時折、国会でちょっとした話題を提供する「UFO襲来」。さて、こういう事が起きた時に自衛隊が出動するとしたら、それはどういう法的枠組みなのかという質問主意書が出ていたようです(ココ)。面白半分のように見えるかもしれませんが、安保法制を考える時にそれなりに重要な視座を提供する論点ではないかと思います。

 

 石破茂さんが「シンゴジラに防衛出動(個別的自衛権)の発動をするのはおかしい。」と以前言われていました(ココ)。総論としては私も同感なのですが、一部「どうかな?」と思う部分もあります。

 

 石破さんはブログで「いくらゴジラが圧倒的な破壊力を有していても、あくまで天変地異的な現象なのであって、『国または国に準ずる組織による我が国に対する急迫不正の武力攻撃』ではないのですから、害獣駆除として災害派遣で対処するのが法的には妥当なはず」と書いておられました。この「国又は国に準ずる組織」という要件は、憲法9条の「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」にある「国際紛争」を踏まえ、「自衛隊の行為」と「国際紛争」との関係を整理するために考案されたものです。

 

 しかしながら、自衛隊法では、防衛出動は「国又は国に準ずる組織からの武力攻撃」に対するものでなければ発動できないとはなっていません。あくまでも、この概念が出てくるのは「憲法違反に当たらないための要件」としてであって、防衛出動発動の際にその相手が「国又は国に準ずる組織」が相手でなくてはならないというわけではありません。実際、自衛隊法第76条においては次のようになっています。

 

【自衛隊法(抜粋)】

第七十六条 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。


一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態

(以下略)

 

 「外部からの武力攻撃」という表現になっています。シン・ゴジラのケースは、ストーリーから判断する限りは、羽田付近での水蒸気噴出、アクアラインのトンネル崩落がスタートですから、「外部から」とは言えないでしょう。ウルトラセブンにおけるシャプレー星人とギラドラス、ポール星人とガンダーのように、シン・ゴジラを裏で操る勢力が居て、我が国に対する攻撃とみなし得るような状態であれば話は別ですが、少なくとも映画の限りではそうは見えませんでした。また、そもそもシン・ゴジラの行為は「我が国に対する武力攻撃」にも当たらないでしょうし、シン・ゴジラへの対処は「我が国を防衛」にも当たらない可能性が高いですから、防衛出動の発動要件に当てはまりません。結局、取れる手法としては石破さんの言う通り「災害派遣による害獣駆除」くらいしか思い付きません。

 

 一方、知能の高い地球外生命体が乗っているUFOによる攻撃だったらどうかなと考えてみます。シン・ゴジラのケースと違って、「外部から」であり、その中では「武力攻撃」に当たるケースも出てくるでしょう。体系立った組織を有している地球外生命体については、(地球上に支配地域が無かったとしても)「国に準ずる組織」とも言い得るかもしれません。

 

 微妙なのは、そのUFOは「我が国」を攻撃してきているのではなく、「我が星」を攻撃してきている可能性が高いという事です。ただ、それでも「我が国を防衛するため必要があると認める場合」とみなす事は出来るでしょうから、最終的には「防衛出動」は不可能ではないように思います。

 

 なお、石破さんが言っていたように、防衛出動は国会承認を要するので、迅速な対応が可能な災害派遣(害獣駆除)での対応が良いと私も思います。しかしながら、地球外生命体の態様、能力次第ではそのように位置付ける事も、処理する事もできず、やはり防衛出動を下令せざるを得ないケースが出てくるのではないかと思います。

 

 百歩譲って仮に防衛出動が難しい場合であっても、警察権の行使である治安出動は可能でしょう。武器の使用も警職法に則ってやる限りは可能です。

 

【自衛隊法(抜粋)】

(命令による治安出動)
第七八条 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。

 

【警職法(抜粋)】

(武器の使用)
第7条 警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、刑法(明治40年法律第45号)第36条(正当防衛)若しくは同法第37条(緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。

 

 なお、要注意なのは、(石破さんも書いていましたが)害獣駆除であっても、治安出動であっても、必要と判断される限度においては武器の使用は可能という事です。どういう武器を使っていい、いけないという点は勿論、法律には書かれていません。事態の深刻さに応じて、重火器を使う事も十分可能です。それは自衛権行使として認められる「武力行使」とは全く別物であるところの「武器の使用」に過ぎません。防衛出動による「武力行使」でなければ重火器を使う事が出来ないというわけではありません。

 

 逆に外部から大量の投石による武力攻撃が日本に行われると仮定する時、それに対して日本側から投石で応じるのであれば、その投石は「武力行使」と位置付けられ得るでしょう(極端ですが、あくまでもモノの考え方として)。何が言いたいかというと、防衛出動でないのであれば、使える武器のグレードを下げなくてはならないという理屈にはならないという事です。

 

 完全に空想の世界でした。お笑いっぽく受け止めた方が居られるでしょうが、それなりに真剣に考えたものです。安保法制との関係で「Think the Unthinkable」の知的エクササイズとしては私は意味があると思います。