新年明けましておめでとうございます。昨年はこのブログを転載いただいているブログサイト「BLOGOS」で入賞を頂きました。光栄な事です。今年も健筆とは行かないかもしれませんが、それなりに思いを書いていきます。
 
 先日、BREXITの合意なき離脱の可能性について書きました。支持者の方にどうもピンと来ないとのご指摘を受けました。私の筆力不足だと思います。別の視点から分かり易く書きたいと思います。
 
 合意なき離脱をするというのは、EU(英国を除く。以下同じ。)にとって英国が「日本以下」の存在となります(別に日本を貶める意図はありません。)。英国は何の保証も無き状態でEUからほっぽり出されるという事です。今は人の移動が自由であり、モノ、サービスでの貿易面でも関税ゼロ、種々の国境検査もありません。合意なきまま離脱すると、英国は現在の状態から何の自由貿易の枠組みにも属さない存在まで下げられることになります。かたや日本は今年2月からEUとの自由貿易協定が発効しますので、EUとの経済面での関係がかなり近くなります。EUの締結したルールの目線で見れば、英国よりも遥かに近い所に日本が居る事になります。
 
 TV番組「芸能人格付けチェック」で言うと、現在、英国はEUにとって「一流芸能人」の存在です。しかし、これが「(EUっぽく見えるけど、EUメンバーではない)そっくりさん」くらいまで下げられるという事です。日本は「普通芸能人」くらいの所に位置付けられます。良い例えかは微妙なのですが(笑)、支持者の方にこの説明が一番分かってもらえたのであえて提示しておきます。
 
 技術的に言えば、英国・EU間の貿易は、現在は当然英国がEUの一員である以上関税ゼロですが、合意なき離脱後はすべてWTO譲許税率になります。したがって、EUが世界中のWTO加盟国に最低限約束している関税率しか適用されません(品目によってはかなり税率が高いです。)。EU内の原産地規則のルールからも外されます。なので、EUから部品を輸入して、英国で加工生産し、EUに輸出するというプロセスすべてにおいて、関税が掛かり、しかも様々な国境検査が入るようになります。簡単に言うと、英国が絡むサプライチェーンはブチブチに切れてしまうため、かなりのコスト増要因です。
 
 また、金融の世界でも、現在はEUの何処かの国で免許を得れば、そこを基点にEUの他の国でも支店を展開する事が出来ます(シングル・パスポート)。大体、日本の金融機関は、英語の通じる英国で免許を得ているケースが多いです。合意なき状態で離脱してしまうと、このあたりの金融等のサービス貿易にも相当な影響が出ると思います。
 
 正直どういう事が起きるのか、すべてを想定しつくす事は無理でしょう。ただ、英国に進出している日本企業は間違いなくかなりの損失を被るでしょう。英国には進出していないものの、EUのいずれかの国に進出している企業にもかなりの負の影響が出るおそれがあります。それ以外にも、列挙する事が出来ないくらいの数多の負の連鎖が思い浮かびます。世界経済全体が相当に悪化すると見ておいて、全くおかしくないと思います。決して日本から遠く離れた欧州において、日本と縁遠いテーマについて、英国とEUとが勝手にゴタゴタしているという話ではありません。
 
 さて、仮に否決されたとする場合、世界経済に強烈なショックが来ます。世界中で株価が暴落するような気がします。その後に考え得るシナリオは(たくさんありますけど、大きなものとして)①EUとの再交渉、②2度目の国民投票、③解散総選挙くらいでしょう。①はそう簡単にEUは受けないでしょう。ここで甘い顔して離脱条件を緩くすると、他のEU加盟国のアンチEU派に勢いを与えてしまいます。②は現時点でメイ首相は否定していますが、現在の合意案が否決された後であれば「絶対にあり得ない」とまでは言えないと思います。EUのリーダー達は「もう一回国民投票やって、BREXITを否決して、頭下げてベタ下りして戻ってこい。暫くは桟敷で冷や飯食いだが、追い返したりはしない。」と思っているかもしれません。③は最もあり得そうなのですが、その後の見通しが全く立たないシナリオです。仮に労働党のコービン党首が首相になったからと言って、現在の与件は何も変わりませんから。
 
 ただ、否決で強烈なショックが来て実際の被害が生じ始めてしまえば、すべての関係者の危機感が相当に高まると思うので、その時点で(上記以外のものを含む)ありとあらゆる打開策の可能性が生まれてくるのかもしれません。今の議会での劣勢の状況を見て、そういう「ショック療法的打開策」がメイ首相の胸に去来していてもおかしくないでしょう。
 
 それにしても、「EUを離脱したら、拠出金を払わずに済むので国民保険サービスに財源を充てる事が出来る。」みたいな大嘘をついて、投票後に「独立記念日だ」と叫んだにもかかわらず、翌日に「あれは間違いだった。」といけしゃあしゃあと言い放ったナイジェル・ファラージュあたりの罪は重いとつくづく思います。この映像のファラージュの顔を見ると、私は気分が悪くなります。
 
 さて、日本ですが、メディア等でどうもこの危機感がなかなか共有されないですね。ただ、官邸は十分に分かっていると思います。「リーマン級のショックだ。」と言って、(多分ホンネでは消費税増税が嫌いで仕方ない)安倍さんが消費税増税再再延期を言い始めかねません。
 
 BREXIT合意案の英国議会での審議開始は来週から、採決は再来週のいずれかのタイミングだと聞いています。注視したいと思います。