COVID-19関連で、「日本のハンコ文化」について焦点が当たっています。

 

 IT担当大臣は「(はんこがテレワークで問題になるのは)民間同士の話」と言ったそうです。「ホントかな?」と思ったので調べてみました。法令で「印を押」という用語で単純に法令検索してみました(印を押し、印を押す、印を押さなければならない等あるため中途半端な用語で検索しました)。これだけで126件ヒットしました(ただし、例えば「と畜場」系のものは肉等への検印ですので外れます。)。大半が政令や規則ですけども、法律でも民法にすら明示的に「印を押さなければならない」となっている規定があります。決して、担当相が下品に「民間同士」と切って良いようなものではありません。法が求めているわけですから。

 

 という事をFacebookに書いていたら、ある有識者から「デジタル化が進む時、印紙税の事は考えなくてはならない。年の印紙売り捌き収入は1兆円を超えている。」との指摘がありました。

 

 実は文書のデジタル化と印紙というのは微妙な関係にあります。印紙税法という法律が、現代社会を想定しない状態で作られている事により、不思議な結果を招きます。

 

【印紙税法】

第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。 

 

 では、ここで言う「作成」とは何かですが、これは「印紙税法課税通達」というもので決められています。

 

【印紙税法基本通達】

第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。 

 

 そうなんです、「用紙等」への記載が要件になっています。用紙等への記載が無い場合、印紙税を収める必要が無いのです。つまり、電磁的記録による文書作成については印紙税を収める必要が無いという事になります。

 

 実際、政府は国会答弁でその旨を答えています。

 

参議院議員櫻井充君提出印紙税に関する質問に対する答弁書(抜粋)】
五について
事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。

 

 今後、電磁的記録による作成される文書が増えていくと仮定する場合、印紙税収入がどんどん削られていく事になります。

 

 ただし、上記の政府答弁は以下のように続いています。

 

【上記答弁書の続き】

印紙税は、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して広範な文書に軽度の負担を求める文書課税であるところ、電磁的記録については、一般にその改ざん及びその改ざんの痕跡の消去が文書に比べ容易なことが多いという特性を有しており、現時点においては、電磁的記録が一律に文書と同等程度に法律関係の安定化に寄与し得る状況にあるとは考えていない
 

 上記の答弁書が出されたのが、平成17年。残念ながら、これが現時点でも有効な見解です。今から15年前は「デジタル化された文書なんて、法的安定性に欠ける。」という事で、今のような世の中を全く想定していません。印紙税法の規定がデジタル化を想定していない事が問題の根源にあり、政府見解もそれに応じている中、時代と技術の進展に政府見解がマッチしなくなっています。

 

 上記答弁書が出て15年。その間の時代の流れに政治は「不作為」で後れを取りました。ハンコ文化を変えようとするのであれば、こちらも真剣に考える必要があるでしょう。