7月27日に襲った記録的豪雨により、北朝鮮北部の中国との国境地帯で大洪水が発生。

 

 「5000人以上の住民が浸水しやすい地域で孤立するという深刻な危機にある」と北朝鮮の朝鮮中央通信が発表したのは、8月2日のことだった。

 

 通信は同日、北朝鮮の平安北道北西部で、4200人以上を救助した朝鮮人民軍空軍のヘリコプター部隊を視察したあと、記念撮影に応じる金正恩総書記の写真を公表したが、朝鮮中央通信は、降り続いた豪雨が中朝国境を流れる鴨緑江を氾濫させ、『約4100世帯の家屋と3000ヘクタールの耕地、公共施設、道路、鉄道が浸水した』と報道。

 

 となれば当然、死者・行方不明者の数も相当数いるとみられ、韓国メディアは国情院(韓国国家情報院)からの情報をもとに、『災害による死者・行方不明者は最大1500人に達する可能性がある』と報じてた。

 

 しかし、北朝鮮側は韓国報道を全面否定。

 

 8月2日に正恩氏が空軍ヘリ部隊を視察した際の演説で『浸水による被害が最も大きかった新義州地区で人命被害が一件も出なかった。これは奇跡としか表現できない』としており、その後も死者・行方不明者の数については一切公表していない。

 

 そのため現在も、人命にどの程度の被害があったのかは明らかになっていないのが実情だ。

 北朝鮮の秘密主義は何も今に始まったことではないが、洪水被害が恒例化、慢性化している北朝鮮では、数年に一度は決まって台風や豪雨による大災害が発生。

 

 その際には必ず、韓国などからの支援申し入れがあるが、北朝鮮はこれらの支援申し入れを拒否し続けてきた。

 今回も1日には、韓国統一省が人道支援を至急提供する用意があると発表。

 

 2日には支援提供を打診するために南北連絡事務所の通信チャンネルを通じ連絡を試みたようだが、結局、北朝鮮政府からの応答はなかった。

 

 ま、名指しで『敵国』とする尹錫悦政権下の韓国だ。そこから支援を受けるつもりはさらさらないだろう。それはわかる。

 ただ、これまで、“どこからの支援も受けない”と強気の姿勢を貫いてきた意地もあるのだろうか。今回の災害を受け3日には、ロシアのプーチン大統領が正恩氏宛てにお見舞いとともに「あなたは常にわれわれの援助と支援を頼ることができる」という旨のメッセージを送ったことをクレムリンが明らかにしている。

 

 だが、正恩は謝意を示しながらも、すでに対策が講じられていると返答。

 

「いずれ援助が必要になった際にはモスクワの真の友人たちに要請するだろう」と述べたという。

 しかし、朝鮮中央通信が報じた、北朝鮮の平安北道北西部で5000人以上の住民が浸水被害に遭い、うち4200人が救助されたというのが事実であれば、単純計算で残り800人はまだ現地に取り残されているのか、あるいは亡くなっている可能性も高いということになる。

 

 にもかかわらず、緊急人道支援を拒否する背景にはいったい何があるというのか。

 おそらく、その理由の一つが、敵から塩を送られることに対する屈辱。

 

 祖父、父も耐え忍び妥協しなかったことを、自分の代で覆すことはできない。

 

 そして、もう一つが、独裁秘密国家である以上、たとえ事実上の同盟国となったロシアであっても、監視がない中で自国を勝手に往来させわけにはいかないという事情もあるだろう。

 

 韓国の報道によれば、正恩氏が毎度毎度、洪水で氾濫が起き、災害になることに激怒し担当者を粛清した、との記事が出ていまたが、まるで外に吐き出せないストレスを部下にぶつけている、そんな印象も拭えない。

 近年、体重140キロを指摘されている正恩氏だが、今回のイライラでまたもや体重増加に懸念の声があがっている。