いよいよ、中国・北京で行われる「抗日戦争勝利80年記念」軍事パレード参加のため、北朝鮮の金正恩総書記が北京入りした。

 

 北朝鮮は訪中ぎりぎりまで、訪中の具体的な日程や交通手段は明らかにしていなかったが、特別列車での移動を見据えて、中朝国境に位置する中国東北部の遼寧省丹東市では、警備が強化。市内の一部ホテルでは、規制期間は「北朝鮮以外の外国人を締め出す」措置がとられるなど、日を追うごとに物々しさが増していた。

 金正恩の訪朝は5回目となり、今回は2019年1月以来となるが、前4回の訪中のうち2回で専用機、2回で特別列車が使用されている。

 

 ただし、専用機「チャムメ1号」は製造から50年が経過し、近年は国内移動の際にも使用された形跡がないことから、やはり特別列車での移動が濃厚だとされてきた。

 

 大の飛行機嫌いだった父・金正日が、全ての外遊を列車で移動したことはよく知られる話で、その距離はなんと、6万4000キロに及ぶ。
 

 金正恩も2018年6月にシンガポールで行われた、史上初となる米朝首脳会談では、ベトナム国境までの数千キロの道のりを、中国国有鉄道が牽引する特別列車で移動。そこから旅客機でシンガポール入りした。

 翌2019年、ベトナム・ハノイでのトランプ会談の際も、65時間以上かけて列車で移動するという、極めて効率の悪い手段をとっているが、理由のひとつは安全上の問題だが、実は中国の国共内戦当時、北朝鮮は列車で中国へ物資を運ぶなどして支援してきまたが、中国はその見返りとして、現在も北朝鮮側からの列車訪中を許容する特別待遇をとっている。

 

 北朝鮮にとって中国へ自由に列車移動できる事実を内外に見せるのは、両国が特別な関係にあることをアピールする、格好の材料でもあるわけだ。

 ただ、列車での長距離移動においては、どうしても「狙われるリスク」が高くなる。

 

 金正恩が乗る特別列車は分厚い防弾ガラス仕様であるのはむろんのこと、四方八方に「鉄壁」が敷き詰められ、衛星からの追跡を逃れるため赤外線を吸収する特殊コーティングが施されるなど、まさに「動く要塞」といわれる。

 かつて特別列車に乗車したことがある、元ロシア外交官の談話によれば、列車には美しい女性車掌が乗務しており、豪華な食事や酒が振舞われたほか、ちょっとしたお色気サービスもあったのだとか。

 

 むろん、この時は接待という意味合いがあったようだが、いずれにせよ、専用列車の内部はベールに包まれていることは間違いない。

 2004年には金正日暗殺を目論んだ一味が途中駅で爆破事件を起こしたが、専用列車が通過した後の爆発だっため、難を逃れた。

 

 とはいえ、国家転覆を狙う反乱分子にとって、独裁者の列車移動はテロ遂行の絶好機。

 

 パレード開催までに「何か」は起きるのか。