先日、参議院の選挙制度改革について書きました(ココ)。基本的に「お手盛り」感満載でして、特に自民党内の県間調整、派閥間調整が上手く行かないのを、制度を歪め、かつ国民負担が増える形で解決しようとしている事については論外だと思います。

 

 通常、どんな法案にも「五分の魂」があって、熟考すれば「そうは言っても、理解出来る所もある。」と思うものなのですが、この法案だけは熟考しても全く共感が自分自身の中に湧いてきません。

 

 まず、比例区を4増やす案は、先のブログに書いた通り、単に自民党内の候補者調整で、徳島・高知、島根・鳥取の両合区において、どちらの県出身者を選挙区に立てるか、そして選挙区候補を出せなかった県出身者をどう比例区で当選させるかという調整が辛いためにやっているだけです。その解決策として、選挙区候補を出せなかった県出身者のために「(絶対当選出来る)特等席のざぶとん」を用意しましょうというアイデアですから、全く論外です。しかも、既存の比例区の枠に影響を与えないという既得権益付きまでくっ付いてきます。「自民党の、自民党による、自民党のための制度改革」の極みでして、相手にする必要が全くありません。

 

 更には、選挙区で議席数を2増やし、埼玉県を3人区から4人区にするとの案ですが、これ自体は「3倍以内に収める」という最高裁の要請からすると仕方ないと思います。たしかに「小手先」の案ですが、憲法における「平等(第14条)」、「全国民を代表(第43条)」の解釈の中で、参議院にも「一票の格差(3倍以内)」を求めているわけですから、その「小手先」をやらざるを得ません。現行憲法と最高裁の解釈の中では「仕方ない」でしょう。

 

 しかし、議席数を拡大する必要はありません。埼玉県で議席数を2増やすのであれば、何処かで2減が必要だと思います。私は先のブログで、2人区である京都府を1人区にする、3人区である福岡県を2人区にするという2案を書きましたが、これらは実際に計算してみると、現在、最も一票の価値が重い福井県との比較で3倍以内の要請を満たせない事が分かりました。

 

 となると、後は「合区」をもう一つ作るしかないのです。地理的条件を勘案しつつ機械的に計算すると、石川県と福井県の合区しか考えられません。「合区」は本当は望ましくないのですが、しかし、最高裁の要請を満たすためにはこれしかないのです。

 

 したがって、現下の状況でやるべき改革は、①埼玉県2議席増、②石川・福井の合区、これだけで必要かつ十分です。それ以上の事をやるのは、何らかの我田引水的思惑が絡んでいると言っていいでしょう。今、政府や国会は国民の皆様に負担を求める話をしています。にも関わらず、自分達の話になると「我が身可愛さ」で議席増をやるというのは絶対に理解が得られません。

 

【ここからが今日のエントリーの本旨です。】

 

 ただし、私はこういうやり方が良いとは全然思いません。基本的な疑問点は「いつまで、参議院で一票の格差を議論し続けるのだろうか。」という事です。憲法改正によって、全く考え方の異なる代表制のあり方を考えるべきだと思います。

 

 アメリカでは上院議員は各州2名です。人口最大のカリフォルニア州と、人口最小のワイオミング州が上院に送る議員の数は同じです。あえて一票の格差を計算すると80倍近いと思います。フランスでは、上院は地方自治体の首長、議員で選ばれますが、フランスにはとても小さな自治体が多い(人口100人以下の自治体がかなりある)ので、結果として都市部より地方の声がとても大きく反映されます。なお、フランスでは上院は「地方自治体(collectivites territoriales)」を代表すると明確に憲法に書いてあります。

 

 日本でも同じ事を考えるべきではないかと思います。衆議院は国民(人口)を代表する院として位置付け、人口ベースで選挙区の割り振りをやり、参議院は地域を代表する院として位置付け、都道府県単位で考える、これでいいのではないでしょうか。参議院においては、(人口最大の)東京と(人口最小の)鳥取県が同じ議席数で全く構わないと思います。なお、カリフォルニア州は東京よりも遥かに人口が多く、ワイオミング州は鳥取県よりも人口が若干少ないです。

 

 現在、東京はとても人口が多いです。しかし、日本の人口減少に最も貢献しているのは東京です。地方からどんどんと人間が集まり、そして、出生率は最も低いのが東京です。出生率が最も低い東京にどんどん人が集まって来る以上、人口が減っていくはずのは当然の帰結です。したがって、東京の活力を維持しているのは地方であり、そのデメリットを真正面から受けているのも地方です。そういう観点からは、地方の声を代表する院としての参議院という位置付けが明確になって来ると思います。

 

 ちょっと別の視点から見てみたいと思います。今、鳥取県の人口は56万強です。今、衆議院選挙の1票の格差の議論の隠れテーマは「どうやって鳥取県に2選挙区を維持するか。」というものです。鳥取県に2選挙区設けようとすると、半分に割って1選挙区あたり28万程度。それの2倍以内に全選挙区の人口を収めるという事ですから、結局、鳥取県の全人口よりちょっとだけ人口が少なくなるように全選挙区を作っていくという作業になります。実際、東京都の選挙区を見ていると、かなりの選挙区が人口55万(鳥取の各選挙区の2倍を僅かに下回る)になるように切り分けています。我が福岡でも福岡市内の2区がそういう対象になっていました。

 

 しかし、恐らく、このまま人口減少が続くと、(とても、とても残念ですが)鳥取県の衆議院選挙区は全県区(選挙区1つ)になると思います。上記の作業にも一定の限界があり、実際東京都での選挙区切り分け作業はもうパツンパツンです。最後は幾つかの県でそういう残念な帰結にならざるを得ません。その時、参議院が今の制度のままだと、鳥取県を始めとする人口の少ない県の国政での代表制がどんどん下がっていきます。他には山梨、福井、島根、高知、徳島、佐賀がそういう対象になる可能性があります(現在、衆議院の選挙区が2つの県)。

 

 アメリカでも、人口の少ないアラスカ、デラウェア、モンタナ、ノースダコタ、サウスダコタ、ワイオミングは、人口割が厳格な下院には1人しか議員を送れません。しかし、必ず上院議員が2名いるので、必ず連邦議会全体に3名は議員を送り込みます。日本でもこれと同じ事を確保しないと、最終的には「うちの県の国政での代表は1人しか居ない。(合区した結果、自分の県から全く参議院候補者が出せず、結局、衆議院議員1名しか居ないというケース。)」といった状況すら出てきかねません。

 

 長々と書きました。今の最悪の選挙制度改革は(少し残念な結果にはなるものの)埼玉の議席増と石川・福井の合区で纏めて(比例の議席増は論外)、もう少し先の将来像を理念系+憲法改正を含めて真面目に議論すべきだと思います。