「休業要請」が多くの自治体からなされています。こんな時に「法律」の話をするとお叱りを頂きそうですが、ちょっと気になった事を書いておきます。

 

 あれは新型インフルエンザ等対策特別措置法上、正確には「休業要請」ではありません。「休業への協力の要請」です。

 

 同法上、緊急事態が宣言されると、都道府県知事は「休業」(法律上は「施設の使用制限等」)そのものを要請出来る事になっています(第45条2)。東京都がこの要請を検討した際、国がこれを止めました。鋭意議論した結果、恐らくは東京都知事からの発案で、別の規定(第24条9)を使ってやる事になりました。多分、東京都知事からすると「ゴチャゴチャ口出すな。」と言い渡したのだろうと思います。

 

【新型インフルエンザ等対策特別措置法第24条9】

都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。

 

 これは緊急事態とは何の関係もありません。感染症が発生して、都道府県が対策本部を立ち上げた際の権限です。つまり、緊急事態が発令されていなくても認められている権限です。したがって、緊急事態時とは違って、例えば「休業」そのものを要請する事は出来ません。要請するのは「必要な協力」のみです。大した差ではないと思う方が大半だと思いますが、法律を作る時、「休業要請」と「休業への(必要な)協力要請」との間にはかなりの差があります。「(必要な)協力」を要請するわけですから、「協力」のやり方については、協力する側の裁量がある事を示唆しています。

 

 今回、東京都を始めとする都道府県が行っている「休業要請」の実態というのはこういうものなのです。①東京都の(緊急事態に基づく)休業要請の発案→②政府の(法的根拠があまりない)介入→③東京都の反発から出てきた法的細工という順序を辿った結果、行き着いたのがここでした。つまり、「休業への協力要請」は、緊急事態が無くてもやれてしまう事になりました。ただ、事実上、各都道府県知事は「休業要請」という言い方をしている方が多いです(正確に「協力要請」と言っている方も居ます)。

 

 となるとですね、おかしな事になるのです。緊急事態が出ている時に取れる措置(休業(施設の使用制限等))には、緊急事態の性格上、色々な制約が掛かっています。その一方、緊急事態が出る前でも取れる措置の方が広く、制約なしでやれてしまう事になってしまいます。変な話ですが「都合の悪い記事を掲載しない事への(必要な)協力の要請」、「令状なしに拘留する事への(必要な)協力の要請」、何でもやれてしまいそうです。それはそれで怖い事です。

 

 政府と東京都の激しいやり取りの結果、全国的に法律上極めて歪な状態が生じてしまいました。では、「この法的不都合の責任は何処にあるのか。」なんですが、私は(法の求める所を越えて)口を挟み過ぎな国だと思いますけどね。東京都知事のアプローチに、法を逸脱した所は無かったはずです。

 

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