおの人もいるかもしれない。そんな人々や想いが常に交錯する場所には必ず名曲が存在する筈だが、頭に浮かんでくるのは「瀬戸の花嫁」ばかり。そう、島から島へと渡ってゆくのだ。券売機で舟券(違)を購入し、みんなでセブンティーンアイスを食べていると、ほどなく出港時間になった。これぞ桟橋というような桟橋を通って「ニューかさおか」という小さな船に乗り込む。若い眼鏡の船員さんに船室に入らなければならないか尋ねると、よほど海が荒れない限り外にいて良いとのことで、甲板にとどまる。船はアルミ合金製で、19トン。定員は79名。自分が北海道への往復でよく乗船するフェリーはおよそ1万5千トンだから比べるまでもないが、出港時の高揚感は同じだ。「ニューかさおか」は大型フェリーとは違って身軽に向きを変え、大きなエンジン音を響かせながら速度を上げる。船が通った後には小さくないうねりが生まれ、笠岡湾内の岸壁の釣り人たちは激しく動く糸を何とかコントロールしている。

笠岡港を出ると神島、高島に寄港したのち、40分ほどで白石島に着く。そこからさらに北木島を経由して、終点は真鍋島。これらの島々は笠岡諸島と呼ばれる。

笠岡湾を出るまでには意外に時間がかかる。笠岡大橋をくぐると陸地に沿って大きく右(西)に回り込み、神島に到着。ここはかつては独立した島だったが、干拓により今は本土とつながっている。港では先ほどの眼鏡の船員さんが身のこなしも軽やかに桟橋に乗り移り、てきぱきと着発業務を行い、着いたかと思っているうちにあっという間にまた出港。神島を出るといよいよ海に乗り出すという感じだ。




かつて海賊や水軍が支配していたであろう瀬戸内の海。曇天でも空はまぶしく、「ニューかさおか」は高い水しぶきを上げて疾走する。なかなか味わえない爽快感に、一同の表情もいつもにも増していきいきしている。侑加さんは乗り合わせた女学生に話しかけていた。はにかみながら彼女が答えたところによれば、高島から笠岡に通う高校生で、今日は早い帰り道らしい。リアルさびしんぼう。大海原、そして緑豊かな島々に見とれているうちに高島に到着。かの女学生を含む数人が下船。ここで眼鏡の船員さんと共に出港準備をしていたキャプテン(と思われる)が何かのはずみで、機具にしたたかに鼻をぶつけていた。思わず侑加さんが「大丈夫ですか!?」と声をかけてしまうほど衝撃的な光景だったのだが、そしておそらく流血するくらいの負傷はしたに違いないのだが、誇り高き海の男は「同情はいらねえ」とばかり(なるべく)平然として操舵室へと戻って行った。いよいよ目的地に着く!という喜びよりも、どちらかと言えば痛みに耐えて操舵しているキャプテンを案じているうちに、「ニューかさおか」はすいすいと白石島の港へ入っていった。

FOREST BABY 秋の北海道ツアー

FOREST BABY「ケルト歌めぐ2023秋~北海道編」

10/6(金)江別・大麻
えぞりす亭
江別市大麻東町13−36
18:30open/19:00start
2500円(1ドリンク込み)
出演
寺田侑加(アコーディオン、歌)
鳥井麗香(歌)
木村林太郎(ケルティックハープ、歌)

10/9(月・祝)富良野
野良窯カフェ・ノラ
富良野市下五区
19:00start
入場無料/任意の投げ銭制
出演
寺田侑加(アコーディオン、歌)
岡本千佳(バウロン、笛、歌)
権藤英美里(フィドル、歌)
鳥井麗香(歌)
木村林太郎(ケルティックハープ、歌)

10/10(火)札幌
のや2nd
札幌市東区北12条東5丁目1−17
18:30open/19:00start
2500円(1ドリンク別)
出演
寺田侑加(アコーディオン、歌)
権藤英美里(フィドル、歌)
鳥井麗香(歌)
木村林太郎(ケルティックハープ、歌)
ゲスト 小松崎健(ハンマーダルシマー)
※この日「のや2nd」でお食事の提供はありません。

ご予約:rintauros@gmail.com


夏の終わりに西日本ツアー

【演奏情報】
8/31(木)岡山県・白石島
9/1(金)島根県・松江WATER WORKS
(以上ufull & DoooRinn)

9/2(土)京都・ウッドノート
9/3(日)大阪・time blue 
(以上FORESTBABY)

美しい旋律と言葉を運びます。ぜひお付き合い下さい!