いわゆる徴用工問題について、韓国は一切の「白洲」での議論を拒否しています。仲裁手続の委員選出に関するすべての手続きを拒否してきました。

 

 ベースとなる日韓財産請求権協定はとても精緻に出来ています。

 

 協定の解釈に問題がある時はまず「外交上の経路」で解決しなさいとなっています。しかし、それで解決できない時に仲裁の仕組みを設けています。仲裁とは、仲裁委員会を作ってそこに解決を委ねるという事です。そして、その仲裁委員会の判断には両国とも服する事になっています。なので、仲裁委員会の作り方が大事な攻防戦になります。

 

 仲裁委員会の作り方の仕組みは、ちょっと難しいですが論理的にできています。順を追って説明しますのでお付き合いください。

 

 まず、仲裁要請を韓国が受け取ってから30日以内に、日韓両国はそれぞれ1名の仲裁委員を任命します。そして、そこから更に30日以内に日韓の仲裁委員間で、3人目の仲裁委員を決めるか、それが決められないのであれば、3人目の仲裁委員を選んでくれる国について合意する事になっています。まあ、普通に考えたら、対立する日韓の仲裁委員間で特定の個人である3人目の仲裁委員に合意する事は無いでしょうから、3人目の仲裁委員を選んでくれる国としてアメリカを選ぶんだろうなと思います。そして、アメリカが3人目の仲裁委員を選びます。これがスタンダードな仲裁委員会の作り方です。ただ、これは韓国が自国の仲裁委員を任命してきませんでしたので動きませんでした。

 ただ、ここも蓋がされていまして、そういう時は日韓それぞれが30日以内に仲裁委員を選んでくれる国を選びます。A国(日本が選んだ国)、B国(韓国が選んだ国)がそれぞれ仲裁委員を出してきます。そして、A国政府とB国政府との間で協議をして、第三の国C国を選びます。C国が3人目の仲裁委員を選びます。これで仲裁委員会が出来上がります。ここには日本人も韓国人も入っていない可能性が高いです(絶対に入っていないとまでは言えませんが)。

(具体的に仮定の国名を入れてみると、日本がアメリカ政府を選び、韓国がイギリス政府を選ぶとします。アメリカ政府とイギリス政府はそれぞれ仲裁委員を出します。そして、アメリカ政府とイギリス政府とでオーストラリア政府を選び、オーストラリア政府が仲裁委員を出す。そして、アメリカ、イギリス、オーストラリアの3ヶ国政府がそれぞれ選んだ仲裁委員で仲裁委員会が出来る、そんな感じです。)

 今回、韓国が拒否してきたのはこのB国選びです。

 

 ここまでで分かる通り、協定自体はかなり精緻に出来ていますが、韓国が上記で言うB国を選ぶ行為すら拒否すれば、このプロセスは動きません。どんなに仕組みを精緻化しても、韓国が何もしない時というのはどうしようもありません。ここだけは「どうしても塞げない穴」になっています。

 しかし、この韓国の立ち振る舞いは日韓財産請求権協定の精神を没却するものです。この協定のベースとなる精神が述べられている協定前文は以下のようなものです。「解決することを希望」したのではないのか、ということなんです。

【日韓財産請求権協定前文】
日本国及び大韓民国は、
両国及びその国民の財産並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題を解決することを希望し、
両国間の経済協力を増進することを希望して、
次のとおり協定した。

 多分、韓国は仲裁手続で勝てる自信が無いのだと思います。日韓財産請求権協定を交渉する過程では、今回の韓国大法院判決や韓国政府の主張のような事はすべて「想定の範囲内」でした。大法院は「日本の支配は違法であったが、その違法であった事が日韓財産請求権協定における請求権では取り込まれていない。」という主張をしています(時折誤解がありますが、韓国大法院の判決は個人請求権の文脈ではありません。)。つまり、簡単に言うと「日韓財産請求権協定で放棄した請求権には『穴』が開いている」と述べています。

 しかし、韓国が放棄した請求権とは、日韓財産請求権協定の合意議事録で「『法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利』とされている『財産、権利及び利益』に当たらないあらゆる権利又は請求を含む概念である」と解されています。「穴が開いている」と主張する(今の韓国大法院や韓国政府)のような存在を念頭に置いて、そういう逃げ道を塞いでいます。そして、その請求権については「いかなる主張もすることができない」となっています。

 仮に韓国に10000歩譲って、日本の支配が違法なものであったとしましょう。それでも結論は変わらないのです。そういうものを含めて、すべて「いかなる主張もすることができない」と合意しているわけです。

 自国の論理に自信があるなら、仲裁手続きであろうが、今後やってくるであろう国際司法裁判所であろうと堂々と受ければ良いだけです。勝てる自信が無いので逃げている、と見ていいでしょう。日本政府としてはそこまでは言いにくいでしょうから、周囲が「あれは自信が無いから逃げているだけだ」と国際的なキャンペーンを打ってみるのは一案だと思います。