北朝鮮が大陸間弾道ミサイル（ICBM）の発射停止と核実験施設の廃止を発表しました。日本の一部マスコミは非常に好意的に捉えています。また、安倍総理も留保を付けつつも「前向きな動き」と評しています。
しかし、私は全く見方が違います。この発表の一番のポイントは「開発しない」とは一言も言っていない事でしょう。ICBMは撃ちません、核実験は行いませんと言っているだけで、開発しないわけでも、製造しないわけでもありません。考え方によっては、ICBMを発射しなくても、核実験をしなくても開発を進める事が出来るデータが、これまでの発射、実験によって得られたと見る方がいいように思います。
そして、ICBMを発射しないのであれば、北朝鮮の持つ中距離、短距離のミサイルの標的として最も考えられる日本だけに脅威が残るという事になります。
日本にとってみたら、むしろ「マイナス」とすら捉え得るような発表だと私は受け止めました。北朝鮮は日米の離間を図っていて、アメリカの要望には応えるけど、日本は無視するという姿勢の端緒なのかもしれません。北朝鮮で拘束されていた米国人３人の解放をポンペオCIA長官に保証したのもその一端であると見るべきかもしれません。決して「するためにする」批判ではありませんが、日米首脳会談の成果を強調したいがあまりに安倍総理が「前向きな動き」と言ったのであれば、それはあまりに戦略的な発想からかけ離れています。今はもう少し慎重なモノの言いをしておく方が賢明だったでしょう。
ここはゲームの理論的な発想を十分に駆使すべきです。北朝鮮は「アメリカとさえ握れば、日本は勝手に後で付いてくる。どうせ（踏まれても踏まれても付いてくる）下駄の雪だ。」と思っているような気がします。北朝鮮がそう考えていると日本は思っている、というふうに北朝鮮が思っているのであれば、更に焦らせようとするでしょう。今、発するべきメッセージは「アメリカと折り合えそうだからといって、うちが降りると思うなよ。」という事ではないかと思うのです。それをきちんと北朝鮮指導層に認識させる事が大事だと思います。
あと、少し気になるのが、北朝鮮がこのICBM発射停止と核実験場廃止の対価を求めてくるのではないかという事です。北朝鮮はよく「言葉対言葉、行動対行動」という原則を口にします。「うちが何らかの前向きな行動をしたら、そちらも何らかの対価を出すべき。」という事です。一番厄介なのが、「何が『言葉』で、何が『行動』なのか。」が分からないという事です。北朝鮮は今回の発表を「行動」と定義して、「ICBM発射停止と核実験場廃止という『行動』をとったのだから、日米韓は何らかの『対価』を出すべき。」と言ってきかねません。日米はそういう事はしないのですが、韓国が変なお駄賃を出したりしないかがとても気になります。
ともかく今回の発表で日本が安心する要素は全くありません。むしろ、脅威が日本にだけ残る可能性が出てきた事、北朝鮮は日米の離間を図ろうとしている事に十分留意する必要があるという点では、日本のメッセージの出し方は非常に慎重たるべきだという局面でしょう。日本のメディアの楽観的なトーンには到底首肯する事が出来ません。