商品券シリーズ(和牛お魚)は非常に好評でアクセス数が多かったですね。簡単に言うと、この商品券構想は補助金に当たる、そして、この種の国産品優遇補助金はWTO補助金協定上アウト、という事でした。

 

 一部、専門的な知見からのご指摘を頂きました。「WTO農業協定上、削減対象の補助金なのだからそれを満たせばいい。」、これはWTOパネルでアメリカが展開して負けた時の理屈そのものです。WTO上級委員会の判示は、WTO補助金協定が適用される事により、「国産品優遇補助金」というその属性によってアウト、というものです。WTO農業協定における削減対象かどうか、といった議論の手前の所でアウトと言っているわけです。

 

 補助金協定において禁止される国産品優遇補助金の定義は「輸入物品よりも国産物品を優先して使用することに基づいて交付される補助金」です。どんな情緒的な議論も通用しないくらい単純です。この部分には例外規定はありません(あえて言えば、GATTにあるような例外規定の適用はあり得ますが、今回のケースには当てはまりません。)。

 

 とすると、これを推進しておられる方が次に何を考えるかというと、「輸入物品よりも国産物品を優先して使用することに基づいて交付」しない補助金であればOKなんだろ?という事です。正当な問題意識だと思います。つまり、国産であろうと、外国産であろうと「和牛(WAGYU)」の購入に対して補助金を出すのであればOKではないか、という事です。つまり、和牛であれば米国産でも、オーストラリア産でも、国産でもすべて商品券の対象にするのであれば、この補助金協定の禁止規定は外れます。

 

 勿論、農業協定における削減対象の補助金になると思いますが、日本は過去の努力により、WTO農業協定で約束している削減対象の補助金の上限額がかなり高いので、少々増やしても上限に到達する事はありません(コメの価格支持を止めた事により、大幅に実績値が下がっています。)。財政上の問題意識をあえて脇に置くのであれば、この手の削減対象の補助金を出す余地はかなりあります。

 

 和牛と言うと、国内では「黒毛和牛」、「褐毛和牛」、「無角和牛」、「日本短角種」とその交配種とされています。なので、(国産であろうと、外国産であろうと)それらの品種の和牛を購入するための商品券とするのであれば、WTO協定上の問題は生じ得ません。ただし、この和牛の種の管理は日本国内ではかなり厳格ですが、外国の「WAGYU」ではそこまで厳格にやっていないので、国内で定義される「和牛」と「WAGYU」の間には種としての純粋さ(と品質)において差があります。結果として、緩い基準で作られた「WAGYU」にまで商品券が使われるというリスクがあります。

 

 そもそも、国内市場で「和牛」や「WAGYU」がトレーサブル(追跡可能)なのかというそもそもの問題点もあります。輸入時点の関税表では部位毎、冷蔵・冷凍毎でしか分類していませんので通関統計では把握すら出来ないわけです。もっとベタに考えると、お肉屋さんの店頭で「このお肉、和牛じゃないけど和牛という事にしとくから、その商品券使っていいよ。」となる事を防止する手段は全くないでしょう。

 

 仮にこれらのハードルを乗り越えて、和牛(WAGYU)に平等に商品券が適用されるとした所で、それでも「非関税障壁だ」と言ってくる可能性はあります。「軽自動車への軽減税率」に対して、アメリカがケチを付けてきたのと似ています。何処の国産であろうと、軽自動車であれば税が軽減されるにもかかわらず、自国で生産していない事から「非関税障壁だ」とアメリカは言ってきました。それと似ているような気もします。

 

 ただ、最後に一つだけ。この和牛商品券はWTO協定違反ですけれども、通商法の世界というのは「誰も訴えて来なければ問題なし」なのです。例えば、日本の豚肉の差額関税制度は明らかにWTO協定違反なのですが、アメリカはこの仕組みでボロ儲けしているので訴えてきていません(この点については、近著「国益ゲーム」で相当に詳述しています。)。それと同じでして、牛肉の輸出国であるアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドあたりが「それくらいならいいよ。別にWTOパネルに訴えないよん。」と言ってくれるのであれば、結果としては何も起きません。そう簡単ではないような気がしますが。

 

 折角、ご好評をいただいたので続編を書きました。なお、私はこの「和牛商品券」は反対です。今日のエントリーは、単に「突き詰めて考えるとどうなるか」というマニアックさを追っただけです。

 

【告知】近著「国益ゲーム」、4月1日発売です。