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 COVID-19関係で、何処か国と地方自治体との関係がギクシャクしています。個人レベルでの好き嫌いもありますが、根本的な所で「考え方の違い」が顕在化しているように見えます。

 

 ベースとなっている新型インフルエンザ等対策特別措置法は、基本的に「地方分権型」で出来ています。2012年民主党政権時代に成立したものですが、作成当時、全国知事会から「知事の権限を明確にすべき」という趣旨の要望がなされています。

 

(あと、余談になりますが、当時の全国知事会のペーパーを見ていると、政令指定都市や保健所設置都市との権限関係の整理をきちんと付けてほしい、と何度か念を押されています。具体的な事例として「学校の休校時期のずれ」が生じ得る事への警鐘まで書いてあります。今回、正に福岡県で生じそうになりました。全国知事会はこの点をよく分かっているのです。今だから言いますが、民主党政権時代、私は(本件だけでなく)色々な機会に「政令指定都市の特殊事情」を訴えていました。総じて理解してもらえなかった事をよく覚えています。そういう感度の低さが、最終的に新型インフルエンザ等対策特別措置法における政令指定都市への考慮の無さに繋がっているのかなと改めて思います。現在、政令指定都市を2つ擁する福岡県で見ていると、この点への制度的な手当て不足が非常に露呈しています。)

 

 そして、新型インフルエンザ等対策特別措置法においては、知事の権限が非常に強いです。新型インフルエンザ(今回はCOVID-19)が発生した時、政府は「基本的対処方針」を作る事が求められ、政府対策本部長(内閣総理大臣)の権限は基本的には「総合調整」です。緊急事態が発令された時は、これに加えて、政府対策本部長は「特に必要があると認めるときは、その必要な限度において」、「必要な指示」をする事が出来るとなっています。逆に言うと、これだけです。基本的には都道府県対策本部長に委ねられ、政府は総合調整をする事になっています。

 

 例えばですが、誤解をされている方が多いと思いますが、外出自粛や施設の使用制限(いわゆる休業)等を要請する事が出来るのは、法律上は都道府県対策本部長です。政府対策本部長と相談したり、了承を貰ったりしなくてはいけないとは何処にも書いてありません。ましてや、政府の指示を受けてやるようなものでは絶対にありません。

 

 都道府県知事の側には、法の制定経緯からしてこういう意識があります。しかし、現政権は考え方が違います。ここまでの出来事を注視する限り、対策のプロセスを出来るだけ国の差配の元に置きたいという発想がとてもよく見えてきます。ここで今、政府が駆使しているツールは主に2つです。


 1つ目が同法によって国が作る事になっている「基本的対処方針」です。どんなに地方分権型であっても、基本的対処方針を国が作るのは当然の事です。ただ、現在の基本的対処方針をよく読んでみると「エラく細かい」のです。基本的対処方針というよりも、「対処方針(詳細版)」に近いですね。ここまでやるのか?と思いたくなるくらい「箸の上げ下げ」が書いてあります。細かく書けば書く程、地方の独自対策は勿論やりにくくなっていきます。


 そして、2つ目が「予算」です。例えば、国の1兆円交付金の使途として当初は休業補償は不可だと担当相は言っていました。最終的には知事会等からの要望で「比較的使い出のいいカネ」になりましたが、最初の頃の政府発言や文書を見ていると、かなり予算というツールを使って都道府県の動きに縛りを入れようとしていた事が窺えます。そんな中、東京都が何故国と結構厳しくやり合えるかというと「平素より国からカネを貰ってないから」です。貰っていたら方針に背く事は難しいです。


 一時期、大阪府知事や橋下徹さんが「法の仕立てが悪い。」と喧伝していましたが、私が見ていると「国の法の使い方が、法の想定している所から外れている。」というのが事実だと思います。繰り返しになりますが、新型インフルエンザ等対策特別措置法には国のやる事として基本的対処方針と総合調整くらいしか書いてないのです。さすがに基本的対処方針も、総合調整の権限も無い国というのは想定できないわけでして、法律自体はかなりの「地方分権型」を追っていると思います。問題点は、知事側は「地方分権型」を念頭に国と向き合ってみたけど、現政権は考え方が違い、基本的対処方針と予算を使って影響力を行使して来た、という事だと思います。

 

 この食い違いが、国と地方のギクシャクさに現れるんです。身体にフィットしない服を無理して着ている感じですかね。