韓国海軍による自衛隊機への火器管制レーダー照射は、撃つ直前の行為であり、とても危ないです。韓国軍が「北朝鮮の遭難漁船を捜索するためにレーダーを稼働させていた。」と言っているようですが、火器管制レーダーを広域の捜索、ましてや遭難船舶を捜索するために使う事などあり得ません。

 

 戦闘に至るエスカレーションというのはこういう所から始まるのです。冒険主義的な事を考えたのか、単なるいたずらなのかは知りませんけども、あまりに危機感が足りません。ちなみにかつて、米英がかつてイラクの飛行禁止区域を設定していた時代(サッダーム・フセイン時代の末期)、米英が空爆をする根拠は(米英軍の)監視飛行に対する(イラク側からの)レーダー照射への対抗措置でした。それくらいのマグニチュードの事です。空爆をその点は強調しておきたいと思います。

 

 ただ、今回の件があって調べてみたのですが、日本側の「火器管制レーダー照射」に対するポジションがちょっと固まっていない事に懸念を覚えました。「レーダー照射」という行為が、自衛権発動との関係でどう位置付けられているのかが、歴代防衛大臣によって異なるのです。

 

【平成19年10月17日・参議院予算委員会(米英の空爆の根拠についての質問への答弁)】

○国務大臣(石破茂君) それは、湾岸戦争以来の累次の国連決議に従ってやっておる行為でありますし、これは委員の方がお詳しいのかもしれませんが、レーダー波を照射されたということになりますと自衛の措置をとってよいということは、これは国際法上の常識でございます。

(略)

○国務大臣(石破茂君) (略)そこでレーダー波を照射されれば自衛の行為としてそこを攻撃するということ、これは当然認められておることでございますし、このことについて国連で何か疑義が提起されたことが一度でもあるかといえば、一度もないのも御案内のとおりです。
 

【平成25年2月7日・衆議院予算委員会】
○石破委員 (略)たび重なる領空侵犯、たび重なる領海侵犯、そして昨日明らかになりましたレーダー照射、いろいろなことが起こっております。(略) あのロックオン事案でありますが、このことについて、どのようにして時間的経緯をたどったのかということが一つ。
 二番目は、あの行為というものをどう考えるかです。国際法的にどう見るかです。つまり、レーダー照射がなされたということは、それをどのように捉えたらいいのかということであって、一説には、もうそれは反撃をしてもよいのだ、それは国際法的には許されるのだという考え方があります。この場合に、私どもは、どのような法制でどのように対応するかということをきちんと明確にしておかなければなりません。
 では、これをもってして、自衛権行使の三要件、すなわち、我が国に対する急迫不正の武力攻撃に着手があった、そして、ほかにとるべき手段がない、必要最小限というふうに評価すべきなのか。それとも、武器等防護の規定でどこまでできるのかということをきちんと詰めて、政府として認識を共有する必要があると思っております。(略)
 防衛省並びに総理の御見解を承りたいと存じます。

○小野寺国務大臣 (略) まず、今回の中国艦船によりますレーダー事案に関しましては、これは私ども、総理の御指示をいただきまして、御承認をいただきまして、今回公表させていただきました。それは、今回かなり、これは衝突に相当する、危険な事案に至る可能性があるということがございました。
 そして、今御質問ありましたように、しっかりとした体制、この場合にはどのような国際法上の適用になるのかということを、今、中でしっかり検討するべきだと思っております。特に、国連憲章上、これはやはり武力による威嚇に当たるのではないかということで、その先、その対応についてはさらに検討することだと思っておりますが、何より大切なのは、今後このような事案が起きないように、海上のこのような安全のメカニズムというのを日中間で協議する、この窓口も片方で必要だと思っております。

 

(略)
 

○石破委員 (略) 先ほどお尋ねをしましたが、では、今回のレーダー照射事案についてどの法制で対応できるのかということは、きちんと認識を統一しなければなりません。我が方にすきがあるからつけ込まれるんだとするならば、そのすき間を埋めるということが政府の任務であります。
 

