先日、このブログを書いたら色々なコメントを頂きました。「もうちょっと具体的に」というご指摘が結構多かったです。

 

 財政については、今、国債の金利が低いのでなかなか見えにくいのですが、金利が跳ね上がった時の事を考えるべきではないかと思います。「金利が跳ね上がっても、経済が成長すればいいんだろ?」という反論があるでしょう。たしかに、プライマリーバランスが均衡していれば、名目GDP成長率が名目利子率を上回れば財政赤字の対GDP比は下がっていきます。これを「ドーマー条件」と言います。

 

 しかし、これは「プライマリーバランス均衡」が大前提であって、今の日本のようにプライマリーバランスが大赤字では、名目GDP成長率が名目利子率を相当に上回らない限りは均衡しません。なので、今年1月の内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」で、成長率が不自然なまでに利子率を上回るような想定を出さざるを得なかったわけです。

 

 金利が跳ね上がった際のリスクは多岐に亘るので、ここには書き切れません。いずれにしたって今の政策が出口を迎えるなら金利は上がります。その時の利払いをどうするのか、という簡単な話です。せめてプライマリーバランスくらいは実現しておかないと、上記の通り、成長率だけでは到底カバーできません。「日本銀行が国債を直接引き受けて賄えばいい」、間違いなくその時に来るのは、マーケットが償還可能性に疑義を呈して国債の金利が更に跳ね上がり、かつ円の信頼性が下がりハイパーインフレでしょう。

 

 先のブログで言いたかったのは、「金利が跳ね上がり財政運営が困難になる可能性」と、原子力発電所で全電源喪失が起こる可能性、国の安全保障において存立危機事態が起きる可能性をそれぞれ危機管理という視点で見て、安全神話にならないようにしようという事でした。これらは直接比較できるわけではないのかもしれませんが、私の目には「まあ、(変な拡大解釈をしない限りは)存立危機事態が起こる可能性よりは高いだろう。」と思います。

 

 ちょっとお浚いをすると、集団的自衛権行使の要件となる存立危機事態とは「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」です。私はこういう事態が起きるのであれば、自衛権行使をする事が違憲だとは思っていません。ただし、「普通に読めば、こんな事がそうそう起きるものでもない。」とも思います。法文を忠実に読めば、少なくとも武力攻撃予測事態が起きていて、その中でも限定的に起こり得る極めて例外的なケースだと思います。

 

(なお、存立危機事態については、当初政府は「単に日米同盟が揺らぐおそれがあるということが直ちにこれに当たるとは考えられません。」と答弁していたのですが、法律成立後は「日米同盟が揺らぐおそれ」のみで存立危機事態に言及する人が増えてきたように見えます。この件は稿を改めます。)

 

 ただ、そういう「穴」を塞ごうとする事の意義はよく分かります。危機管理の中では「think the unthinkable(考えられないような事を考える)」というのが大事です。そういう意味で、法制度の中に空いたとても小さな穴を埋めようとする熱意に、私は大いなる理解を持っています。であれば、それよりも可能性の高そうな「金利が跳ね上がる事による財政危機」にも同様の関心と危機感を持つべきだろう、というのが私の趣旨です。それこそ、起きてしまえば「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」事になりかねません。

 

 「国債の金利は上がらない」、「金利が上がっても成長すればOK」、「日本銀行が国債を直接引き受ければOK」、原子力発電所の安全管理や安保法制でこれと同じような希望的観測を語ったら、多分、すべての政治家はドヤしあげられるでしょう。