北朝鮮(や中国)の指導者を見ていると、「時間軸が違うな。」と思う事が多々あります。最近、たしか藪中元外務事務次官も似たような事を言っていました。

 

 北朝鮮の金正恩委員長は、「現体制が続く限りにおいて」はあと30-40年は現在のポジションに居るでしょう。そうすると、すべての政策をその時間軸で考えているはずです。選挙があるわけではないので、数か月後、1年後の成果に必ずしも捕われません。中国にも似たような事を感じる事があります。悠久の歴史の中に今を位置付ける意識が強いように感じます。鄧小平が尖閣の話を「棚上げして、次の世代に任せよう。」と言ったのも、恐らくは「いずれ国力の差が出てきて、自然にうちのものになるから今頑張る必要はない。」と思っているからでしょう。それが実現するのが、自分の生前である必要すらないと思っているはずです。

 

 逆に民主主義国家はそうは行きません。選挙による審判がありますから、どうしても短期的な成果を求めがちになります。そして、30年後には安倍総理も、トランプ大統領も、文大統領も政権の座に居る事はありません。

 

 その観点で私が気になっているのが、一部報道にあった「6か月以内に非核化を実現」というアメリカのポジションです。誰がどう見ても、中間選挙向けのパフォーマンスでして、事実であるとすれば最悪の提案だと思います。そう見られた瞬間に足元を見られます。私がかつて外務省に居た際、アメリカの核不拡散部局が考える「完全、検証可能、不可逆的な廃棄(CVID)」の詳細計画を見たことがあります。内容は極秘に当たるので控えますが、全部完了するにはかなり長い時間が掛かります。つまり、トランプ大統領は「非核化を全部完了する事」にはプライオリティを置いていないという認識を北朝鮮に持たせかねません。

 

 そうすると、徐々に「非核化」という言葉について、人によって考えている事が違っているのではないかという懸念が出て来ます。中間選挙向けの成果を求めるトランプ大統領が考える非核化、プロである核不拡散専門家が考える非核化、今後長い統治を念頭に置く金正恩委員長が考える非核化、文大統領が考える非核化、日本が考える非核化、その他中国、ロシア等の主要アクターが考える非核化、すべて内容が異なっている可能性が出て来ます。仮に「非核化」の前に「完全な」を付けたとしても、事情は大して変わらないでしょう。

 

 ちょっと話が飛びましたが、この為政者がどの時間のスパンでモノを考えるのか、というのが、具体的な外交政策のあり方に今後、影響してくると思います。くれぐれも「相手は自分達と同じ時間軸で考えている」と思ってはならず、むしろ、相手の立場に立って考えるとどういう発想になるのかをよく研究する事です。そして、もう一つ重要なのは「内政、特に選挙の時間軸で動いている」と北朝鮮や中国に思わせない、という事です。繰り返しになりますが、そう思われた瞬間に交渉では足元を見られますので。