朝日新聞が2月17、18日の両日に行った世論調査によれば、岸田内閣の支持率は21%(前回1月調査は23%)となり、これは同内閣発足以来の最低の数字だという。

 

 一方、不支持率も65%(同66%)で最高水準が続いており、もはや支持率低下に歯止めがかからない状況だ。

 そんな中、北朝鮮中央通信が、「日本が拉致問題を障害物として置かなければ、岸田首相が平壌を訪問する日が来ることもあるだろう」との金与正党副部長の談話を発表したのは15日のこと。

 

 与正氏は金正恩総書記の妹であり、対外政策を担当する事実上の「報道官」だが、この談話に対し林芳正官房長官は16日の記者会見で「留意している」と答えるにとどまったものの、政府与党内では今後の対応を巡り大わらわのようだ。

 岸田首相は2022年9月の国連総会演説で「金正恩委員長と直接向き合う」と述べたものの、全く動く気配がなかった。

 

 ところが昨年5月、パク・サンギル外務次官が談話で「朝日両国が互いに会えない理由はない」と前向きな反応を示したことで風向きが一変。

 

 岸田首相も参議院演説などで「金総書記との首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベル協議をする努力を続けたい」と述べてきた。

 今回の与正の談話は、それを受けて、ということになるが、正恩氏は1月に発生した能登半島地震被害の際にも『日本国総理大臣岸田文雄閣下』宛、とかしこまった表現で、『深い同情とお見舞いの意』を表わす見舞い電文を送ってきたことは記憶に新しく、明らかに日本との距離を縮めたいとする思惑が見て取れる。

 では、金総書記の思惑はいったいなんなのか。

 

 その一つが日米韓の協力体制に揺さぶりをかけ、その分断を意図しているのではないかとされている。

 というのも、尹錫悦氏が大統領就任以降、日韓関係は非常に良好だが、現在の尹政権は北朝鮮に対し超強硬姿勢を貫いているため、仮に岸田氏が日朝関係改善に動いた場合、日米韓3カ国に“溝”が生まれる可能性もある。まさにそれが北朝鮮の思惑だというのである。

 加えて、もう一つ考えられるのが、岸田首相の「本気度」だ。

 つまり『ハイレベルで協議をしていきたい』としながらも大きな進展が見られなかった岸田政権が、支持率低迷にともない突然、日朝関係改善を口にするようになってきた。北朝鮮としては、これが本気なのか、あるいは支持率低迷にストップをかけたいだけのパフォーマンスなのか探っている状態なのかもしれない。

 さらに永田町筋からは、今年の米大統領選でトランプ氏が勝利した場合、米朝交渉再開の可能性があり、そうなった時に日本に交渉の妨害をされぬよう日本との関係改善を事前に図りたいのでは、との声も聞こえてくる。

 とはいえ、当然のことながら最大の問題は「拉致被害者」と「核・ミサイル」だ。

 

 15日の談話で「拉致問題はすでに解決された」と主張した与正氏に対し、林長官は16日「全く受け入れられない」と反論。「核・ミサイル問題」についても与正氏は「両国関係改善と何の関連もない」とあくまで従来の姿勢を崩していない。

 

 はたして、そんな状況の中での訪朝などありうるのか。