英語の民間試験導入の「身の丈」発言が盛り上がっています。これ自体は論外の発言です。「あなたの『身の丈』がどの程度なんだ?」という事です。救いようがないです。

 

 一方、現政権が掲げる受験改革の根本の部分は「理解出来ないわけではない」とも思います。下村さんが大臣をやっていた時に感じたのですが、恐らく「皆が同じ試験を受け」、「一発の試験で」、「1点差を狙う」スタイルに対して疑義を呈しているのでしょう。こういう現状に疑問を持つ事自体は理屈としては筋が通るので、(その理屈を是とするかどうかはともかくとして)全否定されるべきものではありません。

 

 ただ、「1点差を狙う」という部分はどうやっても解消するのは難しいというのが私の意見です。どう仕組みを作ろうとも、最後に合否を決める以上は「1点差」になるのです。その部分をフワッとさせてしまうと、そこに入ってくる次の判断材料は「情実」になりかねません。 

 

 私が大学受験をした時、東京大学教養学部文科一類は630人が合格していました。一次試験は110点(換算)、二次試験は440点の550点満点でした。合否のラインの所には、1点差の所に数十名がひしめき合っていると聞いたことがあります。1点差なんて大した差ではないので、そこで合否を分けるのは切ないのですが、しかし、そこをフワッとさせた所で意味のある改革にはならないでしょう。

 

 逆に「皆が同じ試験を受け」という部分や「一発の試験で」という部分は、もう少し改善の余地があるかもしれないな、と常々思います。TOEFL、TOEIC、英検等といったタイプの違う試験でチャレンジの可能性を増やし、一発勝負というストレスを低減するというメリットはあるのです。そして英語能力を図る方法として大学入試センター試験がベストだとは限りません。TOEFL、TOEIC、英検等、それぞれにそれぞれの良さがありますし、欠点があります。重視している能力にも違いがあります。なので、自分が得意な分野でチャレンジ出来る可能性を広げるという事自体は否定されるべきものではないでしょう。

 

 ただ、既に多くの方が指摘しているように「格差がチャンスの差になる」という決定的な問題点があります。 東京在住高校生と地方在住高校生では、受験において情報格差があります。その情報格差は、受験での点数格差に繋がる事は稀ではありません。そんな中、情報格差に加えて収入格差が付いてくるとなると尚更です。ただ、仮にここが解消出来る方法が見つかるのであれば、今の政府の方針は悪くないように思います(それが見つからないのですけど)。

 

(余計な事ですが、受験における情報格差は点数格差に繋がるというのはあまり感じる人がいないかもしれませんが、紛れもない事実です。東京は情報が充実していて、最短で最善の成果を出すメソドロジーがかなり確立しています。「地方で大した情報もなく闇雲に勉強する苦労は、東京出身者には分からんだろうよ。」と、よく大学時代、開成高校出身の同級生に言っていました。)

 

 なお、指摘する人が少ないのですが、アメリカの各種試験は点数の付け方が日本とは決定的に違います。日本の試験は正解数と点数が明確にリンクしますが、アメリカの試験はパーセンタイルで切っていくので、1問正解→●点プラスみたいな事になりません。あくまでも、周囲の出来との関係で点数がつけられていきます。例えば、大学入試センター試験では、問が簡単なら高得点を取る人がたくさん出ます。しかし、アメリカの試験では問が簡単でも、高得点をとれる人数は決まっており、正答が多くても点数が伸びない事があります。

 

 前述の通り、大学受験は最後の1点の所に結構な人数がひしめき合います。例えば、東大二次試験では、440点満点で多分235点くらいが合格ラインなのではないかと思いますが、280点を超える事が出来る学生はかなり限られます。非常に狭い所で競い合います。そういう中、点数の付け方が違う試験の無理に準えた結果、1点得したり、1点損したりするのは可哀想だよなと思います。
 

 あれこれと指摘はしましたが、私は「皆が同じ試験を受け」、「一発の試験で」、「1点差を狙う」事に伴う様々な問題を解消したいという思いをすべて切り捨てる事は出来ないようにも思います。あえて言うと、今の民間試験制度導入は「鶏肋」のようなものでして、身の付き具合は良くないのだけども捨ててしまうには味があるのです。単なる民間試験導入反対だけで終わらせちゃうと、結局今のままです。反対派の方もこの問題意識を共有した上で、少しでもいいので何か出来ないのかなと思うのです(自分自身の妙案が無いのが残念ですけど)。

 なお、最後に余計な事を書きますが、メディアや国会での議論を聞いていると「あなた、民間英語試験を受けた事無いでしょ?」と言いたくなるような議論がかなり散見されます。議論を深めるためにも、一度、TOEFLにでもチャレンジしてみると良いのにね、と思います。一度受けてみると、色々な課題が見えてくるはずなのです。