最近、「臨時財政対策債」について幾つかのニュースがありました。堅い漢字ばかりなので何の事か分からないと思いますが、簡単に言うと「国から地方にお渡ししなくてはいけないおカネが足らないので、足らざる分は地方にまず借金をしてもらい、その返済するカネを後日、国から地方にお渡しする仕組み」です。

 

 元々は国が借金をして、地方におカネを渡していました。そうした所、どんどん国の特別会計に借金が溜まっていき、51兆円まで積み上がりました。「こりゃ、たまらん」という事で、制度を見直します。まず、51兆円については、国と地方で1対2で分ける事にしました。つまり、国が17兆円を引き受け、地方が34兆円を引き受ける事にしました。国分は一般会計の借金に吸収され、地方分は国の特別会計に残っています。地方自治体の大半の方が知らない、地方が返すべき借金が34兆円あります。

 

(余計な事ですが、この34兆円を少しでもいいから返そうと、民主党政権時代に長期の返済計画を作りました。しかし、現政権でこの返済計画は事実上反故にされています。理由は簡単で、地方に出来るだけ現ナマを渡そうとしたからです。問題だと思うんですけどね、これ。)

 

 そして、平成13年から「臨時財政対策債」の仕組みが導入されます。一旦、地方に借金をしてもらい、その返済額を国が地方交付税の中で100%保証するというやり方です。20年債ですと毎年5%ずつお渡ししていけば、20年後の償還時には100%積み上がって苦労なく償還できることになりますし、30年債ですと毎年3.3%お渡していけば30年後に償還できます(金利は考慮しないものとします)。この返済のために国から貰ったカネを積み立てておく基金を「減債基金」と呼んでいます。

 

 今から5年弱前、この減債基金の積み立てが不十分な自治体があるという報道がありました。それを踏まえて、私が質問主意書を出しています(質問答弁)。答弁が極めて詳細に返ってきており、積み立て不足の道府県がはっきりと書いてあります。例えば、我が福岡県では平成25年度末時点で395.5億円の積み立て不足が出ている事が明らかになりました(当時、金額としては全国トップ)。これを踏まえ、田辺一城議員(現古賀市長)が県議会で質問をしています(ココ)。

 

 県の答弁は非常に複雑な論理なので、私なりに簡単なモデルを立てて、何故、福岡県に不足が出るのかという事を説明します。

 

 まず、200億円の臨時財政対策債を発行するとしましょう。国からやってくる返済用のカネは、「20年債:30年債=1:1」という理論値で計算されています。とすると、20年債で100億円、30年債で100億円という前提になります。なので、20年債分が毎年5億円(5%)、30年債分が毎年3.3億円(3.3%)となるので、毎年8.3億円が返済用資金として国から来ます。しかし、福岡県は「20年債:30年債=2:8」で起債しています(これ自体は悪い事ではありません)。なので、20年債が40億円、30年債が160億円となります。その上で、20年債で毎年2億円(40億×5%)、30年債で毎年5.3億円(160億×3.3%)で7.3億円だけを積み立てていたのです。今、目の前にある県債を償還するために必要な額としてはこれでいいだろう、という判断です。国から8.3億円貰うけど、積み立てるのは7.3億円、つまり毎年1億円「儲け」が出ます。福岡県はこれを別の事に流用していました。

 

 一見、この件は「今、目の前にある県債を償還するために必要な額」が積み立てられているので、尤もらしく聞こえるのです。しかし、これは20年債の償還が終わると途端に苦しくなります。上記のモデルで言うと、その時、国から来るカネはもう毎年3.3億円でしかありません。しかし、積み立てなくてはならないカネは毎年5.3億円になります。毎年、2億の不足額が出るようになります。これは別の予算を削ってやらざるを得ません。最初の20年は毎年1億円儲けを出し、最後の10年は毎年2億不足が出て、30年後にはトントンというイメージです。これを私が雑に纏めたのがこのグラフです。そして、平成13年から始まった臨時財政対策債の制度の中で、そろそろ20年債の償還が始まります。グラフで言う21年目以降に入ってくるわけでして、これから苦しくなります。

