福島県及び隣県からの水産物について、韓国が過剰な検査を要求したり、禁輸したりしている事について、WTOの紛争解決パネルの報告(第一審判決のようなもの)が出ました。

 

 その内容はこれです(技術的に難しく、かつ膨大なので報告書そのものを読むことをお勧めしません。)。ページの下にサマリーがありますが、極めて中立的な立場から読んでみても「韓国のボロ負け」です。全面禁輸、個別品目禁輸措置、透明性、追加的検査措置等、ほぼすべての韓国の措置が「WTO協定に不整合」とされています。日本が主張の正当性の証明に失敗したのは本当に僅かであって、日本の主張が殆ど通っています。

 

 前職の外務省時代、私は何度もこの手の貿易紛争のパネルの報告書を読んでいましたが、一方の当事者(韓国)のみに対して「inconsistent(不整合)」という言葉がこんなに連発する報告書はそうそうありません。

 

 ただ、韓国は上訴すると言っています。ハングルで出されたプレス・リリース(Google翻訳)を読んでいると、少なくともGoogle翻訳の限りは、日本人なら誰でも気に障る言い方をしています。上級委員会への上訴はたしかにWTO加盟国の権利ですが、もうちょっと言い方があるだろうに、とも思いました。

 

 なお、上訴機関である「上級委員会」は第二審で結審に当たり、法的問題、法的解釈を争うための機関です。しかし、第一審に当たるパネル報告をザッと読む限りは、法的問題や法的解釈以前の事実認定の段階でもう韓国側の主張に軍配を上げていないように見えます。上訴してもほぼムダでしょう。恐らく、上訴している間だけでも今の措置を継続したいという事なんだろうと思います。

 

 そして、上級委員会で負けた後のシナリオも大体分かります。「仕方ないので韓国は若干の制度改正をする」⇒「それでも必要以上に貿易制限的でまたWTO整合性が問題となる」⇒「また、WTOの紛争解決手続きに持ち込まれる(or 政治化する)」、こういうのは貿易紛争でよくある泥沼ケースです(米国、EUもよくやる手口です。)。

 

 被災地の漁業従事者の方のお気持ちを察すると、韓国には「どうせ上訴しても勝てないんだし、取っている措置自体が韓国国民の健康や安全との関係で根拠が薄いのだからもう止めてくれないかな。」と言いたいです。ただ、直感的には本件は長引きそうな気がします。