昨日、書いたエントリーはアクセス数が伸びますね。BLOGOSでは久しぶりの2万アクセス超えです。極めて技術性の高い内容であるにもかかわらずです。関心の高さを感じます。「霞ヶ関で読んでいる人が多いんじゃないか。」とは友人の弁。そうかもしれません。ああいう論点は経済産業省や外務省で重々検討しているはずです。

 

 このAmebaブログにはコメントは殆ど付かないのですが、BLOGOSでのコメントを読んでいると非常に参考になるご意見があります。コメントも踏まえつつ、別の視点から書いていきたいと思います。

 

 まず、通商法の観点から見ると、輸出管理というのは典型的な「非関税障壁」です。きちんと強調しておきますが、「非関税障壁だから『悪い』」と言っているわけではありません。非関税障壁の中にも正当化できるものは幾つもあります。その一つが武器等に関する輸出管理制度です。

 

 通商法との関係を整理を付けた上で、輸出管理制度を設けているわけですが、「だったら輸出管理制度の中では何をやってもいい。」というわけではありません。正当に成立している制度の中であれば運用も含めてすべてがフリーハンド、という事にはなりません。政府筋や有識者から聞こえてくる説明の中に「(合法的に成立している)輸出管理制度の枠内で、これまで優遇措置をしていたものを外したに過ぎない。」というものが多いですが、通商法ではその「運用のあり方」まで見られるわけです。

 

 特に通商法では、一般論として、一旦優遇したものを取り下げる事への難易度が高いです。そして、一旦優遇したものを特定の国に恣意的に取り下げていると見做される事はアウトです。ちょっと例が良くないような気もしますが、日本は色々な貿易の分野で、独自措置として国際的に約束した水準以上の優遇措置を行っていますが、優遇措置と国際的な約束水準との間の部分では何をやってもいいとはなっていません。そこには「最恵国待遇」が適用されています。

 

 恐らく、韓国がWTO提訴した際に一番問題になるのがここだと思います。韓国は輸出管理制度そのものへのチャレンジはしません。制度そのものがすべての国に平等に恣意的に運用されているという論点を持ってくるでしょう(「具体的な措置の平等」ではありません)。半導体原料輸出に包括許可制度を与えていた基準、汎用品輸出のホワイト国認定の基準の運用がすべての国に公平になされているかどうか、ここが最大のポイントだと私は思います。言い換えれば、合法である非関税障壁としての輸出管理制度が、運用によって違法な非関税障壁へと転化し得るという事です。

 

 そこの理由立てが、現時点で述べられている「信頼関係が著しく損なわれた」と「大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生した」だけでは弱いように私には見えるのですね。例えば、後者については「不適切な事案」とは何なのかとなるでしょうし、同程度の不適切事案は他国との関係で生じていないのか、という所も間違いなく突かれるでしょう。いずれも国内的には「秘密事項に当たるのでお答えできない」という答弁になると思いますが、WTOの紛争解決処理手続きでは、ここの説明責任が果たせないのであれば「運用が恣意的だ」という疑いを強めるだけです。

 

 とても雑に纏めると、「今回の措置は、恣意的に韓国を狙い撃ちにしたものではなく、これまでの輸出管理制度をいつものように運用したらそうなっただけ。」という論理で推していく事になるわけです。

 

 「正当に合法的に成立した制度の枠内の話に過ぎない」という説明が政府筋から出て来る度に、「まあ、現時点ではそう言うしかないのは分かるけど、まさか対韓国でもその論理を前面に出して押していくつもりはないよね。それだとWTOの紛争解決では負けるよ。」と思います。近年、韓国の通商法での知見の積み上げは相当なものがあります。経済産業省の通商政策局、貿易経済協力局、外務省経済局、軍縮不拡散科学部、国際法局のすべての叡智を注ぎ込んでやらないと勝てない相手です。

 

 ここまで法技術的な話ばかりを書いてきました。「そんな話じゃないんだよ。政治・外交の文脈において考えなきゃ。」という指摘は当然分かっています。ただ、紙幅との関係で稿を改めたいと思います。