【以下のエントリーは、これまで何度かFBに書いたものを纏めて加筆したものです。】

 

 花田光司さん(元貴乃花親方)が政界入りして、国会議員として外から日本相撲協会の改革に取り組むのではないかという話が出てきているようですね。

 

 まず、「国会議員として日本相撲協会の改革に取り組めるか。」ですが、間接的には可能でしょう。まず、押さえておかなくてはならないのは、日本相撲協会は民間団体であり、公益財団法人という意味においてのみ公的な機関との関わりを持っています。なので、公益法人ルート以外で特別な指導・監督をする権限は役所側にはありません。

 

【公益法人法(抜粋)】

(報告及び検査)

第二十七条 行政庁は、公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において、内閣府令で定めるところにより、公益法人に対し、その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該公益法人の事務所に立ち入り、その運営組織及び事業活動の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。

(以下略:なお、第二十八条は「勧告、命令等」。)

 

 したがって、行政庁が日本相撲協会の事業の適正な運営が確保できていないと判断すれば、理事長を呼び付けて報告させたり、究極的には改善勧告→命令を出す事は出来ます。なお、ここで言う行政庁とは内閣総理大臣ですが、実務上は内閣府特命担当相がやります。現在は片山さつき大臣が担当相です。国会議員として花田光司さんがそのための情報提供をしつつ、内閣府ルートで日本相撲協会に改善を求めさせるというのが唯一の方策だと思います。

 

(注:なお、通常は内閣府から法令に基づく報告要求をすると、大半の公益法人は震え上がります。ただ、時々報告や検査くらいでは怯まない団体もあって、勧告⇒命令まで行く事があると聞いた事があります。)

 

 逆に言うと、これ以外のルートは殆ど無いと思っていいでしょう。よくスポーツ庁に期待する方がいるのですが、スポーツ庁はそういう役所ではありません。あえて、文部科学省設置法のスポーツ庁関連部分で該当しそうな所掌事務があるとすると以下のようなものかなと思います。

 

【文部科学省設置法(第4条抜粋)】

六十九 スポーツに関する基本的な政策の企画及び立案並びに推進に関すること。

七十一 スポーツの振興に関する企画及び立案並びに援助及び助言に関すること。

七十四 国際的又は全国的な規模において行われるスポーツ事業に関すること。

七十五 スポーツに関する競技水準の向上に関すること。

 

 しかし、これをベースに、スポーツ庁が各種団体のあり方に口を挟むのはちょっと無理のような気がします。

 

 少し前に、「日本ボクシング連盟」山根会長(当時)の件が話題になりました。同連盟は一般社団法人であり、行政が権限を発揮する余地はゼロです。私は山根会長を擁護する意図は毛頭ありませんが、鈴木スポーツ庁長官が同会長の辞任を口にした時、「良いのかな、そこまで踏み込んで。裁判で訴えられたら勝てないんじゃないかな。」と思いました。実は鈴木長官が、個別のスポーツ団体の不祥事で発言している時、あくまでも「スポーツ界のアイコン」としての鈴木大地さんの権威のみに依拠しているはずです。行政官としての鈴木長官に口を挟む権限はありません。だから、いつも口が重そうなのです。

 

 今回の日本相撲協会の件を始めとして、各団体の運営のあり方についてスポーツ庁にもっと多くの事を期待するのなら、法改正が必要です。仮に法改正で権限を与えるとしても、各団体の自立性を重視する観点からは、極めて弱い権限にならざるを得ないでしょう。「究極の時にはスポーツを振興する団体に意見を言える」くらいが限界だと思います。

 

 スポーツ庁の話はこれくらいにして、本題に戻ります。では、日本相撲協会の公益法人としての事業の適正な運営は確保できているのか、という事についてですが、7月の理事会決定で、すべての親方は5つの一門に入る事を義務付けたと言われています。普通に考えるなら、これが認められるなら、全一門が談合すれば恣意的に誰かを協会から追い出す事が可能になります。また、今後は理事選挙は(以前のように)出来レースに戻ってしまい、当初の貴乃花親方のように独立派からの理事就任は事実上無くなります。私の目には公平な運営がなされているとは思えませんし、組織全体の活性化にも反するでしょう。

 

 協会側は「コンプライアンスとガバナンスの観点から決定しただけで他意はない。」といったコメントをしているようですが、ガバナンスという言葉を「支配の強化」と完全に履き違えているように思えます。ただ、本件は日本相撲協会が理事会で何を意思決定したのかがよく分からないので、何が起こったのかを正確に把握できていません。

 

 日本相撲協会は定款にて以下のように定めています。つまり、議事録作成については法的義務です。そして保存義務もあります。なので、日本相撲協会には「八角理事長、岡部観栄監事(高野山興山寺住職)、梶木壽監事(弁護士)、福井良次監事(元総務省総務審議官)署名の議事録」があるはずです。それを見れば、何をしようとしたのかが分かるようになるでしょう。

 

【日本相撲協会定款】

(議事録)

第44条 理事会の議事については、法令で定めるところにより、議事録を作成する。

2 出席した理事長及び監事は、前項の議事録に記名押印する。

 

 正にこういう所で、内閣府特命担当相は報告要求をすべきだと思います。別にそれは花田光司氏がどうであるという事とは関係なく、公益法人の運営のあり方として問題ありです。仮に今後、他の公益法人において「今後は現存する一門(派閥、流派、グループ等)の何処かに所属すべし。」というルールがどんどんと広がっていくとおかしな事になるでしょう。その前例を作ってもいいのかという事になります。そもそも、以下の公益認定の基準にも反するおそれがあるでしょう。

【公益法人法(抜粋)】
(公益認定の基準)
第五条 行政庁は、前条の認定(以下「公益認定」という。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、当該法人について公益認定をするものとする。

(略)

三 その事業を行うに当たり、社員、評議員、理事、監事、使用人その他の政令で定める当該法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであること。

(略)

 

 花田光司氏が今後どうされるのか、という話をあえて脇に置いたとしても、内閣府は少なくとも八角理事長に対する報告要求くらいの動きをする理由が整っていると私は思います。ただ、私が現職時代から何となく日本相撲協会関係には内閣府は及び腰でした。私の単なる邪推かもしれませんが、有力国会議員から「あまり手を突っ込むな。」と言われているんじゃないかなと思った事がありました。