外国人による国内の土地所有に対する懸念が長らく表明されています。これを制限してはどうかという議論については、私自身、7年前くらいに検討してみた事があります。
 
 結論から言うと、「残念ながら現行の国際条約上、外国人による土地の取得そのものを禁止、制限することはほぼ無理。」ということです。これまでの投資協定、自由貿易協定、WTOサービス貿易協定でその手の投資を内国民待遇(日本人と同じ待遇を約束する)から除外していないのです。関係する協定のすべてを調べたわけではありませんが、多分、殆どやっていないと思います。
 
 サービス貿易の自由化については、ポジティブリスト方式(自由化の対象を列挙する方式)とネガティブリスト方式(自由化の対象としないものを列挙する方式)がありますが、それぞれの日本の約束表を見ても土地の取得に制限的な留保をしているものは殆どありません。
 
 上記で「殆ど」と書きました。実はネガティブリスト方式の部分で「外国人土地法」が除外されています。大正14年に作られた法律であり、今でも有効な法律です。
 
【TPPにおける外国人と地方の除外の記述(抜粋)】
● 概要 国境を越えるサービスの貿易及び投資
● 政令により日本国における外国人又は外国の法人による土地の取得又は賃貸借を禁止し、又は制限することができる。ただし、日本国の国民又は法人が、その外国において、同一又は類似の禁止又は制限を課されている場合に限る。
● 現行の措置 外国人土地法(大正十四年法律第四十二号)第一条
 
【外国人土地法】
第一条 帝国臣民又ハ帝国法人ニ対シ土地ニ関スル権利ノ享有ニ付禁止ヲ為シ又ハ条件若ハ制限ヲ附スル国ニ属スル外国人又ハ外国法人ニ対シテハ勅令ヲ以テ帝国ニ於ケル土地ニ関スル権利ノ享有ニ付同一若ハ類似ノ禁止ヲ為シ又ハ同一若ハ類似ノ条件若ハ制限ヲ附スルコトヲ得
 
 読みにくいですが、上記に趣旨は書いてあります。この法律については、例えば、ネガティブ方式を採用する自由貿易協定の代表であるTPPにおける自由化の対象から除外されています。
 
 しかしながら、既に(世界全体で通用するルールである)WTOサービス貿易協定で、特段の理由を付けずに不動産の取得又は賃借に制限を付さず内国民待遇を認めている事から、今から外国人土地法第一条にある政令(法令上は勅令)を作って発動する事が極めて困難なものです。なので、法律としては生きているものの、発動する事が事実上出来ないものです。TPPにおける除外の効果は殆ど無いと言っていいでしょう。
 
 仮にこの法律を何とか再発動させようとしても、WTO協定を始めとする各種協定における安全保障上の例外にでも当てはまらない限りは発動出来ないでしょう。しかし、一般的に通商の国際協定では安全保障上の例外は要件が極めて、極めて厳しいです(WTO紛争解決処理の過去の判例を見ても、相当に厳しい事が分かります。)。
 
 そもそも、投資協定にせよ、自由貿易協定にせよ、既存の自由化に上積みするものであり、今よりも自由化を下回る内容の協定を作る事自体がほとんど想定されていません(したがって、外国人による土地取得を今よりも広範に自由化から除外する主張を、例えばTPP交渉で日本はしていないと思います。)。
 
 では、諸外国、特に中韓はどうかと言うと、ちょっとショッキングかもしれません。韓国との間にある日韓投資協定では、日本は外国人土地取得を自由化(内国民待遇、最恵国待遇)から除外していませんが、韓国はすべて除外しています。日中韓の間の投資協定では、「今、ある規制よりも自由化を後退させてはならない(内国民待遇)。投資国間の差別についてもOK(最恵国待遇)。」という感じになっています。そして、今ある規制の中に、恐らく外国人を除外するようなものが両国にはあるでしょう。ザックリ言えば、それは今後も維持しても構わないという事です。一方で日本はすべてそれらの可能性が封じられています。規制強化派の方からすると納得いかないでしょうが、そういう約束を日本はしているという事です。
 
 それでも、禁止する法律を作るのであれば、①国際条約違反となることを無視するか、②国際条約改正交渉をやるかのどちらかしかありません。私は①を排除するつもりはありませんが、それでは内閣法制局が首を縦に振らないでしょうから政府提出法案では無理です。議員立法として提出する事は可能ですが、最後、国際条約違反である責任を誰が取るのかという事になります。では、②はどうかという事になります。既に合意した関連諸協定すべての条約改正交渉を求められます。それはそれは大変な作業です。30弱の条約を改正しなくてはなりませんし、日本の自由化コミットメントが下がるわけですから、相手国からは対価を求められます(日本が土地取得で自由化を後退させるなら、何か別の所で追加的な自由化をしろと言われる。)。そして、それはすべて国会承認を要します。気が遠くなる作業です。
 
 本件が色々と懸念を惹起する中、真の意味で盛り上がりを見せないのは実はこういう背景があります。ただ、個人的に思考を巡らせてみて、取得そのものを制限する事は難しいけども、それ以外の所でルールを作ることは出来ないのかなと思います。取得の過程において申告を要件付けるとか、少し迂遠な方法で緩やかなプレッシャーを掛ける事は不可能ではないと思います。
 
 投資協定や自由貿易協定から、外国人による土地取得を見ていくとこういう感じになります。それが良いのか、悪いのかはともかくとして。