世間は政局ネタが多いのですが、今日は政策の話です。

 

 今年の通常国会に「シップリサイクル条約」という条約と、その関連法(国土交通省所管)が上がってきます。簡単に言うと、現在、船舶の解体はインド、パキスタン、バングラデシュ、中国で大半が行われているのですが、非常に劣悪な環境で行われているところがあります(特にパキスタン、バングラデシュ)。「クレージージャーニー」でも取り上げられていたのを見ましたが、この映像を見ると如何に劣悪な環境で船舶の解体をやっているかが分かってもらえると思います。そこで、日本が主導する形で、一定の労働基準、環境基準を満たしたヤード等でしか船舶解体が出来ないようなルール作りをする条約を2009年に作りました。

 

 ただ、日本はその後締結への動きが進みませんでした。国土交通省海事局は乗り気だったようですが、外務省国際法局における国会提出条約のウェイティング・リストになかなか乗らなかったようです。ある時、私が造船等の労働組合である基幹労連の方と話をしていた際、なかなか本件が進まないを伺い取り組む事にしました。実は上記の国で解体される船舶の内、結構日本で造った船舶が多いのです。日本で造った船舶が巡り巡って他国で労働災害、健康問題を引き起こしている事は看過できないという基幹労連の思いは素晴らしいと思います。

 

 ということで、平成27年5月の衆議院外務委員会で本件を取り上げました。ちょっと引用が長くなりますがご容赦ください。

 

【平成27年5月22日衆議院外務委員会(抜粋)】
○緒方委員 (略)まず、国土交通省にお伺いをいたしたいと思います。このシップリサイクル条約の意義について、御答弁いただければと思います。
 
○坂下政府参考人 お答え申し上げます。
 船舶につきましては、その役割を終えた後は、今御指摘ございましたように、解体をされ、スクラップ鉄などとしてリサイクルをされております。
 委員から御説明ございましたように、船舶の解体は、主に、インドですとかあるいはバングラデシュなど、開発途上国で行われておりまして、解体作業における労働の安全や環境保護の面で十分な対策が講じられていないということが、大きな問題になってございます。
 こうした状況を改善するために、国連の専門機関でございます国際海事機関におきまして、安全で環境に配慮した船舶の解体のための国際的な枠組みづくりの検討が行われ、シップリサイクル条約が二〇〇九年に採択をされたところでございます。
 この条約では、船舶の解体時に環境対策を容易に講じることができるようにするために、船舶で使用されております有害物質の所在等を明らかにしておくこと、あるいは労働安全と環境対策について所定の基準を満たすことが確認されたリサイクル施設において解体を行うことなどを義務づけております。
 我が国は、世界有数の海運・造船国としてこの条約づくりを主導してまいりました。船舶の解体作業における労働の安全の確保あるいは環境保全の観点から、この条約は極めて重要なものだというふうに考えております。
 また、新しい船が建造されて、その役割を果たし、やがて解体されてリサイクルされるという循環を健全に機能させるという意味におきまして、世界の海事産業の持続的な発展にとって極めて重要な意義を持っておるものというふうに考えております。
 
○緒方委員 (略)早く国会で成立をさせていただきたいので、政府部内で手続を進めた上で、我々のこの外務委員会に上げてきてほしいなと思うところでありますが、中根外務大臣政務官、いかがでございますか。
 
○中根大臣政務官 先ほど国交省からもお話ありましたとおり、この問題は極めて重要な問題だと心得ております。
 先ほど委員からもお話ありましたように、世界の解撤のシェアというと、やはりインドが一番多い。そして、バングラデシュ、中国、パキスタンというようなことで、ほとんどがそこの国でやられているということ。その中で、特に委員がお話ありましたバングラデシュ、パキスタンが、非常に劣悪な環境で仕事が行われたり、また環境への悪影響が指摘されているところでございます。
 こういったことを考えまして、外務省といたしましても、本条約は早期の発効が望ましいと考えております。
 委員御指摘のとおり、外務省として、国交省、また他省庁とも協議しながら、もちろん条約の意義、国内法制化の検討状況等を踏まえて、真剣に検討していきたいと思っております。
 
○緒方委員 (略) 大臣から一言だけいただければと思います。
 
○岸田国務大臣 御指摘の条約につきましては、今答弁の中にもありましたように、日本が主導して作成した条約であります。早期の発効が望ましいと考えています。そして、その際に、関係省庁の連携、そして理解、協力、これは不可欠であります。
 ぜひ、この条約を担当する外務省として、この早期締結に向けてリーダーシップを発揮していきたいと考えます。
【引用終わり】
 
 私が意を用いたのは「外務大臣にも一言貰う」という事でした。大臣に答弁させておくと、外務省内での重みが違い、作業を急いでくれるだろうと思ったからです。なので、この答弁で「さあ、作業を始めてくれるだろう。」と思ったものです。
 
 そして、1年くらいして「検討状況はどうなってるかな」と思って、外務省に問い合わせをしました。担当課からの最初の返事は「何の事ですか?」でした。「いや、シップリサイクル条約の早期締結について大臣にも答弁してもらったでしょ?」と聞き直したら、「承知していません。」という返事でした。定期的にフォローしていなかった私が悪いと言えば、そうなのでしょうが、さすがに脱力しました。仕方ないので、質問主意書を提出して確認するしかありませんでした(質問答弁)。爾後、さすがに焦って説明に来られました。
 
 担当の交替等によるエアポケットに落ちていたという事らしいのですが、大臣答弁までさせたのに、それを平気で寝かせる役所は霞が関の中では恐らく外務省くらいだと思います。他省庁では絶対にあり得ない所業です。
 
 そこからは検討がスタートしましたが、時は既に平成28年の夏。結構、この条約を締結しようとすると、関係する法令が多いのです。国土交通省(海事)のみならず、厚生労働省(労働)、環境省(有害物質)が絡むため、国内法整備に時間が掛かるようで、結局、昨年(平成29年)の国会での成立には間に合わず、この時期まで引っ張ってしまいました。国土交通省主管の法案はこれです。私が外相から「早期締結」の言葉を取り付けて、もう3年弱が経っています(上記の通り、その内の1年強は外務省のファイルの中で案件そのものが寝ていたわけです。)。
 
 それでも、国会に条約と法律が耳を揃えて上がってきた事は嬉しい事です。それ程争いのあるものではないので早期に締結して、船舶の解体が少しでも安全な環境で行えるように、国際社会で日本が頑張ってほしいと思います。