先日、「ミサイル迎撃」という題でエントリーを書きましたところ、とてもアクセス数が多かったです。とても法技術的な話ではありましたが、関心が高いのだなと思いました。

 

 ご指摘の中で「高高度のミサイル迎撃など不可能」等のご指摘がありました。その通りです。技術的に難しい事までをもやるべきとまでは、私は言っていません。ただ、少し見方を変えると法の陥穽が見えやすくなります。

 

 もう一度、今のミサイル防衛についての法制度上の可能性について述べると以下のようになります。

 

① 防衛出動:個別的自衛権

② 存立危機事態:集団的自衛権

③ 破壊措置命令:防衛出動が発令されていない時点での破壊措置命令

 

 ①は既に個別的自衛権を発動しているケース、②は集団的自衛権を発動しているケースです。いずれにせよ、「武力攻撃」により「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」です。①はとんでもない状態に既になっていますし、②はそうそう起きる話ではありません。

 

 問題は③です。自衛隊法第82条の3に規定があります。


(弾道ミサイル等に対する破壊措置)
第八二条の三 防衛大臣は、弾道ミサイル等(弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のものをいう。以下同じ。)が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等を我が国領域又は公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。

 

 上記の太線のように、かなり限定されています。

 

 では、こういう事態を想定してみましょう。北朝鮮が「高知県沖25キロの所(領海外)にミサイルを落とす。」と発表して、日本の上空を通る形でミサイルを発射する場合を想定してみます。最近の北朝鮮のミサイルの精度はかなり上がっています。誤差については色々な見方がありますが、数メートル~数十メートルという話も聞いた事があります。発表通りに実施する能力があるかもしれません。

 

 沖合25キロの地点は既に領海ではありません。したがって、仮にそこで漁をしている人が居たとしても「我が国領域における人命又は財産に対する被害」は生じません。発表通りであれば、自衛隊法第82条の3は発動が困難です。勿論、精度に疑義を表明して「我が国に飛来するおそれ」があると認定して、ミサイル防衛をする事は可能ですが、では、沖合50キロの地点だったらどうかという事になります。「おそれ」を認定する事すら難しくなってきます。

 

 そうすると、「領海においてはそうかもしれないが、排他的経済水域における権利を侵害しているのではないか。」という指摘があるでしょう。私も同じ事を思い、外務委員会で岸田外相に聞いています。

 

【衆議院外務委員会(平成29年03月10日)】

○緒方委員 (略)まず、昨日、安保委員会で岸田外務大臣に、私、済みませんでした、通告なく質問させていただきましたが、北朝鮮の弾道ミサイルが日本のEEZに落ちたということについて質疑をさせていただきました。

 国連海洋法条約では、排他的経済水域そして大陸棚には主権的権利というのが認められています。主権ではないですけれども、主権的な権利という非常に微妙な言葉が使われているわけでありますが、今回日本のEEZにミサイルが落ちたことによって、私は、実は、日本の主権ではない、だけれども主権的権利というものが侵害をされたのではないですかというふうに、昨日お伺いしました。
 通告がありませんでしたので、きょう再度お伺いをさせていただきます。岸田大臣、いかがお考えでしょうか。

 

○岸田国務大臣 昨日、委員の方から御質問をいただきまして、改めて私も国連海洋法条約を確認してみました。
 そうしますと、国連海洋法条約五十六条の一に、沿岸国はEEZにおいて天然資源の探査、開発、保存及び管理等のための主権的権利を有している、こう記されています。要は、この主権的権利とは、天然資源の探査、開発、保存及び管理、こうしたことを行うことを指していると承知をします。そして、その上で、今度は五十八条の三には、他国のEEZにおいて、沿岸国の権利及び義務に妥当な考慮を払わなければならない、こうした規定が設けられています。

 そして、委員の御質問は主権的権利が害されたかどうかということだと思いますが、要は、この条約上、軍事訓練が行われたとしても、妥当な考慮が払われていたならばそれは可能であるとされています。EEZ内で軍事的な訓練を行うということは、これは先ほど言いました天然資源の探査、開発、保存及び管理といったこの権利を害するかどうか、これは判断が大変難しいものがありますが、そうだとしても、条約上は、妥当な考慮が払われていればそれは可能であるというふうに解釈するべきであると承知をしています。

 そして、今回の北朝鮮によって発射された弾道ミサイル、我が国のEEZ内に落下したわけでありますが、これは、何らの事前通報もなかったことを鑑みれば、我が国の権利及び義務に妥当な考慮を払ったとは言いがたい、このように考えるべきであると考えます。

【引用終わり】

 

 この後ももう1往復やり取りをしていますが、なかなか、排他的経済水域へのミサイル発射を「主権的権利の侵害」とまでは言ってくれませんでした。あくまでも「妥当な考慮」が無かったで止まっています。

 

 これらをすべて併せて考えてみると、日本の領域に落ちる可能性が無いミサイルについての法の陥穽は明らかだと思います。法律上、対応するためのツールが無い、あるとしても「我が国に飛来するおそれ」と「我が国領域における人命又は財産に対する被害」を認定しない限りは無理です。常にそれが可能だとも思えません。そして、それは「高高度のICBM」の話のみならず、日本近海でも起こり得る話です。

 

 日本近海に落ちる可能性のあるミサイルが日本上空を通っているのに、対応が極めて困難な法制度は見直したほうがいいと思います。