6月19日に北朝鮮を訪問し、金正恩総書記との間で「包括的戦略パートナーシップ条約」に調印したロシアのプーチン大統領。
同条約には、どちらか一方が武力侵攻を受け戦争状態になった場合には、「軍事的およびその他の援助を提供する」とする「相互支援」について記されている。
ただ、翌20日、次の訪問先であるベトナムで、ロシアメディアとの会見に臨んだプーチン氏は、ウクライナ侵攻への北朝鮮による軍事支援について「我々は求めておらず、その必要はない」と否定。
この戦争はロシアへの侵略には当たらないことから、「相互支援」は適用されないとの考えを強調した。
今回の訪朝では一見、蜜月ぶりをアピールした両国だが、専門家の多くは「くっついては離れを繰り返してきたロシアと北朝鮮の歴史が物語るように、両国がどこまで本気で信頼できるパートナーシップを構築できるかは極めて不透明」と見ており、今後の行方が気になるところだ。
さて、そんなプーチン氏の訪朝を19日、中国国営メディアのグローバルタイムズは「長期間続いた米国とその同盟国による朝ロ孤立と圧迫は、これらの国が欧州・北東アジアで米国主導陣営の脅威に共同で対応させるようになるだろう」と評価したものの、前日の18日、中国外交部の林剣報道官は定例会見の中で、「これはロシアと北朝鮮の間の2国間往来」とだけ答え、静観の構えを打ち出していた。
中国情勢に詳しいジャーナリストが解説する。
「これは18日、韓国・ソウルで中国の外交・国防当局の高官と韓国高官による外交安保対話が行われた際、韓国側がプーチン氏の北朝鮮訪問に対し不法な軍事協力の強化に繋がりかねない、として深い懸念を示したことで、それに配慮した発信と考えられます。ただ、中国の本音はやはり、北朝鮮への影響力低下への危惧でしょう。というのも、北朝鮮の隣には韓国があり、周知のように韓国は対立軸にあるアメリカの同盟国。仮に北朝鮮がロシアからの武器の見返りに技術支援を受け軍事力をさらに増強させた場合、韓国への挑発行動に留まらず、暴走する可能性はゼロではない。そうなればアメリカを交え事を構えることにもなりかねず、それを避けるためにも、中国にとって北朝鮮への影響力維持は最重要課題の一つでもあるわけなんです」
とはいえ、ことさらロシアと北朝鮮へ肩入れすれば、西側からは十把一絡げとみられ中国にも制裁という火の粉が降りかからないとも限らない。
つまり、それが中国のプーチン氏訪朝への「静観」に繋がったとのでは、というのが専門家の見方だ。
「ただ、露朝接近はむろん、習近平氏にとってもメリットであることは事実。なぜなら北朝鮮がロシアにどんどん武器を供与してウクライナ問題が長期化すれば、中長期的にみて支援する西側の武器備蓄は減少する。そうなれば近い将来、中国が台湾に対し武力行使する場合、武器弾薬の備蓄がある中国は断然有利になる。習氏はそれを踏まえながら、ロシアと北朝鮮と関係を作っているということです」(同)
さらに言えば、現状、北朝鮮が行っている貿易は9割超が中国で、ロシアはほんの数%に過ぎず、ロシアへの経済的依存度は極めて低いといわざるを得ない。
そのあたりも考慮しつつ両国を俯瞰で見るしたたかな習氏が、今後仕掛けてくる戦略と野望とは…。