国の補正予算が30日に成立する事を踏まえ、各地方自治体でも補正予算の編成がほぼ終わったようです。

 

 それぞれの自治体が工夫をしながら補正予算の財源を工面しています。財政健全化を見る指標は色々とありますが、やはりこのタイミングで最も重要なのは「(自治体の貯金である)財政調整基金」だろうと思います。長期的には「(ストックの借金の度合いである)将来負担比率」とかも考慮の対象になるでしょうが、この短期勝負を見た時には、財政調整基金がどの程度積み上がっているかが自治体の独自対策を打つために振れる「袖」になるでしょう。簡単に言えば「貯金が多けりゃ、イザという時、色々な事が出来る。」という事です。

 

 都道府県レベルでは、平成30年度決算での総務省地方財政状況調査で財政調整基金の現在高が出ています(リンク先のExcelの行Gです。)。東京都の8428億というのは完全に別格ですね。また、少し古いデータですが、平成28年度決算での同調査では「過去10年の歩み」について都道府県と政令指定都市について出ていたので、それを私なりに纏めたのがこの資料です。後者の資料を見るとよく分かるのは、「大阪維新は本当にきちんとやっているんだな。」という事です。

 

 我が福岡県は状況が厳しくて、平成18年度決算では48億しかなかったのを頑張って、上記リンクの平成30年度決算では128億まで積み上げていました。ただ、令和元年度予算(3度の補正を含む)、令和2年度予算を経て、新聞報道によると、現時点では56億しか残っていなかったようです。そして、今回の補正で基金からの繰入が95億必要なので、40億弱は減債基金からの繰入になりそうです。減債基金とは、借金の償還用ですから紐付いています。したがって、この繰入は県債新規発行とほぼ同じです。福岡県は既に償還用財源不足が700億以上あります。結果として、数年後から本格化する(減債基金で対応する)臨時財政対策債の償還はどんどん厳しくなります。

 

 同様に他の都道府県でも、恐らく平成30年度決算での数字と現在使える財政調整基金とはかなりの乖離がある可能性が高いです。令和2年度通常予算を経て、それぞれの自治体に幾ら残っているのかは正直全く分かりません。ただ、その残額が今回の補正予算編成の自由度に相当影響しているはずです。

 

 あと、最近読んだこの本によると、財政調整基金から一般会計への貸付が結構行われているようです。これをやると、財政健全化判断比率の内、「実質赤字比率」を良く見せる事が可能だそうです。本来貯金である財政調整基金から一般会計に貸し付けて予算を編成し、年度末にまた返した形にする「オーバーナイト」的手法が結構あって、これは現在の財政健全化判断比率では完全には捕捉出来ないそうです。本の著者の赤井、石川両先生はこの手法に何らかの手当てをすべきだと主張しておられました。これを行っている自治体は、財政調整基金の公表額よりも実際に使える基金の額が少なくなっているでしょう。

 

 今後、心配なのが、第二弾、第三弾の補正予算が来る時です。今回の補正予算で、多くの自治体で財政調整基金をかなり発動しました。もう殆ど無くなっている自治体は多いでしょう。となると、そういう自治体は今後、第二弾、第三弾の補正での事業で地元負担があるものについては手が付けにくくなります。解決策は①全額国費の事業を増やす、②地方の使い出の良いカネを増やす(地方交付税の積み上げ)、③国が償還財源の面倒を見る臨時財政対策債の枠を増やす、これくらいしか思い浮かびません。③で来そうな気がしますが、このタイミングで地方に借金を積み上げてくれ(あとで返すカネは渡すから)で良いのかなという懸念はあります。

 

 普段は意識しない地方財政のテクニカルな一面ですが、今後、財政調整基金の格差が「自治体間格差」に繋がっていくおそれがあります(既に今回の補正で一部表面化しています。)。この「自治体間格差」をこれ以上顕在化させない政策が国には求められます。