この小林慶一郎教授の話を読んで、私自身はとても納得させられました。ただし、聞いていて決して気持ちのいいものではありません。ただ、危機管理というのはそういう物だと思います。何度かこのブログで書いてきたとおりです。

 

 ただ、この「財政破綻したら?」という問い掛けは、議論のスタートとしては難があります。難があるというよりも、これまでの私の経験からして議論が拡散する傾向があるのです。直接何の関係も無いのですが、「対外純資産が多い」、「国は資産をたくさん持っている」、「国民金融資産が多い」といった話でかき混ぜられてしまいます。これらを一つ一つ論駁していく事はそう難しい事では無いのですが、それをやっている内に聞いている方に「どっちもどっちなのかな?」と思われてしまう事が多いです。

 

 私なら「金利が上がったらどうするの?」と言い換えます。今、日本の国債発行額は1100兆円近く、借換債が毎年130-150兆くらいだったと記憶しています。仮に金利が2%に跳ね上がるとしましょう。とても単純に計算しても、毎年消費税1%換算分くらいは利払いが増えていきます。すべての国債の金利が2%になったら、消費税換算で8-9%くらいの負担増にはなるでしょう。ここまでは単純な算数の話です。

 

 さて、答えとして何があり得るかですが、まず「金利は絶対に上がらない」という答えがあるかと思います。それこそ「安全神話」の最たるものでして、そういう事態が来るシナリオをすべて排除する事が出来ると言える方は、世界中何処にもいないでしょう。既に今年に入って国債の売買不成立が多発しているのは、そういう兆候の現れなのかもしれません。

 

 では、金利が上がっていく過程で政府の利払いが増えていくのをどうするか、ですが、「国債を発行して賄えばいい」、これは一つの回答だと思います。では、その国債は誰が買うのでしょうか。「国債の利払いが増えた分を賄うために国債を発行する」わけですから国債保有のリスクが上がって行きます。この状態でマーケットで消化しようとすると、普通はかなりのスプレッドを要求されるでしょう。

 

 「市中で買ってもらって、同額の国債をマーケットから日銀が吸い上げる。」、これとて上記同様のリスク上昇要因である事は間違いありません。同様に高いスプレッドを要求されているでしょう。外国の投資家であれば、その辺りの要求は更に厳しくなります。ましてや、「国債の日銀直接引受」なんて言い始めたら、国債保有のリスクはスカイ・ロケットのように跳ねるでしょう。「直接引受」がマーケットに送るメッセージは、普通は「あ、もう真面目に償還する気が無いんだな。」となります。

 

 これらの「国債で賄ったらいい」論だと、また、それに伴い金利が上がり、それで更に利払いが増え、また国債を発行し、とどんどん追っ掛けっこが続くような気がします。その果てに何処で均衡点が見出せるのかが分からないくらいです。

 

 しかも、日銀が持っているからと言っても、日銀保有の国債にも利払いはしています。そう言うと、「日銀保有の国債には金利を支払わなければいい。」という議論が出てきそうです。そうすると、市中銀行が日銀に預けている当座預金への付利もゼロのままでしょう。でなければ、日本銀行のバランスシートが著しく悪くなります。市中銀行は、金利上昇にもかかわらず日本銀行に大量に預けているお金に利子が付かないという事で、財務状況がとてつもなく悪化していくでしょう。最終的には銀行を通じて、強烈な形で国民負担に跳ね返ります。

 

 もう一つ、あり得るのは「国債金利が跳ねても、経済が成長していけば国債の利払いを賄える。」。成長率が金利を上回れば、国債の対GDP比は一定のレンジに収斂するというドーマーの法則の通りです。ただ、それはプライマリー・バランスが均衡している事が条件です。現在、PBは大赤字ですので法則そのものが成り立ちません。なので、内閣府の中長期予測は成長率が金利を非現実的なまでに高く上回るように設定しています。でないと、国債の対GDP比がワニの口のように拡散するのです。現在、予測の前提において、①とてつもなく高い成長率、②不自然なまでに低い金利、という二重の下駄を履かせないと、成長して国債をの利払いを賄うというシナリオは成立しません。既に安全神話の世界に入っています。

 

 大体、考えられるシナリオはこの程度ではないかと思います。このままでは、「財政破綻 or 強烈な国民負担」の二者択一になってしまいます。だから、財政再建に生真面目に取り組もうという事です。これとて嫌なシナリオですけども、もうそれしかないはずです。百歩譲って「成長していけば大丈夫」論者に乗るとしても、上記の通り、まずはPB黒字化する所までは財政再建しないといけないわけです。

 

 こういう事を書くと嫌われる事はよくよく知っています。私もドカーンと楽観論を振りまきたいです。「財政負担、来ない、来ない。」、「全部日本銀行に賄ってもらえばいい。」、「日本は財産をたくさん持っている国だから心配要らない。」、「成長すればすべて丸く収まる。」、こういう論を展開する人はとても楽だろうなと思います。あとは財務官僚を悪者にする陰謀論がセットでやってくればパーフェクトです。

 

 上記の理屈も色々と反論はあるでしょう。ただ、虚心坦懐に考えてみてください、「金利が上がったらどうするの?」という問を。