【平成26年2月12日衆議院予算委員会】

○石原(慎)委員 (略) 例えば、この間、向こうの艦船が日本の、あれは自衛艦に向かってですか、レーダーを照射した。レーダーを照射したということは、つまり、それでターゲットを要するに電波的に確認して、次に攻撃するという威嚇の前提の一つの作業だと思いますよ。
 それで、仮に彼らが要するにレーダーを照射して、ミサイルを発射して日本の艦船を撃沈したときに、撃破したときに、日本の艦船はそれに反応できるんですか、反撃できるんですか、すべきじゃないんでしょうか。

○小野寺国務大臣 昨年一月に、中国艦船より我が国の海上自衛隊の艦船にレーダー照射がございました。火器管制用のレーダー照射ということになります。
 そして、これは同時に、私ども、その中国艦船についてはしっかり監視をしながら、レーダー照射の後に砲の指向が実際に向いた場合、その場合には、例えば、これはもう明確に攻撃があるということを認定した場合には、私どもとして必要な対応をその時点でとることができるということであります。

○石原(慎)委員 これはもうごく当たり前な答弁ですけれども、私は、仮に、仮にの話かもしれませんけれども、相手がレーダーを照射してきて、それにのっとってミサイルを発射して攻撃したときには、これは当然反撃して、相手を撃沈していいという、そこまでの踏み込んだ、きちっとした交戦規定というのをつくる必要があると思いますよ。それがない限り、私たちの警戒行動というのは何の抑止にもならないということを私たちはやはり認識した上で、速やかに、つまり交戦規定というものをつくっていただきたい。(略)

○小野寺国務大臣 これは、どこの国の艦船も同じだと思いますが、例えば、レーダー照射があり、そして、それに向けて砲の指向あるいはミサイルの指向があり、明確に攻撃をされるということがもうわかっている段階では、個別的自衛権の中でしっかりとした対応ができるということだと思っております。それは我が国も同じだと思います。
 その中で、今お話がありました部隊の行動基準、どういう場合にはこちらはどういう対応をするかというのは、これは我が方の手のうちということになりますので明かすことは控えさせていただきますが、少なくても私どもとして、必要な事態に備えられるような行動基準、これは設けておりますし、また、今後とも、想定されることについて、新たに不断の見直しが必要な場合には見直しをさせていただきたいと思っております。
【引用終了】

 

 これらは以下のように整理できるでしょう。

 

● 平成19年石破答弁⇒国際法上はレーダー照射に対する自衛権の発動は問題が無い。

● 平成25年小野寺答弁⇒レーダー照射そのものが武力による威嚇に当たる可能性があり、要検討(ちなみに「武力による威嚇」は、国連憲章第2条4項により禁じられています。)。

● 平成26年小野寺答弁⇒レーダー照射後、砲の指向がある場合は明確な攻撃の意志ありとして自衛権の発動。

 

 すべてが整合的であるとすると、ちょっと混乱が生じそうになります(勿論、整合的に考える事は出来ますが)。平成26年小野寺答弁を読んでいると、レーダー照射そのものについての評価を避けようとしているようにも読めます。

 

 平成26年小野寺答弁後半にある通り、自衛隊として部隊の行動基準はしっかり定めていて対処可能であると信じたいですが、平成25年石破質問後半にあるように「すき間」があるのであれば、きちんとした認識の統一を図らなくてはならないと思います。

 

 今回のレーダー照射は絶対に赦されざる行為です。多分、日本が同じ事を韓国機にやったら、どんな説明をしようがあの国の世論は沸騰するでしょう。日本は明確な謝罪を求めるべきです。その一方で、日本側でも「レーダー照射」そのものをどう位置付けるかという認識を統一する作業があるような気がします。今回の件を通じて出されている識者の論稿を読んでいると、結構差があるので。