 

 そんな中、先日、NHKが本件を報じていました(ココ)。私が質問主意書を出した時に比べて、積立不足が増えている道府県が多いです。私の主意書時点(平成25年度末)と今回の報道(平成29年度末)を比較した表を作ってみました。我が福岡県は600億円超えです。なお、これだけだとよく見えて来ない所があります。人口比で見ると、東北三県(秋田、岩手、山形)、奈良、京都市あたりが積み立て不足額が大きいです。特に秋田は県民一人当たり4万円を超えており、深刻だなと思います。あと、大阪府は積立て不足を解消したのは称賛に価すると思いますが、大阪府は臨時財政対策債の発行額が全国トップで、過去10年での増加率も愛知県に次いで全国2位です(ちなみに大阪市も政令指定都市で発行額全国トップです)。データについては、この質問主意書を参照ください(質問答弁)。

 

 また、福岡県では、佐々木允県議が12月議会で本件を質問しました(ココ)。難しいのですが非常に本質を抉る問であり、全国の自治体関係者は是非これを見てほしいと思います。ここで明らかになったのは、①現在、平成30年度末で積立て不足(他目的の流用)が671億円である事、②前述の田辺質問の後、平成28年度発行分以降は福岡県はきちんと積み立てるようになった事、③ただし、平成27年度以前については放置している事、④その結果、積立て不足が当面増え続け令和5年には901億円になる事、⑤令和5年度以降は国から貰うカネよりも積み立てるべきカネが上回り令和18年度には最大132億円不足する、という事です。

 

 つまり、平成27年度までの県債について引き続き積立て不足(流用)を続ける事で、令和5年まではその恩恵に与れるけども、その後は流用分のツケが効いてきて、他の予算を削って借金返しのために積み立てなくてはならないという事です。今年は55億円程度の流用分が出ますが、令和18年度には132億円の不足が出ます。180億円以上の差です。正に年度毎にこういう差が生じないように国が渡した償還資金を積み立てておくのが最適なはずであり、政府もそういう答弁をしています。佐々木議員が指摘しておられましたが、あえて政治的な文脈に置くと、現在の福岡県知事の3期目が終わった後から程なくして途端に苦しくなります。また、引用したNHKの報道で、北海道は「計画どおりで支障ない」と言っていますが、平成29年度末で785億にまで登る積立て不足を今後、何処かで必ず埋め合わせなくてはならないわけでして絶対に支障が出ます。それ以外の自治体でも、概ね状況は同じでしょう。

 

 色々と書きましたが基本となる理屈は簡単でして、「100億円借金したら、100億円分の返済費用は国が負担してくれる。ただ、それ以上は絶対に負担してもらえない。なので、早い段階で流用して積み立て不足を出したら、後々必ず苦しくなる。」という当たり前の事なのです。そして、臨時財政対策債の制度が始まってそろそろ20年ですから、苦しくなる時期が始まるという事です。記者会見で、総務大臣は「地方交付税は一括で渡しているから、その使い道に国があれこれと口出しは出来ない。だけど、積立てやってくれないと絶対に苦しくなるから、今後とも助言していく。」みたいな発言をしていました。総務省として、この積立て不足への苛立ちが見え隠れします。

 

 この臨時財政対策債の積立て不足は見えにくいんですよね。国や県の資料を普通に見ているだけでは見えて来にくいのです。見えにくいから流用してしまうのです。ただ、理屈を知ると「典型的な将来への付け回し」である事も分かりやすいです。是非、各地方議会関係者や報道関係者には厳しい目で「積み立て不足による流用は将来への付け回しではないのか。」という視点を持ってほしいと思います。