北朝鮮のイカ釣り漁船が、日本の排他的経済水域内にある日本海中央辺りの大和堆の所で大量に出没して海上保安庁がこれを排除したニュースがありました。これ自体は当然の事なのですが、一件とても気になった事がありました。

 

 それは「大和堆の地域は日韓漁業協定の暫定水域に入っていたはずだが、その辺りの整理はどうなっているのだろうか。」という事です。本件について調べるために、「今回取締りを行った場所は日韓漁業協定の暫定水域内ではないか。」という問い合わせを水産庁、外務省、海上保安庁にしてみました。現時点での結論を言うと「たらい回し」状態です。ヒドいよなあ、とちょっと怒っています。

 

 日韓漁業協定では、竹島の周辺の扱いで紛糾した事から、竹島を含む地域について暫定水域を設定して、その水域内では両国がそれぞれのルールに従い操業する事になっています(イメージ図)。つまり、日本は日本漁船について取締り、韓国は韓国漁船を取り締まるという形です。実はこの暫定水域内での操業実態は、韓国側のやりたい放題に近い所があり、蟹かご等が大量に設置(+放置)されて資源状況が悪くなっている海域がかなりあります。

 

 実は日韓漁業協定の交渉過程で、この暫定水域を何処までとするかについて激しい交渉がありました。絶好の漁場である大和堆を含めるよう韓国側から強い要望があったため、最後、大和堆の部分を含めることで合意しました。イメージ図でいうと、東側の上部三角形になっている部分です。結果として、韓国にかなり有利な状態で暫定水域が設定されています。日韓漁業条約の国会審議では、本件について指摘がなされ、当時の高村外相は「ぎりぎりの合意」と述べています。

 

【平成10年12月11日衆議院外務委員会】

○高村国務大臣 日本側としては、可能な限りこれ(緒方注:大和堆)を暫定水域に含めない方向で鋭意韓国側と協議を行ってきたわけで、日本側としてこれの必要性があったわけではもちろんないわけであります。暫定水域の範囲は、そういう中で日韓間の協議の結果、大和堆の一部を暫定水域に入れることも含めて交渉全体をパッケージとしてまとめる上でぎりぎりのものとして合意されたものであります。(略)

 

 上記にも書きましたが、暫定水域内では日本が韓国漁船を直接取り締まる事はありません。勿論、日韓漁業協定については日韓の協定なので、北朝鮮漁船の操業取締りについては、排他的経済水域の判断の基礎となる日朝中間線で判断すべきものです。ただ、大和堆の一部地域においては、韓国漁船については(事実上やりたい放題で)取り締まらず、北朝鮮漁船のみを取り締まるという状況になっているのが、現場に居る海保の対応に影響してはいないかなという問題意識が私の中にあります。

 

 しかも、この海域はロシアも絡んで中間線の状況がとても入り組みます。何か分かりやすい図は無いかなと探してみたら、こういうものが見つかりました(なお、この図にある「帰属」の話で私は当然竹島の帰属は日本だと思っている事を申し添えます。)。そして、日本の制度上、北朝鮮との中間線関係で「何か」を放置してある部分が存在した記憶があります(記憶が定かではないのですが、たしか線を引けてない海域があったのではなかったかと思います。)。韓国、ロシア、北朝鮮からどうやって線を引くかで、なかなか確定が難しい海域があるという事です。

 

 日韓漁業協定については、(暫定水域ではなく)互いの排他的経済水域での操業について条件が折り合わないまま、1年以上続いています。日本側の関心は済州島周辺のサバ漁、韓国側の関心は長崎沖でのタチウオ漁に関心が強いのですが、韓国漁船の立ち振る舞いの悪さがあるため、交渉にすら応じ難い状況のようです(私のブログ新聞記事をそれぞれ参照)。

 

 現在はこれらの互いの排他的経済水域での操業の所に注目が集まりますが、今日のエントリーで書いたように、日韓漁業協定の暫定水域内にある大和堆周辺での漁業実態と、それに伴う韓国、北朝鮮(+ロシア)の関係もよく注目しておく必要があるという事で一文書きました。