【要約】
〇 かつて、日米通商摩擦華やかなりし頃、日本はスーパー301条に対して厳しい姿勢を取っていた。
〇 しかし、最近、日本の姿勢は後退しているのではないか。
【本文】
今回、アメリカが対中国でスーパー301条による関税引き上げを発動しました(日本への鉄鋼関税引き上げとは別物)。現職時代、「トランプ政権が使ってくるツールとしては、アンチダンピングとスーパー301条が有力だ。」と何度か国会質疑していたので、それ程の驚きはありません。
スーパー301条的アプローチは、不公正な貿易があると思われる国を名指しして調査を始め、その結果不公正な貿易があると判断されたら制裁を打つというような内容のもので、1980-90年代日本が苦しんできました。なお、調査をする段階ではWTO協定上の違法性はありません。ただ、具体的に制裁措置を打つ時には、大体WTO協定違反に措置になってきます。ただ、よく考えれば分かるのですが、「調査」というのはアメリカから目を付けられるという事ですから、この脅しが効果を見せて、その時点で狙われた国は、アメリカが不公正だと見なす貿易慣行の見直しをするという事が多かったです。
かつて、日本はかなりスーパー301条に対して厳しい姿勢を取っていました。1989年5月の宇野外相談話の言葉の使い方はかなり厳しいものがあります。また、1989年外交青書には「議会を中心とする対日経済関係に対する不満は、八十八年八月に成立した包括貿易法におけるスーパー三〇一条に顕著に現れている。この条項は、米国通商代表部、(USTR)に対し優先的にとりあげる「外国」の貿易障壁慣行を撤廃するための交渉を義務づけ、交渉不成立の場合には、制裁措置を執ることを行政府に対し義務づけるもので、ガット規則との関係で多分に問題を含むものであるが、(以下略)」という記述があります。更には、報道ベースですが、当時の松永駐米大使はヒルズ米通商代表部代表に「スーパー三〇一条の一方的な適用は、善意ある努力を重ねてきた日本政府、国民に大きな失望を与え、国民的反発が予想され、懸案解決を一層困難にする。その責任は日本にはない。日米間の諸問題は従来同様、協力の精神により、話し合いを通じて解決するように努力するが、スーパー三〇一条による制裁は一方的な措置であり、強く反対する。」と述べているようです。
これらを踏まえて、昨年、質問主意書を出していました(質問、答弁)。基本的には、上記の1989年当時やそれ以降の日本政府の見解を確認するだけのものです。この答弁書を読んでいると、ちょっと気になる事があります。答弁を引きながら解説したいと思います。
【一について】
御指摘の米国包括貿易法のいわゆる「スーパー三〇一条」は、平成元年版外交青書刊行当時、紛争処理に関する規定を定めた関税及び貿易に関する一般協定の精神に反する一方的措置を許容する等の問題があると考えたものである。
(解説)
こういう文章を読む時は、「もっと簡単に言えそうなのに、そうしていない。」という部分に思いがあります。これは、お役所の文章を読む時のコツみたいなものです。
最も簡単に言おうとすると「御指摘の米国包括貿易法のいわゆる『スーパー三〇一条』は、紛争処理に関する規定を定めた関税及び貿易に関する一般協定に反する一方的措置を許容する等の問題がある。」でしょう。この答弁書のポイントは2つ。(1)「当時、そう思っただけ」と限定しており、今どう思っているかを述べていない、(2)「GATT(関税及び貿易に関する一般協定)の規定に反する」ではなく、「GATTの精神に反する」という表現になっている、という2点です。(2)については、上記の通り、たしかに調査段階では具体的なGATT違反が無いので、ここでの答弁では「精神に反する」という言い方で止めているわけですが、外交青書の厳しい表現振りからすると、ちょっと後退したような印象を受けます。
【二及び三について】
平成元年五月二十五日(米国東部時間)の米国包括貿易法のいわゆる「スーパー三〇一条」の我が国に対する適用に関する我が国の立場は、同月二十六日に発出した外務大臣談話のとおりである。
(解説)
私の質問は「(上記で引用した)宇野外相談話の立場を堅持しているか。」でしたが、この質問についても、答弁を少しずらして「当時、そういう見解だった。」だけで止まっています。
ここから読み取れるのは、「将来、もしアメリカがスーパー301条を日本に発動した場合、日本の対応にはフリーハンドを確保したい。」という現政権の意図です。そして、恐らくそのフリーハンドで決める日本のポジションは、恐らく1989年時点よりも弱いものである事を示唆しているような気がします。実際、私の国会質疑での外務省答弁は私の懸念を裏打ちします。