フランスからインドへの戦闘機売却に伴うゴタゴタがとても面白いです。ヘタなドラマを遥かに超える面白さです。日本の「カケ」と似た要素がありますが、それよりもダイナミックです。

 2015年4月、選出されたばかりのナレンドラ・モディ印首相が、フランス訪問中にフランスのダッソー社から36機の戦闘機を80億ユーロで買う事を決定しました。ただし、その時の契約として、ダッソー社は購入価格の半額(40億ユーロ)をインドに再投資する事が決められていました。再投資先はインドの防衛産業の発展(技術移転を含む)、雇用創出等です。

 

 その時にダッソー社が再投資のカウンターパートに選んだのが、航空・防衛産業に殆ど経験のないインドのリライアンス・グループでした。リンク先を見ていただければ分かりますが、同グループは通信、メディア、映画等に強いですね。インド映画の好きな方には分かると思いますが、名作「3 idiots(邦題:きっと、うまくいく)」はリライアンス・グループによる配給でした。同グループのトップは、モディ首相に非常に近く、資金提供をしているアニル・アンバニ氏。なお、同グループは近年、財務状況が非常に良くなかったとの事です。そして、具体的にカウンターパートになる「リライアンス・ディフェンス社」は2015年3月下旬に設立されています。モディ首相訪仏の直前です。

 インドでは野党国民会議がモディ首相を「お友達優遇」批判していました。議会選挙が半年強にありますので、野党の攻撃は熾烈を極めています。これに対して、インド政府、フランス政府、ダッソー社は「偏にダッソー社の判断でリライアンス社をカウンターパートで選んだ。」という説明をしていました。

 ここで出てきたのが、売却契約をした際のフランス大統領だったフランソワ・オランド氏。オランド前大統領が報道に対して「リライアンス社を選んだのはインド政府。自分達には選ぶ権利は無かった。」と言ったのです。インド国内では「ほら、見た事か。」と大盛り上がりです。フランス外務省を始めとするすべての関係者が「ダッソー社の判断」と繰り返し強調しています。


 これだけだと「単なるお友達優遇の疑獄事件か。」と思うでしょうが、ここからが面白いのです。

 

 何故、オランド前大統領がそんな発言をしたのかというと、戦闘機売却とほぼ同時期に、同前大統領のパートナーである女優のジュリー・ガイエが作成に携わる映画「Tout-la-haut(英語訳:to the top)」に対して、リライアンス社がかなりの資金提供をしている事が批判され始めていたからです。以前、このようなエントリー(面白いと思いますので読んでください)を書きましたが、オランド氏は大統領時代、別の女性(トリエルヴェレール女史)とパートナー関係にありました。国賓として訪日した際も、トリエルヴェレール女史と一緒に来られました。しかし、2014年1月、オランド大統領が警護も付かない状態で、ガイエ女史の所にスクーターで足繁く通う姿がすっぱ抜かれました。この辺りからどんどん人気を落としていき、現職大統領として2期目の出馬断念というフランス政治史上、初の不名誉の大統領となっています。

 オランド前大統領は「自分のパートナーであるガイエ女史の作る映画にリライアンス社が資金提供しているが、それに自分は関係ない。何故なら、リライアンス社を選んだのはインド政府だから。」と言い訳しているわけです。二人の関係がすっぱ抜かれたのが2014年の1月、モディ首相訪仏が2015年4月。関係が公になって「マズかったかな」と思うどころか、パートナーが作成する映画への出資を武器売却絡みの業者に押し込んだという疑いを掛けられているわけです。必死に火の粉を払おうとしていますが、フランス国内の反応はオランド氏に冷淡なように見えます。なお、今でもオランド氏とガイエ女史は良好なパートナー関係にあります。

 

 この話は一部、「カケ」と似ているなと思います。バレバレの嘘にも関わらず、ひたすら口裏合わせする姿はとても似ています。ただ、規模といい、ストーリー性といい、こちらの方が面白いというか、筋が悪いです。さて、これがインド政治、とりわけ来春の下院議員選挙にどう影響するのか、注視していきたいと思います。