【告知】 4月1日に新著「国益ゲーム」を上梓します。今日のテーマのような通商分野に関する本です。農業、自動車、保険、著作権等幅広い分野について書いております。注文はお近くの書店又は上記リンクにて。

 

 与党において、経済対策の一環として「和牛商品券」のアイデアが上がっているようです。通商の世界では「補助金」に当たります。そして、これはどう見ても「WTO協定違反じゃないかな。」と思えてなりません。与党内でどういう検討がなされているのか分かりませんけども、私が考える法的論点を書いておきたいと思います。

 

 GATT・WTOルールにおける最も重要な原則の一つに「内国民待遇」というものがあります(GATT第3条)。マーケットにおいては、国内産も外国産も平等に扱いますよ、という事です。

 

 そして、WTO協定の中には「補助金協定」というものがあります。これは補助金のあり方について定めたものです。ここでは「農業に関する協定に定める場合を除くほか」という条件の下で、「国産品優遇補助金」については禁止されています(補助金協定第3条)。この規定はGATT第3条の内国民待遇の精神をより明確にしたものだと言われています。ここで確定出来るのは、まず、農産品以外であれば「(国産品のみを優遇する)●●商品券」みたいなものは禁止される補助金に当たるという事です。

 

 さて、では農産品の世界ではどうかという事になります。まず、WTO農業協定では、補助金の削減について、カテゴリーを3つに分けます。①出してもOKなもの(農村インフラ関係等)、②一定のルールで削減対象となるもの(生産促進効果のあるもの)、③より厳しい削減ルールの掛かるもの(輸出補助金)という分類です。少なくとも言えるのは、「和牛商品券」は②に当てはまるという事です。

 

 では、次は農産品における「国産品優遇補助金」は削減すればOKなのか、という論点になります。これについては、かつてアメリカの高地産綿花補助金関連でWTOパネルでかなり激しく争われました。アメリカは「国産品優遇補助金についても、(上記②にあるような)削減だけしていればいいのだ。」と主張したのですが、最終的にWTO上級委員会は「農業協定には国産品優遇補助金に関する規定はない。ただ、それは国産品優遇補助金が認められている事を意味しない。補助金協定の国産品優遇補助金禁止規定が適用されると見るべきもの。」という趣旨の判示をしています(御関心の方はこのページの"Appellate Body Report"のパラ545を見られるといいでしょう。文書番号は"WT/DS267/AB/R"です。)。

 

 条約や法律論ばかりでちょっと堅かったですが、WTO協定(農業協定、補助金協定)やこれまでのWTOでの紛争解決の判決を読めば、今回の和牛商品券はWTO補助金協定で禁じられている補助金に当たるという事です。何処かの国にWTOに訴えられたら、前例がかなりしっかりしている以上、まず負けるでしょう。

 

 ちゃんとこういう法的検討をした上でこの商品券アイデアを出しているんですかね、与党は。一昔前の自民党なら、絶対に中川昭一さんや松岡利勝さん辺りが「そのアイデアはWTOの補助金の規定との関係は大丈夫なのか?」と聞いていたはずなんです。