東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長の発言について、国内外から批判の声が出ています。

 国会でも「辞職」、「更迭」を求める声が出ています。それに対して、菅総理は「更迭する権限は無い」としています。これ自体はその通りです。ただ、このやり取りは極めて不十分です。というのも、組織委員会は公益法人です。という事は公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(公益法人法)の対象となります。公益法人自体は民間団体ですが、その公益性に鑑みて一定の法的規制が掛かります。

 ちょっと法律を追っていきます。まず、公益法人というのは以下のようなものです。

【公益法人法第四条(公益認定)】
公益目的事業を行う一般社団法人又は一般財団法人は、行政庁の認定を受けることができる。

 では、ここで言う「公益目的事業」とは何かというと、以下のようになっています。

【公益法人法第二条(定義)】
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
四 公益目的事業 学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう。

 ここで「別表」という言葉が出て来ます。もう少し見ていきたいと思います。

【公益法人法別表(第二条関係)】
(略)
九 教育、スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し、又は豊かな人間性を涵養することを目的とする事業
(略)
十四 男女共同参画社会の形成その他のより良い社会の形成の推進を目的とする事業
(略)

 すべての公益法人がスポーツ事業や男女共同参画事業をやる事を求めているわけではありませんが、例えば、男女共同参画が公益法人にとっての大切な価値観の一つだという事はよく分かります。そして、森会長の発言はこの公益法人法の掲げる価値観に反するものだろうと思うわけです。

 

 そして、公益法人法において「行政庁」は以下のような権限を持っています。「報告要求」というものです。

 

【公益法人法第二十七条(報告及び検査)】

行政庁は、公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において、内閣府令で定めるところにより、公益法人に対し、その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該公益法人の事務所に立ち入り、その運営組織及び事業活動の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。

 そして、ここにある「行政庁」とは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会については内閣総理大臣です。ただ、内閣府において、この事務については特命担当相が担当しています。担当大臣は(現在、コロナ対応をしている)西村大臣です。ちなみに、公益法人法においては究極的には勧告、命令、公益認定の取り消しといった権限もあります。ただ、普通は報告要求の段階で震え上がって改めるので、そういう強い措置が取れるステージへ移行する事はありません。

 私は公益財団法人のトップとしてこれだけの大騒ぎを起こした以上は、法令に基づいて、内閣総理大臣の権限を担当する西村内閣府特命担当相が森会長を呼んで、「何やってんの、あなた方?」と報告を要求するくらいの事はすべきだと思います。それは公益法人のガバナンスを確保する観点から重要な事でしょう。これは法令に基づく要求ですから重いです。そして、普通であれば、この時点で相当な効果があります。

 「更迭する権限が無い」といった菅総理の発言は正しいです。ただ、それは何もやれる事が無いという事とは別です。野党も折角質問するなら、公益法人法における行政庁としての内閣総理大臣の権限についてまで言及してほしかったなとは思います。