JOC竹田会長が東京オリンピック誘致に際しての贈賄の嫌疑で「mise en examen(起訴と訳されますがちょっと違います。正式な予審手続きに入るという意味合いです。))」な状態になった事について、ちょっと付け足しです。
フランスには民間団体間でも贈賄罪があると先のエントリーに書きました。具体的にはフランス刑法第445条の1です。以下のように書いてあります(この部分は備忘録なので、仮にフランス語が読める方でも読んでいただく必要は全くありません。)。
【フランス刑法第445条の1】
ちなみに、フランスの法律は一つの文ですべて書き下すのでとても、とても読みにくいです(上記は一つの文です。)。これを正しく読みこなすのは、フランス人でも辛いでしょう。私のように母語にしていない人間にとっては尚更辛いです。
この規定をとてもザックリと要約すると、「ある組織のために働いている人間に対して、その人間が自身の法律上、契約上又は職業上の義務に反する形で行動するようカネを提供したら、5年の禁固及び50万ユーロの罰金」というものです(細部の要約ミスはご容赦ください。)。カネを提供する相手については、公職に就いていたり、公務に携わっている事は一切要件になりません。単に誰か(法人、組織を含む)のために働いている事だけで対象になります。更には、(上記の要約では書いていませんが)第三者を介した間接的なカネの提供も、事後に渡す成功報酬も、カネを提供された者がそのカネを自分のポケットに入れなくても、すべて犯罪の対象になっています。複数回の改正を経て、相当に広く犯罪の対象を広げています。
この刑法規定を日本で実際に適用しようとすると、一部「接待文化」が引っ掛かりそうな気がするくらいです。なお、この規定は「公共の信頼に対する侵害(Des atteintes à la confiance publique)という章の中に位置づけられています。
竹田氏が「自分は(フランス刑法における)贈賄などやっていない。」というためには、このフランス刑法第445条の1に引っ掛からない事を証明しなくてはなりません。つまり、国際陸連のディアック会長(当時)が「法律上、契約上又は職業上の義務に反する形で行動するよう」に日本側がカネの提供を通じて働きかけたかどうかが問われます。しつこいですが、間接提供は罰則の対象になりますから、間にブラック・タイディングス社を噛ませているのは何の弁解にもなりません。
判断の基準となるのは、「竹田氏がどういう目的で(間に入った)ブラック・タイディングス社にカネを渡したのか。」という事と「ブラック・タイディングス社からカネを貰ったディアック氏がどういう動きをしたか。」という事だと思います。
多分、後者はもう守り切れないと思いますので、前者で「たしかにブラック・タイディングス社に委託契約をしたけど、そのカネが東京オリンピック誘致対策としてディアック氏に行くなんて思ってもいなかった。」と言い張るしかないのでしょう。実際、国会でも招致された竹田氏はそういう答弁でした。
そもそも、本件がバレたのは、ディアック氏の息子であるパパ・マッサタ・ディアックがパリの高級店でデカい買い物をして足が付いたからです。フランスでは、高額の買い物をした人についてはフランス財務省に通報が行くようです。なので、実は本件はフランス財務省筋からスタートしているんですね。それはJOCからブラック・タイディングス社にカネが流れた直後ではなかったかと記憶しています。どんなに「自分はディアック会長に票の取りまとめをするために払ったつもりはなかった」と言い張っても、最低でも「未必の故意」くらいは認定されるような気がします。
いずれにせよ、この「mise en examen」という状態はとても重いです。フランスの報道で「mise en examen」という表現を聞くと、(無罪の推定は尊重いたしますが)「アウトだろうな」と思うものです。だからこそ、先のエントリーにも書いた通り、「mise en examenになった大臣は問答無用で辞任」というフランス政治の不文律が25年以上続いているのです。