5月にカンヌ国際映画祭でプレミア上映されたトランプ氏の伝記映画「ジ・アプレンティス」の上映を巡り、その決着はいよいよ法廷に委ねられる可能性が高くなってきた。

 古今東西、世界には偉人を描いた伝記映画というものが数多くある。

 

 だが、アメリカの大統領経験者で、かつ11月の次期大統領選出馬を目指す人物を、ここまで手厳しく描いた作品はかつて例がなかったのではないだろうか。

 

 アリ・アッバシ監督、俳優のセバスチャン・スタンがトランプ役を演じる同映画は、まさにそんなシーン連続がてんこ盛りとなった問題作と言えるだろう。

 

 映画ライターがヤバすぎる中身を解説する。

「同作は長年にわたりトランプ政権を取材してきたジャーナリスト、ガブリエル・シャーマンが脚本を担当、メガホンをとったイラン系デンマーク人のアッバシ監督は、イランで実際に起こった事件をベースにした映画『聖地には蜘蛛が巣を張る』などで知られる実力派です。作品の舞台は、1970年代から80年代の米ニューヨーク。不動産デベロッパー時代のトランプと、彼が師として仰いだ顧問弁護士ロイ・コーン氏(ジェレミー・ストロング)との関係を通し、トランプ氏の原点を描いたものです。スタン扮する劇中のトランプ氏は、無類の女たらしで、業績を上げるためには請負業者を泣かせることなど朝飯前。さらに、マフィアとの間でも取引があり、目的のためなら手段を選ばず、という血も涙もない私利私欲にまみれた人物として描かれています」

 ほかにも、減量のためにアンフェタミンを服用し、最初の妻イバナに対しては、女性の解剖学的構造を勉強しろと言われ口論。結果、妻を床に投げ飛ばし、下着をはぎ取って力ずくで…、といったDVシーンのほか、ヘアスプレーを塗りたくり、カラースプレーで見せかけの日焼けした肌を演出。

 

 脂肪吸引や整形手術を受けたり、と本人が目にしたら怒り狂うことは間違いなし、という映像のオンパレード。

「これまでも、トランプ氏の言動はいろいろ物議を醸してきましたが、おそらくこの映像を観た多くの観客は、トランプが自尊心だけが取りえの俗物で、恐ろしいまでの誇大妄想狂だと改めて痛感することは間違いないでしょう。むろん、ドキュメンタリー作品ではなく、エンターテインメントに落とし込んでいるため、誇張している部分も多いとは思いますが、それにしても、伝記映画でここまで媚びていない作品は例がないでしょうね」(同)

 そんなことから、同映画はカンヌでは最高賞「パルムドール」を競うコンペティション部門の一つに選ばれたものの、トランプ陣営の弁護士は、米国での公開や配信を阻止するための中止勧告書を送付。メディアの取材に対し、「この映画は、純粋に悪意ある中傷であり、日の目を見るべきでなく、まもなく閉店するディスカウントストアの劇場未公開DVDのバーゲンコーナーに置かれる価値すらない」と猛反発し、「断固法的措置をとる」と怒りをあらわにしていた。

 一方、プレミア上映後のインタビューで監督は、トランプのために個人上映会を開くことは可能で、「彼がこの映画を嫌いになるとは必ずしも思わない」とコメント、上映についても、一歩も引かない構えを見せている。

 はたして、名誉棄損か、言論の自由か、どちらが認められることになるのか…。

 

 とはいえ、どちらに転んでも映画のPRに一役買うことは必至。今後の行方が気になるところだ。