今国会も話題になった「モリ・カケ」について、思う事を書いておきます。

 

 まず、モリについてですが、あれは私の目には「筋の悪い支持者に安倍総理や夫人が付き纏われただけ」というふうに見えています。籠池氏は多分、極めて強引に「名誉校長」の話を総理夫人にしたのでしょう。断るに断れず、引き受けたら、それを錦の御旗にして財務省に押し掛けたはずです。官僚経験から言うと、総理夫人が名誉校長をやっている案件が持ち込まれたら、さすがに課長→局長くらいまでは行きます。ケースに応じて、次官→大臣まで上げていくでしょう。大体、籠池氏に理財局の担当室長が会うことなど、普通はあり得ない事です。それが可能だったのは、「名誉校長」の話があったからです。

 

 勿論、「忖度」が大いにあったはずです。ただ、それは「強引に総理夫人を名誉校長に押し込んだ」、「そして、それを錦の御旗にして財務省に押し掛けてきた」という2つの要素があったからです。「官邸と面倒は起こしたくない」と官僚が忖度するのは、ある意味当然です。ただ、あまりに案件の筋が悪いので、財務省側の「忖度」の仕方が極めて強引であったという事でしょう(というか、相手が相手だけに「忖度」の仕方で無理をせざるを得なかった。)。個人的には、佐川前理財局長にはちょっと同情しています。

 

 逆にカケの方が、本質的な所で遥かに筋悪です。まず、「獣医師全体には不足はない」、「問題は公務員獣医師の不足であり、それは処遇改善で臨むべき」というこれまで通用してきた理屈に何ら反論できていません。これから日本全体のペットの数は減っていきます。なのに、獣医師の総数を増やすという政策は無理があるという事です。公務員獣医師を増やす政策に努力を傾注すれば足りる話のはずです。

 

 なので、獣医学部を新設するために必要な「石破四条件」が閣議決定されたのです。簡単に言うと、「これまでどの大学でも取り組みがなされていない新しい分野への需要が明らかになってくるのであれば、そういうものに対応する獣医学部の設置はOK」というようなものです。たしかにこれであれば既存の獣医師養成課程と齟齬を来たす事はありません。よく出来た条件だと思います。

 

 しかし、その四条件は全く満たされてはいません。そもそも新しい分野への需要がどの程度あるのか、それは例えば東大農学部、京大農学部、北大農学部等の増員でやれないのか、そういう調査はしたのか、といった事について、はっきりとした話を聞いた事がありません。なのに、いきなり日本最大規模の獣医学部を作ろうというのです。

 

 更には、国会審議ではあまり言われていませんが、学校法人加計学園が作っている大学の中には、数年前に文部科学省から「教育内容に問題あり」とお叱りを受けた大学があります。その指摘内容とは「『英語Ⅰ』『基礎数学』など大学教育水準とは見受けられない授業科目があることから、大学教育の質の担保の観点から、適切な内容に修正するか、または正規授業外でのリメディアル教育で補完すること。」といったものでした。具体的には、英語の授業であれば「be動詞、過去形、進行形」からスタート、数学の授業であれば「割合(百分率)、小数、四捨五入」からスタートだったそうです。既存の大学でその状態だったのに、新規設置の大学で東大農学部、京大農学部、北大農学部ですらやっていない新しい分野での獣医師育成が出来るでしょうか。予断を持つことはいけないのかもしれませんが、普通に考えて無理でしょう。

 

 多分、加計学園の獣医学部を卒業する方は、石破四条件が想定したような新しい分野の研究者や獣医師にはなっていかないでしょう。となると、供給されてくるペット専門の獣医師の数が増える事になります(公務員獣医師の増もある程度は見込めるでしょうから、そこはプラス要因です。)。となると、上記で書いたように、今後、ペットの数が全体として減る中で獣医師過剰になる可能性があります。

 

 これについて、山本地方創生担当相が、私との質疑で面白い事を言っていました。今の獣医学部の定員は930人だが、実際に入学しているのは1200人程度居るそうです。今回の加計学園による獣医学部新設で増える獣医学部の学生数の調整弁をここに求めるのではないかと私は思っています。つまり、既存の獣医学部に「定員を厳格に守れ」と言い渡し、既存の大学が定員に少し上乗せしていた分を切り捨てる事で、加計学園の定員を吸収しようとするのではないかと思います。

 

 ただ、何故、ここまでトリッキーな事をしてまでも、加計学園に便宜を図ったのかと言えば、誰がどう見ても、官邸の介入があります。すべてのプロセスが強引なのです。それでも理屈が通っているのであれば、まだ、理解しますが、全然理屈が通らない事ばかりでした。これは単なる「忖度」のレベルを超えた「利権」の話だと思います。「今年1月20日に特区決定がなされるまで、加計学園がそういう申請をしている事を知らなかった。」、総理のこんな白々しい嘘を真に受ける人は居ないでしょう。

 

 そういう意味では、国会論戦でモリの方ばかり注目が集まるのは違和感があります。本質的に筋悪なのはカケの方です。ただ、これは「役者」の違いなんでしょうね。モリの方が役者が面白い、その一点なんだろうなと思って見ています。