ロシアによるウクライナ侵攻後、囚人兵を含め、のべ5万人の兵士を戦場へ送り込んできたとされるロシアの民間軍事会社「ワグネル」。

 

 その創始者が、昨年8月に飛行機墜落事故で死亡したエフゲニー・プリゴジン氏だ。

 プリゴジン氏は、長年にわたりプーチン大統領の“汚れ仕事”を担当。

 

 しかし、ウクライナ戦争で世論から英雄視されたこともあり、軍トップのショイグ国防相(当時)らに対し「弾薬はどこだ!お前らが高級オフィスで太るために兵士らは死んでいく」と激しく罵倒。結果、両者の間にできた溝は深まるばかりだった。

 

 そして1年前の6月23日に勃発したのが、ワグネルの部隊が南部の都市ロストフを掌握するという電撃クーデター「プリゴジンの乱」だったというわけである。

 

 外報部記者の話。

「プーチン氏としては、いとも簡単にロストフ入りさられたことに加え、クーデターを仲裁したのが子分のような存在で『プーチンの犬』とも揶揄されるベラルーシのルカシェンコ大統領だったことで、国内外におけるメンツが丸潰れになってしまった。そのため、このクーデターを境にプリゴジン氏の暗殺を企てていたと見られています」

 ただ、反乱から数日後、プーチン氏はプリゴジン氏と裏取引し、今後ワグネルの活動をアフリカに集中させロシアに資源を確保することで政権を支えれば、反乱は不問にするとの合意を取ったとされる。

 

 とはいえ、むろんそれは表向きの話。プーチン氏としては、いずれプリゴジン氏の首は取るが、ワグネルが長年西アフリカなどの治安活動の見返りで得てきた金や銅などの採掘権は手放したくない。

 

 そこでワグネル幹部を抱き込み、国防軍に取り込むことでワグネルそのものを掌握しようと考えた。

 

 しかし「プリゴジンあってのワグネル」という兵士も少なくなく、結果として多くの兵士が離脱。一時はアフリカからの全面撤退説も流れ、ワグネルの事実上解体も囁かれていた。

「現在、アフリカでワグネルの活動の中心を担っているのが、プリゴジン氏の息子パヴェル氏だとされますが、どの程度、権限を与えられているのかは疑問です。ただプーチン氏としては、プリゴジン氏の息子をトップとして据えておくことで配下の反乱を抑制し、組織運営を保つことができる。同時に息子を国防軍傘下置き甘い汁を吸わせておけば、ワグネルを裏で自由に操ることができるわけです」(同)

 英情報当局によれば、現在ワグネルの残党は、アフリカで活動する兵士のほか、一部は国家警備隊の管理下に入り、一部はチェチェンでプーチン氏の右腕とされるラムザン・カディロフ氏率いるアクマット部隊と合流して前線に立っているという。

「『プリゴジンの乱』以降、囚人兵の前線派兵は国防省がそのまま引き継いだ形になり現在も行われていますが、それでも兵士不足の問題は解消されていない。22日配信のロシア紙『コメルサント』(電子版)によれば、政府は受刑者に加え、起訴前の容疑者や公判中の被告の採用も始めたと報じています。そんな状況の中、戦闘経験豊富なワグネル兵士は引く手あまたでしょうから、今後も形を変えウクライナ最前線へ駆り出されていくことになるでしょう」(同)

 ウクライナ戦争で引き続き多くの血が流されることには変わりがない。