今秋のアメリカ大統領選挙の構図が固まりました。トランプ大統領(共和党) vs. バイデン前副大統領(民主党)です。トランプ大統領が再選されれば74歳、バイデン前副大統領が当選すれば78歳。これまで恐らく一番高齢だったのは、2期目のレーガン大統領で73歳でした。どちらが勝っても、最も高齢の大統領となります。

 

 前回の大統領選挙は、200万票以上クリントン候補が多かったのに、選挙人数でトランプ候補が304 vs. 227で勝ちました。簡単に言うと、理由は2つあると思います。

 

 一つ目は「(人口比で見た時の)人口の少ない州の過剰代表」です。各州に割り当てられる選挙人の数は連邦上院議員と連邦下院議員の議席数の和です。そして、下院議員は厳格に人口比で割り当てられますが、上院議員は各州2人です。なので、人口56万人のワイオミング州では3(上院議員2+下院議員1)である一方、人口3725万人のカリフォルニア州では55(上院議員2+下院議員53)です。人口比では70倍近くの差がありますが、大統領選挙の選挙人では18倍強でしかありません。そして、人口の少ない州では共和党が強いケースが多いです。

 

 もう一つは、トランプ候補はボロ負けしている州が多いけど、接戦州で取っている事が大きいです。選挙人の多いミシガン(16)、ペンシルヴァニア(20)、フロリダ(29)、ノースカロライナ(16)などは僅差でトランプ大統領が取っています(カッコ内は選挙人数)。アメリカの大統領選挙は、一部の例外を除けば、ある州で1票差で勝てばその州の選挙人は総取りですから、僅差での勝利がとても効くのです。

 

 この2つが大きいと思います。そして、全米を見ていると「都市部でクリントン、地方でトランプ」の構図がはっきりと分かります。僅差でクリントン候補が勝ったミネソタ(10)を例に挙げてみたいと思います。この地図で青がクリントン候補、赤がトランプ候補です。クリントン候補は州都ミネアポリスと北部の森林地域でしか勝っていません。全米レベルで見ても、こんな感じです。ちなみに、2012年にオバマ大統領がロムニー候補に勝った時ですら、こんな感じです(青がオバマ候補、赤がロムニー候補)。

 

 そして、民主党の予備選挙を見ていると、サンダース候補とバイデン候補との間に似たようなトレンドがありました。サンダース候補が都市部、バイデン候補が地方という傾向がはっきりと出ていたように思います。なので、トランプ大統領はバイデン前副大統領と戦うのが嫌なのです。前回、自分が拠り所とした地域で票を持って来れる候補が対抗馬で来るのが嫌だというのは、誰でもそう思うはずです。かと言って、サンダース候補が強いとされていたカリフォルニアのような州は、別に候補がバイデン氏になったとしても確実に民主党に票が集まります。

 

 アメリカの大統領選挙というのは、30くらいの州ではやる前から結果が見えています。20弱の州で真の争いが行われます。そして、数ヶ月前にバイデン候補が面白い事を言っていました。3つの州の名前を明確に挙げて、「自分が候補になったら、テキサス、ジョージア、サウス・カロライナでも勝ちに行く。」と言っていたのです。最初、聞いた時にちょっと驚きました。いずれも保守層の厚い地域なのです。テキサスやサウス・カロライナで民主党候補が最後に勝ったのは1976年のカーター候補、ジョージアでは1992年のビル・クリントン候補です(カーター候補がジョージア出身、ビル・クリントン候補がアーカンソー出身と両人とも南部出身だというのが大きいです。)。前回選挙では、ジョージアは5%差、テキサスは9%差、サウス・カロライナに至っては15%差でトランプ候補が勝っています。

 

 ただ、ここまでの民主党の予備選挙を見ていると、「あながち夢物語を語っているわけでも無さそう。」という印象を持つようになりました。予備選挙でバイデン候補が形勢逆転したのは、サウス・カロライナでの圧勝でした。「こんなに人気あるんだ。こりゃ、本選でもかなり健闘するな。」と驚いたものです。ちなみに、選挙人で見るとサウス・カロライナが9、ジョージアが16、テキサスは38です。全米で538の選挙人を競い合う中で、例えばジョージアの16を落とすと、自分の所から16減り、相手にその16が乗るわけですから、32人分の形勢逆転です。32/538で6%近い逆転が生じるわけです。選挙をやっていると分かるのですが、6%というのはとてつもなく大きな数字です。

 

 今はCOVID-19の関係で、バイデン候補のプレゼンスが極度に下がっています。ただ、真の大統領選挙は、こういう激戦州が重要なのであって、全米の状況をザーッと見た所で真の姿は見えてきません(それは前回下馬評を覆してトランプ候補が当選した事からも明白です。)。

 

 こういう話と日米貿易協定との関係を、小著「国益ゲーム」で詳述しています。「選挙から見た通商交渉」というアプローチはあまり無いと思いますので、手に取っていただければ幸甚です。また、今週、地元のRKBラジオ「櫻井浩二インサイト」に出演して、「スペシャル・インサイト」のコーナーで小著に基づく話をしました。私なりに纏めるとこういう感じです(今日のブログ・エントリーに当たるのは金曜分です)。上記の「櫻井浩二インサイト」のHPへのアップは徐々に無くなっていきますので、是非、早目にご視聴の程を(各回7分くらいです)。

 

月曜:アメリカとの交渉の歴史(半導体交渉を中心に)
火曜:アメリカに考え方(「公正貿易」とは?)
水曜:TPP(どんな交渉だったのか?)
木曜:日米貿易交渉(政治面も絡めながら)
金曜:今後について(アメリカの事情、日本の事情)